(1)はじめに
令和2年5月28日に、本サイトの「現場を巡る」に掲載された「新港・灘浜航路部の2P主塔部において鋼管矢板井筒基礎の杭の鉛直載荷試験を実施」を拝読した。5径間連続斜張橋の主塔基礎で採用が検討されている鋼管矢板井筒基礎の支持力評価のための静的載荷試験である。海上部における杭基礎の支持力評価法については、関西国際空港連絡橋(残念ながら連絡橋の設計係長時代は既に下部工は竣工済み)の事例や26年前に直接携わった北九州空港連絡橋の事例が頭に浮かぶ。
今回の記事は、技術継承のための情報提供ということでご理解頂きたい。最初に、関空連絡橋の支持力評価法の概要を紹介する。次に、北九州空港連絡橋で実施した数多くの土質調査、現地での鉛直載荷試験(急速・静的)を踏まえて採用した「新たな支持力評価法」について紹介する。
(2)関西国際空港連絡橋の事例
(出典;土と基礎(1988.7)大口径鋼管杭の載荷試験(関西国際空港連絡橋)(著者;本山蓊氏ほか)
架橋地点の地盤は、軟弱で明確な支持層がなく、経済的な杭長で支持層となりうる可能性のある砂礫層(S-4層)の層厚が2~3mと薄い。このため、この層を支持層とした薄層支持杭の問題、あるいは薄層部を貫通し、摩擦支持杭とした場合の周面摩擦力の評価の問題、があった(図-1参照)。そのため、S-4層打ち止めの支持杭(T1杭;Φ1.5、T2杭;Φ1.0mの2種類の鋼管杭)及びS-4層貫通の摩擦杭(T3杭;Φ1.5mの鋼管杭)を対象として現地載荷試験が実施された(図-2参照)。
図-1 関空連絡橋地質縦断図
図-2 現地載荷試験状況
杭周面摩擦応力度は、原位置載荷試験に基づく周面摩擦応力度(補正)と土質定数準拠によるものを総合的に比較・評価している。つまり、道示で示される周面摩擦応力度(砂層でN/5(N;N値)、粘土層でC(C;粘着力)又はqu/2)に補正を加えたものを採用している(表-1参照)。
表-1 採用された周面摩擦応力度評価値
上記の検討をもとに陸地側(りんくうタウン側)の杭は支持杭で、空港島側の杭は摩擦杭として設計された。
(3)北九州空港連絡橋とは
北九州空港は、旧北九州空港の代替えとして、北九州・京築圏域200万人の航空利便性の確保と北九州地域活性化を図るため、国が設置して管理する第二種空港(A)として整備され、2006年3月16日に開港した。主要な国内路線及び海外路線を結ぶ重要空港であり、周防灘沖約3kmの海上に位置する総面積373haの人口島を造成して建設された海上空港である(図-3参照)。
図-3 空港連絡橋位置図
この海上空港が特徴的なのは、これまで関門航路や苅田港の浚渫土砂の土捨て場となっていた埋立地を拡張して空港島として利用するということである。関空や神戸空港のように大阪・和歌山・兵庫の土取り場の土砂を流用して埋め立てをすることもなく、非常に経済的な空港島となっている。北九州空港連絡橋は、この「北九州空港島」と将来的には東九州自動車道苅田ICに繋がる「一般県道新北九州空港線」約7.7kmの一部を成す、海上に建設された全長約2.1kmの橋梁である(図-3、4及び写真-1参照)。
図-4 北九州空港連絡橋の全体図
写真-1 北九州空港連絡橋(中央部モノコードバランスドアーチ橋)
北九州空港連絡橋の概要を以下に示す。
①道路規格等
・道路規格 第3種1級
・設計速度 80km/h
・幅員構成等 図-5参照
図-5 北九州空港連絡橋幅員構成
②橋長 2.1km
③橋梁形式
・中央部 鋼モノコード式バランスドアーチ橋(95m+210m+95m)
・内陸側 10径間連続鋼床版箱桁橋(10@78m=780m)
・空港側 11径間連続鋼床版箱桁橋(5@81m+4@87.5m+90m+75m=920m)
④基礎形式
・鋼管矢板井筒基礎(仮締切兼用タイプ) 22基(海上部)(Φ1000)(2P~23P)
・鋼管杭基礎 3基(陸上部)(Φ800)(1P、24P、2A)
⑤制約条件等(図-6、7参照)
・航路制限(船舶通航帯) 幅130m、高さ19m(略最高高潮面上NHHWL+19)
高さ24m(最低水面上DL+24)
図-6 航路制限
・空域制限(築城基地) (空港連絡橋上 DL+53.228)
図-7 空域制限
⑥周辺海域 牡蠣(苅田一粒牡蠣)と海苔の養殖場