道路構造物ジャーナルNET

⑬ RC桁の曲げひび割れと乾燥収縮

次世代の技術者へ

土木学会コンクリート委員会顧問
(JR東日本コンサルタンツ株式会社)

石橋 忠良

公開日:2020.09.01

5.死荷重と活荷重

 鉄道のRC桁の、全荷重に対する死荷重の比率は、スパン5mで0.4、スパン10mで0.5、スパン20mで0.6程度となっています。図-6は、スパンと死荷重の全設計荷重に対して占める割合を、既設の設計結果から示したものです。スパンの大きな桁になるほど、全荷重に占める死荷重の比率が大きくなります。RC桁ならば10mを超えると半分は死荷重となります。スパンが大きくなるほど、活荷重が載荷する前の時点で、活荷重以上の荷重に耐えられたことを示していることになります。死荷重の割合が大きいと、活荷重が載る前に載荷試験が行われているとも考えられ、ある程度の安全の確認がされているともいえます。


図-6 死荷重による断面力(MD)の全荷重(M)の断面力に対する割合

 スパンが長いRC桁は、ひび割れ幅が大きくなりすぎてその補修に苦労した事例が多くあります。設計での鉄筋の応力度は、死荷重+活荷重に対して許容応力度が決められ設計されていました。スパンが大きくなると死荷重の割合が大きくなります。そのため、早期に大きな応力度になることで、ひび割れが早期に入りやすい傾向にあります。トータルの荷重に対しては同じ応力度ですが、早い時期に大きな応力度になることと、常時、大きな応力度を生じていることの影響で、スパンの長いRC桁はひび割れが大きくなりやすいのです。

6.ひび割れ幅の計算精度を上げるのは難しい

 設計で、耐力の計算の精度は高いが、たわみや、ひび割れなどの計算は実構造物と合わないことが多いようです。たわみは、桁剛性と弾性係数が関係します。鉄道だと、軌道や防音壁などが桁剛性に大きく影響します。
 ひびわれも、基本となるコンクリートの乾燥収縮が、使われる骨材によって異なっており、また施工工程によってひび割れの発生時期も異なります。計算はある施工条件下でのもので、実際の施工はそれと異なるのが普通なのですから、ひび割れ幅の計算は目安として扱うのが良いでしょう。
 和歌山県に建設された垂井橋が、PRC構造で設計され、ひび割れと変形で問題となり長期の計測が行われました。その結果、今は問題ないということで使用されています。鉄筋が多い構造で、鉄筋拘束の影響が大きく、プレストレス力がコンクリートに十分に入らず初期にひび割れが入り、乾燥収縮がひび割れ幅を大きくしたのだと思っています。
 ここで用いられた骨材でのコンクリートの乾燥収縮度は1200μmという大きな値でした。関東などの多く使われているコンクリートの乾燥収縮度は600~800μm程度が多いようですので、この橋梁に使われたコンクリートの収縮の大きかったことも影響したのだと思います。

 RC構造でもひび割れが生じると、いろいろと問題になります。設計で発生が認められているひび割れも、その幅が大きいと補修をすることになります。計算でひび割れ幅を求めますが、材料の収縮も大きくばらついており、計算と合わないことは不思議ではありません。
 ひび割れを小さくしたいなら、構造形式でPCやPRCを選定するか、RCならスパンを短くするかという選択が良いでしょう。材料や施工工程を管理しきれない通常の施工では、ひび割れ幅を計算しても、計算と合わないことを承知の上、大きすぎたひび割れは補修すると割り切ることが賢明でしょう。
 マンションの場合は、ひび割れが大きな問題となるのでできるだけ生じないように、建設会社によっては、コンクリートに使う骨材を収縮の少なくなるものを選んでいるという話も聞いています。

【参考文献】
1)松岡和夫、吉野伸一;膨張コンクリートの橋げたへの応用、コンクリート工学、Vol.19,No.2,1981
2)石橋忠良、吉野伸一;ひび割れ低減コストと補修コスト、コンクリート工学、Vol11,No11,1982、(社)日本コンクリート工学協会
3)石橋忠良、吉野伸一、松田美夫;膨張コンクリートおよびPRC構造によるRCけたのひびわれ制御対策、橋梁、Vol.22,No.2,1986年、橋梁編集会
4)石橋忠良、浦野哲司;PRC桁の実橋測定とその考察、プレストレストコンクリート、Vol.29,No.2.1987、(社)プレストレストコンクリート技術協会
5)石橋忠良、北後正雄、吉野伸一、斎藤啓一、松田猛;RCラーメン高架橋の温度?乾燥収縮の影響に関する調査(1)、構造物設計資料、No77,1984、(社)日本鉄道施設協会
(2020年9月1日掲載。次回は10月1日に掲載予定です)

石橋忠良氏【次世代の技術者へ】シリーズ
①私の概歴
②鉄道建設の歴史
③アルカリ骨材反応
④アルカリ骨材反応(2)
⑤アルカリ骨材反応(3)
⑥コンクリートの剥落
⑦新設構造物のコンクリートの剥落対策
⑧塩害(海砂、飛来塩分)
⑨道路 PCグラウト
⑩支承部の損傷
⑪基礎の移動、沈下、地下水の変化による構造物への影響
⑫構造物の欠陥との付き合い

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