道路構造物ジャーナルNET

⑭防護柵の重要性~重大事故を教訓として~

現場力=技術力(技術者とは何だ?)

株式会社日本インシーク
技術本部 技師長

角 和夫

公開日:2020.11.01

(3)福岡市海の中道大橋中央部付近での車両追突と落下死亡事故

 当時、日本中のマスコミを大いに騒がせた現役福岡市職員が起こした重大事故。本件事故については、事故直後に福岡県サイドからの問い合わせがあったため紹介する。なお、事故等の詳細については、2006年9月29日の福岡市の記者発表資料を抜粋して以下に紹介する。
①事故概要
  ・日時  2006年8月25日(金) 22時50分頃
  ・場所  福岡市東区臨港道路(福岡市港湾局管理)
「海の中道大橋」中央付近(図-2に位置図、写真-4に事故現場の写真(現況)を示す)
  ・発生状況
    車両同士の衝突→5人乗りの乗用車(RV車)が歩道を乗り越える→防護柵を突破
    →約15m下の博多湾に転落(当時水深約6m)
  ・被害  追突された車に乗っていた子供3名が死亡(溺死)
  ・事故原因 追突車は80km以上の速度(制限速度50km/h)、飲酒運転、前方不注意
  ・道路横断構成と防護柵設置状況

②基本情報(道路構造等)
 ・供用  2002年10月
 ・線形  見通しの良い直線
 ・車線数 2車線(片側歩道)
 ・車道幅員 3.25m(4種1級)
 ・歩道幅員 4m
 ・設計速度 60km/h(制限速度50km/h)
 ・縁石高さ 20cm  

③福岡県からの問い合わせ内容(北九州空港連絡橋設計者として)
 福岡県からの問い合わせ内容を要約すると次の通り。
 「海の中道大橋の事故を受けて、同様な海上橋で片側歩道を設置する場合の歩車道分離構造の考え方の如何」ということであった。北九州空港連絡道路は、歩道併設の(地域高規格)道路であり、海上に建設された道路としては海の中道大橋と同種ということになる。しかし、北九州空港連絡道路は地域高規格道路であり、将来的には東九州自動車道から苅田ICを経由して北九州空港に直接アクセス出来る唯一の道路である。このため、道路構造令で示す3種1級(設計速度80km/h)とし、歩車道を完全分離するため路肩用防護柵を歩車道境界に設置することとした(図-3及び写真-5,6参照)(当面は、一般県道として時速50km/hで運用)。

➃設計者が考えるべきこと
 海の中道大橋の事故を契機として、防護柵設置基準が改訂された。「防護柵設置基準・同解説」(H20.1)(日本道路協会)の歩道が併設される橋・高架における車両用防護柵設置の必要性の判断要件に2項目が追加された。判断要件を以下に示す。
 ・転落車両による第三者の二次被害が発生する恐れのある場合
 ・線形が確認されにくい曲線部など、車両の路外逸脱が生じやすい場合
 ・地域の気象特性等によって路面凍結が生じやすくスリップ事故が多発している場合
 ・橋長が長いなど、走行速度が高くなる恐れのある場合
 ・歩道幅員が狭い、又は縁石高さの低い場合

 参考として、「防護柵の設置基準・同解説(平成16年3月)(日本道路協会)、「片側歩道の橋梁、高架での設置の考え方」(下図)を示す。

 設計者は、会計検査院が怖いから基準通りに設置したがる。しかし、本当に重要なのは現地条件を熟知した道路管理者が適宜判断を加えながら必要な安全対策を講じ、施設を設置することである。私が設計した北九州空港連絡橋では、将来の道路運用(苅田IC直結、設計速度80km/h)を加味して、完全歩車道分離構造とした。海の中道大橋は、現地条件(直線による速度オーバー、海上への転落等)を考慮して、完全分離の歩車道防護柵の設置が必要ではなかったろうか。

3ページ目 (4)しまなみ海道 伯方島内トラック衝突炎上事故

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