(7)高減衰ゴムダンパーの開発
東神戸大橋で採用した減衰機能を有する変位制御装置を図-2に示す。この変位制御装置は、積層ゴムダンパーと拘束ケーブルでシステムを構成しており、以下の特徴を示す。
①桁に発生する地震時慣性力により積層ゴムを塑性変形させ、ゴムの持つ履歴減衰特性により地震時慣性力を低減させる。
②積層ゴムダンパーと拘束ケーブルが協働して桁に発生する地震時慣性力を塔に伝達し、桁の橋軸方向変位を設計可能移動量以内とする。
③拘束ケーブルは、桁と塔間に生じる上下方向、水平方向、及び回転方向の変位差を吸収する。
④積層ゴムを縦置きのサンドイッチ型にしたことにより、横置きの場合に生じる偏心曲げが作用せず、積層ゴムがスムーズに変形可能となる構造である。
⑤大変位、大反力に対応が可能である。
(8)裏話(その2) 嫌いな免震ゴム沓
昔から「免震沓」は、信用していないし、絶対に使わない、と心に決めていた。何故か。主材料となる「天然ゴム」の特性として、①耐オゾン抵抗性に乏しいこと、②紫外線や熱等の環境依存性劣化があること、③外力によるゴムの疲労劣化がある、等からである。
これらの特性により、性能に関しては、使用初期のゴムの性能が経年劣化に伴い確実な履歴減衰等が得られないことによる。多々羅大橋では橋軸方向へのバネを導入するために積層ゴム(リング沓)を使ったが、紫外線劣化等に伴うゴムの硬化を考慮した設計としている(劣化防止用の表面被覆ゴムも設置)。
阪神大震災以降は、免震ゴム沓(例えば、鉛プラグ入りゴム支承(LRB))を反力分散沓として使うという手段で販路を拡大していった感がある。結果的には、阪神高速道路においては多くの箇所でLRB沓の損傷が発生した。1995年の震災後に福岡県に出向した当時の話。北九州空港連絡橋の耐震設計部会での一コマ。免震支承推奨派の佐賀大のI助教授から「免震ゴム沓はダメですか?」と聞かれ、即答で「使いません。ダメです」と、お断りをした。当然、長大さん(本四時代から旧知の)に比較検討をしてもらった結果も踏まえ、地盤が悪い空港連絡橋に免震ゴム沓は合わない、とお断りをした。
(9)裏話(その3) 高減衰ゴムの性能確認と耐震部会主査との駆け引き 2006年、阪神高速本社で各技術部会の事務局(技術管理室 技術開発グループ長補佐)をしていた。東神戸大橋の変位制御については、神戸管理部からの審議案件で上がってきていた。高減衰ゴムダンパー案であるが、嫌いな高減衰ゴムであること、テーラーダンパーの可能性の追求をしたいこと、等から悩みは尽きなかった。出先の管理部と耐震部会の家村先生との間ではダンパーの性能試験の話も進んでいた。I名誉教授から開発グループ長経由でどういう確認試験が必要なのか、と私に問い合わせが来た。①ダンパーシステムの性能確認、②履歴減衰特性の面圧依存性の確認、③せん断変形性能の確認(許容せん断ひずみ325%以上)、を行いましょうとお願いをした。その数か月後に神戸管理部の調査設計課長に転出することになった。こうなると、時間もなく踏ん切りをつけて高減衰ゴムダンパーの開発に没頭せざるを得ない状態が作られた。
(10)性能確認試験とゴムの信頼性
(9)に示した性能確認実験を京都大学の桂キャンパス(I准教授と協同研究)で実施した。縮尺は1/4模型。結果の要約を以下に示す。図-3に実験装置全体図を、写真-5に実験装置全景を示す。
①積層ゴムを組み合わせた場合と積層ゴム単体の等価剛性と等価減衰定数はほぼ同様(図-4参照)。
②せん断歪を±175%の状態で面圧を数種変えたが等価剛性は殆ど変化せず、若干等価減衰定数が低下したのみ(図-5参照)。
③せん断ひずみ325%でも高減衰ゴムは破断することなく、エネルギー吸収性能を有していた(図-6参照)。
以上より、高減衰ゴムダンパーの性能は確認できた。通常は横置きして上部工の鉛直反力(面圧)を受けた状態で使用する高減衰ゴムを90°反転して使用しても十分な履歴減衰特性が確認できた。