(4)地盤状況
1991年度から基盤層(岩盤)の確認と起伏調査のための音波探査を皮切りに、1995年度までに5か年にわたり当該地の地盤性状を詳細に調査(標準貫入試験、静的コーン貫入試験、PS検層、各種室内試験等)した。この結果をもとに地盤の層構成、強度特性、沈下特性、を明らかにした(図-8に地質縦断図を示す)。
架橋地点の地層は、中生代の三郡変成岩類(片岩)を基盤岩とし、その上位に堆積年代が2万年~20万年以前の洪積層が厚く複雑に分布している。地盤状況は、明確な支持層(岩盤)が深い所でTP-70~80mもあり、起伏もかなり激しい。岩盤の上位の下部洪積層は、砂質土と粘性土の互層から成り、層厚も厚く、その層性及びN値の変化が鉛直、水平方向ともに激しく連続性がないため、明確な支持層と判断ができず、道示のN 値から予測する周面摩擦力度は誤差が大きいと予想されるなど様々な問題があった。また、最上層には軟弱な沖積の粘土層(10~15m)が堆積している。
図-8 北九州空港連絡橋 地質縦断図
(5)基礎形式選定におけるポイント
基礎形式は、海上部、かつ地盤が複雑であったことより以下の条件を満足する必要があった。
①水位及び水位差の問題;海上施工で、水深は満潮時11m、干潮時7mであり、干満差4mを考慮する必要がある。
②最上層に非常に軟弱な粘土層(Ac1)が存在する;この層は深度5m程度まで一軸圧縮強度が0.2kgf/cm2以下の軟弱層であり、水平方向及び鉛直方向とも抵抗が期待できない。
③支持層が非常に深い;確実な支持層は、海底面下25~75mの砂質変成岩である。
④中間層の性状が複雑;粘土と砂・砂礫の互層地盤であり、N値が50を超える層もある。
⑤施工時の制約;振動・騒音の制約は特にないが、近傍が牡蠣・海苔の区画漁業権が設定された海域であるため、海水の汚濁は避けなければならない。
(6)支持層の選定
明確な支持層は、深度25~75mに位置する砂質変成岩であるが、①支持層としてかなり深く、基礎形式が限定され、工費が莫大になる、②中間にN値50以上を示す層が存在し、杭基礎の場合、打設性が問題となる。一般的に道路橋示方書で目安とされる支持層は、砂質土でN値30以上、粘性土でN 値20以上もしくは一軸圧縮強度4kgf/cm2以上の層である。図-9にN値の分布、図-10に一軸圧縮強度の分布を示す。この結果に原位置における静的コーン貫入試験(CPT試験)及び(9)で示すスタナミック試験(STN試験)を総合的に評価してTP-30m以深を支持層と決定した。
図-9 N値の分布(左)/図-10 一軸圧縮強度の分布(右)
(7)基礎形式の選定
前項の(5)、(6)及び(8)を元に①仮締切兼用型鋼管矢板井筒基礎、②打込み鋼管杭基礎、③場所打ち杭基礎、④ニューマチックケーソン基礎、⑤地中連続壁式基礎、⑥多柱式基礎、について比較検討した。最終的に、仮締切兼用型の鋼管矢板井筒基礎が施工性、経済性に最も優れており選定した。この基礎形式最終決定にあたっては、本連載の第5回 に記述した通りである。要は、兵庫県西宮大橋の鋼管矢板井筒基礎が震災後の調査で継ぎ手管含め健全であったことを自分の目で確認したことによる。
(8)支持力算出式 -「C‘,Φ’法」の提案-
北九州空港連絡橋の基礎は海上部全体で20基もあることから、支持力推定精度の如何により基礎の安全性、経済性に与える影響が非常に大きい。また、基礎の設計においては、①中間層を支持層としていること、②杭の先端閉塞効果の有無の問題、③地盤が複雑な互層であり、砂と粘土を明確に区別できないこと、から従来のN値等による推定法(道示式)では無理があると考えた。
鋼管矢板井筒基礎の支持力は、①周面摩擦力によるところが大きいこと、②先端閉塞効果が薄く、先端支持力についても摩擦的な考えを導入する必要があること、から豊富な地盤調査により算出された地盤物性値、原位置における静的コーン貫入試験及び鋼管杭を用いた原位置でのスタナミック試験(STN試験)結果等をもとに、「土質力学的に支持力を予測する方法(C‘,Φ’法と称す)」を提案した。支持力推定式を以下に示す。
この予測式に必要な地盤定数を得るため、地盤調査に際しては最適な調査試験法を選択し、十分な情報が得られるような調査密度(数量)を決定した。