道路構造物ジャーナルNET

⑭ たわみで問題となった桁

次世代の技術者へ

土木学会コンクリート委員会顧問
(JR東日本コンサルタンツ株式会社)

石橋 忠良

公開日:2020.10.01

 今回は桁のたわみなど、変形についての話をします。これは特に高速鉄道の問題で、道路ではあまり問題とならないテーマかもしれません。鉄道は運転手が、車両が異常に振動したりすると、すぐに指令という運行のコントロールセンターに報告がされます。その場合、徐行の処置がとられたり、すぐに原因調査が行われます。直接には、車両の異常や、軌道の変位が原因のことが多いのですが、軌道の変位のもとは構造物の変位であることもあります。構造物の変位が高速走行に影響を与えた事例を今回は紹介します。

1.アルカリ骨材反応で桁がそり上がった例

 アルカリ骨材反応の話の時に一度紹介しました。
 新潟地区の新幹線は、冬は雪が多いので、線路にお湯をまいて雪を溶かしています。溶かした雪は水となり高架橋上を流れて回収されます。そのため冬は、スラブ上は常時湿潤状態となっています。この付近の構造物にはアルカリシリカ反応を起こしているものがあります。アルカリシリカ反応が生じるには水の存在が必要です。スラブ上面が常時冬の間湿潤状態となっていることで、スラブ上面からアルカリシリカ反応が進行しています。
 PC桁が連続している箇所もあります。その桁が毎年反り上がり、軌道を修正し続けていました。大きく反った桁では、締結装置の交換では対応できずに軌道スラブの据え付けをし直すなどの対応をしていました。
 原因は、アルカリシリカ反応が桁の上部から進行しており、その部分が膨張することで、桁として上に反っていたのです。アルカリシリカ反応が上スラブからウエブの上部にまで進んできているのが、冬に桁の外面を見るとわかります。外面に、アルカリシリカ反応の生じている範囲は水が浸透してゲルが出ているので、上の方が黒く光って見えて、下はコンクリートの色を保っています。中立軸付近まで反応が進んできたら、それ以降は、あまり反りは生じないと思っています。
 PC鋼材の定着付近がしっかりしていることが桁の安全には大切なので、そこはしっかり観察を続けることが必要です。


写真-1 アルカリシリカ反応によるPC桁のそり

2.斜材の色が黒のため、昼と夜で斜材の長さの変化が大きく、高速走行ができなかったPC斜張橋

 第2千曲川橋梁は新幹線で初めてのPC斜張橋です。最初の斜材は黒のポリエチレン管でした。完成した後に、試運転が行われます。この上を走る車両の動揺が大きく、軌道を修正するのですが、動揺が収まりません。原因は、昼には斜材が伸びて桁が下にたわみ、夜は斜材が縮まり、桁が上に反るので、軌道での修正で対応ができなかったのです。
 斜材の温度変化を減らさないと高速走行ができないということで、黒の斜材の上から再度白のカバーをすることになりました。この写真-2が今の状況です。斜材の色は白になっています。


写真-2 PC斜張橋の第2千曲川橋梁(斜材の色は黒から白に)

3.鉄桁の上フランジと下フランジの温度差で、桁が大きく変形して新幹線に動揺 (東北新幹線の下路鉄桁)(構設資料No.81、No.84より)

 東北新幹線の沼辺橋梁は複線道床式下路プレートガーダー(4×49+2×44+1×39m)です(写真-3/図-1)。


写真-3 東北新幹線沼辺橋梁

図-1 沼辺橋梁

 この橋梁でも列車動揺が問題となりました。その解決策として当初軌道にキャンバーを付けて対応しました。キャンバー量は1cm程度としています。半年程度は動揺も少なくなりましたが、時間とともにまた動揺が増加してきました。
 軌道のキャンバーを維持するのが難しいことと、夏に特に動揺が大きくなることから夏には反りが大きくなることが想定されました。夏は日差しが強く、桁の上面の温度上昇が大きくなり、適正キャンバーよりも大きなキャンバーとなることが原因と考えられました。
 この問題を解決するには桁の上下縁の温度差を小さくすることが必要と判断し、桁上面に断熱材を施工しました。この断熱材施工により、昼夜のたわみの変動を±4mm程度に抑えることができ、軌道キャンバーとの組み合わせで動揺は改善されました。写真-4は断熱材施工後の状況です。図-2は桁断面です。


写真-4 断熱材を施工し、その上を亜鉛メッキ鋼板で防護

図-2 桁断面と各種計測位置

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