(9)スタナミック試験(STN試験)の実施
設計の初期段階において比較的容易な急速載荷試験(スタナミック試験)を実施し、洪積層を支持層とする杭の支持力を求めた。この支持力をベースに地盤物性値(N値やC‘,Φ’)の設定を行った。
スタナミック試験は、静的(STATIC)と動的(DYNAMIC)の中間的な特徴を持つ載荷試験法である。試験は、杭頭に取り付けられたシリンダー内の推進燃料(ジェット)を急速燃焼させることによって、杭体を下方に押し込み、その時の荷重―沈下関係を計測することにより杭の支持力を推定するものである。この方法によれば、静的載荷試験のように反力杭を必要とせず、また動的載荷試験のような波動理論からの支持力推定と異なり、実際の杭の抵抗機構に類似している特長を有する。図-11にスタナミック試験装置、写真-2に現地試験状況、図-12にスタナミック試験の杭-地盤系のモデルを示す。試験杭の諸元、載荷荷重を以下に示す。
●杭径 Φ1,500㎜
●杭長 海底面下25m、32m(2箇所)
●載荷荷重 約1,500ton
図-11 スタナミック試験装置(左)/写真-2 現地試験状況(右)
図-12 スタナミック試験の杭-地盤系のモデル
(10)静的載荷試験による妥当性の検証
(8)、(9)により予測した支持力について、2か所(11P及び22P)で実杭による静的載荷試験を実施し、極限支持力を求め、支持力算出式の妥当性について検証した。
(11)コスト縮減効果
当時の試算では、「C‘,Φ’法」の採用により、従来法である道示のN値で設計し、洪積層で支持した場合と比較して2割程度コスト縮減が可能となった。
(12)支持力推定法のまとめ
杭の支持力推定を行う場合、①原位置での載荷試験(信頼性は一番高いが、海上部における静的載荷試験は、非常に高価。今回は経済性に優れ、静的載荷試験に近いスタナミック試験を実施)による方法、②地盤の強度定数C‘及びΦ’を用いた土質力学的に支持力を予測する方法(C‘,Φ’法)、③N値やCPT試験による静的貫入抵抗qc値を用いた半経験的支持力式(道示では、砂質土で0.2N(SI単位系で2N)、粘性土でC又はN(SI単位系でC又は10N)としている)、④打込み杭の管理に用いられる動的支持力式(打込み時の杭の貫入量や打撃ハンマーのリバウンド量及び弾性波動理論により支持力を推定するもので、多くの推定式が提案されている)による方法、が使われている。
北九州空港連絡橋においては、②の土質力学的に支持力を予測する方法(C‘,Φ’法)と①の原位置での載荷試験(急速と静的)により支持力の推定を行った。
この理由は、
①砂と粘土が極めて複雑に分布し、かつ砂と粘土を明確に区別できないような当該地盤にあっては、支持力推定法は有効応力法によるのが最も望ましいと考えられる。
②スタナミック試験の最大荷重は、概ね推定値と一致しており、C’、Φ‘法による支持力推定値をほぼ満足する結果となった。
――ことによる。
(13)当時の裏話
スタナミック試験は、当時の福岡県の職員にとっては衝撃であった。1回の爆発で1億円。されどこれほどの成果をもたらした試験はなかったように思う。
九大の落合先生(当時、地盤基礎工部会長、設計施工委員会委員)(現九大名誉教授)からは、お会いするたびに以下の言葉を頂いた。
「角さん、道示のN値による設計ではダメですよ」、「関空も結局は道示式を抜けられなかった」、「新しい予測式を委員会で作りましょう」と。また、「調査費は事業費の5%くらいは絶対必要ですよね」(同感)と。
当時の委員会後の懇親会の締めでは、県を代表して「九州の技術力を日本、世界に示そう」と、毎回言い続けていたのをつい最近のことのように思い起こす。
(14)最後に
複雑な互層地盤の支持力評価法については、福岡県の新北九州空港連絡橋 技術専門委員会(1996年度からは「設計施工委員会」に改称)の下部組織、地盤・基礎工分科会及び部会において熱心に議論がなされた。
当時の委員は、九州大学の落合名誉教授(当時は、教授)、安福教授(当時は助教授)、東京電機大学の安田教授(当時も同)、元九州共立大学の前田教授、東京工大の日下部名誉教授(当時は、広島大学教授)。
設計を担当するコンサルタントチームは、基礎地盤コンサルタンツ㈱の田上氏、㈱建設技術研究所の松井氏、㈱長大の前田氏、オリエンタルコンサルタンツ㈱の山田氏、㈱構造技術センターの岩上氏、など。
世の中に「しゃんしゃん委員会」は、数多くある。当時の「新北九州空港連絡橋技術専門委員会及び設計施工委員会」、また下部組織の「分科会及び部会」は、産・官・学のメンバーで徹底的に議論をする場であった。
私も25年前、36歳。九州を代表するビッグプロジェクトのまとめ役として参加させて頂いた。
皆さん、機会があれば是非一度、北九州空港連絡橋を見に行ってください。感動しますよ! このプロジェクトについては、次回以降、記事にする予定です。
(2020年8月1日掲載、次回は9月1日に掲載予定です)