鉄筋コンクリートは、ひび割れの発生を前提にしている構造なので、ひび割れが生じるのは当然です。とは言いながら、大きなひび割れが生じるといろいろと問題となります。
鉄筋コンクリート桁とPC桁では同じスパンの25m程度で比較するとRC桁のほうが経済的になります。これは国内の積算体系での比較です。そのようなコストの面から、RC桁の最大スパンは25m程度まではつくられてきました。ひび割れが問題とならなかったものも、またひび割れが多く入り、補修に苦労したものもあります。
先輩でひび割れが入りすぎた経験をしてきている人は、25m程度のスパンの長いRC桁の計画を避けてきています。設計計算では問題なく設計が成り立つのですが、設計ルールが不十分な面があり、ひび割れ幅が大きくなることを十分評価できてこなかったのだと思います。安全性の問題はないのですが、大きすぎるひび割れは耐久性や見栄えからも嫌われ、また不安を抱かせるのでしょう。今回はRC桁の曲げひび割れについて話します。
1.先輩から、RC桁のスパン25mの計画を変えるように指示される
私は、1975(昭和50)年頃は仙台の新幹線の建設を担当する組織にいました。私が新幹線高架橋の市街地の構造計画を担当して、当時の上司に説明に行きました。市街地なので桁式構造を計画し、スパン25mのT型桁での高架の計画をしました。
その時の上司から「スパン25mはだめだ、もう少し短くしろ」と言われました。上司は過去の経験でスパン25mのRC桁で、ひび割れの補修に苦労したからでした。しばらく粘りましたが、上司から絶対ダメだと言われ、計画を直しました。
スパン25m程度のRC桁はそれまでも施工されていました。問題を起こしたものも、問題のないものもあります。その後調査して、桁高の高いものは問題が少ないこともわかりました。いずれも支保工を撤去した時点の自重で早期に初期ひび割れを入れるかどうかが影響しているようです。
2.ひび割れの補修で苦労したRC桁
2.1 移動支保工でのスパン25mの新幹線のRC箱型桁
東北新幹線建設の頃、いろいろな施工法が採用されていました。当時、移動支保工を使っての桁の施工も行われていました。首都高でも多く採用されていたと記憶しています。新幹線工事でも、岩手県の市街地や、仙台市の北部で採用されていました。鉄道構造物は経済性からラーメン高架橋が多く、桁式は少ないのですが、当時新幹線の騒音と地盤振動に対しての対策が大きな問題でした。市街地では地盤振動を減らすために、桁式高架橋が有利と言われ、計画されました。
岩手県では、盛岡市内、一関市内、北上市内などで延長約8㎞にわたり、同じ型枠が使えるように、箱型断面でPC桁もRC桁も連続して施工できるように設計でも配慮され、5種類の移動支保工が採用されていました。写真-1はそのうちの1種類の移動支保工の施工状況です。
写真-1 移動支保工による桁の施工
移動支保工で施工する桁は、RC桁はスパン20~25m、PC 桁はスパン28~35mで、桁高はすべて2.2mで統一され、設計図ができていました。この中で、スパン25mのRCの箱型桁に大きなひび割れが多数入り、その対策に数年間対応しました。施工会社も数社あったのですが、いずれの会社の施工でも幾分の違いはありましたが、大きなひび割れが生じました。
その後の仙台地区の移動支保工での同種のスパン25mの桁(写真-2)の施工にあたっては、初めにいくつかの対策を試みた結果、残りの桁には効果のはっきりと出た対策の膨張剤を用いて施工し、何とか補修しないレベルのひび割れに収めることができています。なお、膨張剤のほかには、支保工撤去時期をコンクリート打設後4日から7日程度に延ばしたり、コンクリートの単位水量を減らしたり、ひび割れ防止筋をウェブに追加するなども試みていますが、あまり効果は見られていません。1)
写真-2 移動支保工で施工したRC桁(東仙台高架橋)
移動支保工は15日程度で次のスパンに動かすため、コンクリートの型枠は打設後4日程度で外すことになります。表-1に移動支保工の標準的な工程を示します。
表-1 標準的な工程1)
脱型と同時に支保工もなくなるので、この時点で桁に自重が作用することになります。この時、桁下面の縁応力度が、コンクリートの引張強度より小さいと、曲げひび割れが入ります。その時点では、ひび割れ幅は十分小さいのですが、そのあとのコンクリートの乾燥収縮で、ひびわれ幅が大きくなります。仙台地区の最初に施工した無対策のRC桁のひび割れ状況を図-1に示します。脱型後4日目と約1年後のひび割れの状況です。
図-1 移動支保工を用いた東仙台高架橋の無対策の桁のひび割れ2)
ひび割れが入った後での乾燥収縮は、ひび割れ幅を大きくするのみに働きます。コンクリートの引張強度が、桁下面の自重での縁応力度以下でしたらひび割れは入らずに、コンクリートのクリープにより、引っ張り応力度は緩和、低下して鉄筋に引っ張り力は移っていきます。このクリープによる応力緩和と、コンクリートの乾燥収縮の鉄筋拘束による引っ張り力がコンクリートの引張強度とバランスすると、ひび割れを生じないで、鉄筋に引っ張り力が移っていきます。
これとは逆に、材令初期にひび割れを発生させると、ひび割れ間でコンクリートが収縮し、その後のひび割れ幅はどんどん大きくなります。仙台地区での施工では途中から膨張剤を用いたことで、コンクリートの縁応力度を減らしたことと、コンクリートの伸び能力が大きくなったことで、ひび割れ幅の増加を抑えられたのだと思います。
移動支保工のRC箱型桁のひび割れが大きいということで、盛岡地区のRC箱型桁の調査に、施工が終えたのちに何度か行きました。
ひび割れ幅が0.3mmを超えるものはクラック注入をしていました。1回目のクラック注入の施工後に行ったのですが、箱桁内に入ると、桁内は下床版を貫通したクラックからの光で明るく、ひび割れは桁下面から、ウェブに伸び、上スラブ付近まで伸びていました。
クラック注入した箇所のひび割れは閉じていますが、注入したひび割れとひび割れの間にあった小さなひび割れがその後大きく開いてきているのです。コンクリートの乾燥収縮分が、ひび割れ箇所に集約されるので、乾燥収縮が落ち着くまでひび割れは広がることになります。
耐力的には、鉄筋の定着がしっかりしていれば心配はいらないのですが、再度0.3mm以上のクラックに注入して様子を見ることにしました。その数年後に、さらに開いた別のクラックに注入して落ち着いたようです。支保工を外した材令も若く、箱型桁で床版厚が薄く、すぐにひび割れが貫通して乾燥収縮の進行も速かったことが、ひび割れ幅が大きくなったことに影響していたかと思います。今ではこの桁上を問題なく新幹線車両が通っています。