道路構造物ジャーナルNET

⑩支承部の損傷

次世代の技術者へ

土木学会コンクリート委員会顧問
(JR東日本コンサルタンツ株式会社)

石橋 忠良

公開日:2020.06.01

5.桁座の配筋が別の図面にあるのを見逃す

 設計図の中には、構造物本体の配筋と、桁座の補強鉄筋を同一の図面に書かず、別々の図面に書いているものがあります。鉄筋が多すぎて、同一図面ではわかりにくいと配慮したのだと思います。
 これが原因で、ある施工業者の工区では、桁座の補強鉄筋が入っていない構造物が造られてしまいました。構造物を使用し始めて数年後、桁座のコンクリートの剥落が始まりました。補強鉄筋を加えて補修をしました。順次、桁座の剥落が続き、その付近の構造物すべてに補強と補修をすることになりました。一枚の図面に、鉄筋すべてを書き込んでおかないと、このようなミスもおこることがあります。

6.シュー下面コンクリートの噴泥

 シュー下面のモルタルやコンクリートの施工は非常に施工しにくいものです。コンクリートやモルタルに強度不足や不十分な施工があると、コンクリートに大きな力がかかります。特にシュー付近が滞水していると、水中でのコンクリートの疲労となります。水中疲労は劣化しやすいことから、シュー下面のコンクリートやモルタルが泥化して噴き出すということが起きます。それにより支点沈下で桁の損傷が生じたり、列車走行に影響が生じたりします。橋脚天端の排水には気を付けることが必要です。
 この補修法はずいぶん進歩しました。かつては仮の支柱で桁を受け替えて、桁座のコンクリートを打ち直していました。数日間列車を徐行していました。今では、夜間の列車の通っていない時間で復旧しています。弱くなったコンクリートを高圧水などで除去し、アクリル樹脂を注入して初列車が通れるようにしています。


写真-5 アクリル樹脂による補修

7.鉛直支持と水平支持の分離

 1978(昭和53)年の宮城県沖地震で、鋳鉄製シューの水平移動防止機能が多く損傷しました。その後は、鉛直支持はゴムシューとし、水平支持は鋼製のストッパーの組み合わせを基本としました。水平支持の材質は粘りのある材料であることが落橋防止には有効であることから鋼材を用いています。
 また、鉛直支持と水平支持を分離させたのは、地震で損傷するのは水平支持部材ですが、一体構造ですと、水平支持機構を復旧するのに鉛直支持部分を一緒に扱うことが生じ、早期の復旧が難しいことになります。水平支持と鉛直支持を分離しておけば、鉛直支持は損傷がないので、仮の水平支持を付けて、早期の運行の開通が容易です。そのような考えで、原則、水平支持と鉛直支持は分けた構造としています。単純桁はゴムシューと鋼角ストッパーの組み合わせが中心です。

8.連続桁の支承構造

 東海道新幹線までは長大橋は鋼橋が中心でした。開業後、鋼桁の騒音が問題となりました。それ以降、新幹線橋梁に鋼桁の採用はほとんどなくなりました。長大橋にするには連続桁とすることが有利です。
 道路橋は中央ヒンジの橋梁が主流でしたが、鉄道橋ではたわみ制限や、目違い制限のため中央ヒンジの構造は採用していません。コンクリートの連続桁で地震力を一つの橋脚に集めると橋脚が大きくなりすぎてしまいます。そこで、各橋脚に地震時の水平力を分散するオイルダンパー構造のストッパー(図-8)が開発され、山陽新幹線から長大橋がすべてコンクリート橋に変わることを可能にしました。この時の支承は、鉛直支持は鋼製シューのローラーシューやベアリングプレートシューで、水平力はダンパー式ストッパーの組み合わせです。この長大PC橋のローラーシューや、ベアリングプレートシューと、ダンパー式ストッパーの組み合わせが金の靴と言われたものです。


図-8 ダンパー式ストッパー

 鉛直支持を全面的に積層のゴムシューに変えたのは、1978(昭和53)年の宮城県沖地震の後からです。宮城県沖地震の時までの長大PC連続桁は、鋼製シューとダンパー式ストッパーの組み合わせが中心で、宮城県沖地震ではダンパーからのオイルが漏れた程度の被害でした。オイルは地震後漏れた量だけ再注入しています。
 常時は、オイルは抵抗せずに、地震時など早い動きに対してはオイルが抵抗して、各橋脚が固定点であるような挙動をすることで、地震時の水平力を各橋脚に負担させるものです。

9.終わりに

 シューの施工は施工欠陥が起こりやすいものです。充分に注意して施工しましょうとしか言えないのが残念です。
 メンテナンスで問題の生じることの多いのも支承部です。シューのない構造形式の選定が可能ならできるだけ、ラーメン構造など、シューのない構造形式を選定することが、点検作業も減ることになり、メンテナンスを楽にします。
 シューを用いることが必要な場合は、支承部は地震時に損傷することが多いので、復旧しやすさを考えて、水平支持と鉛直支持を分離した構造とすることも重要です。

 

注)構設資料;構造物設計資料、国鉄構造物設計事務所監修。(社)鉄道施設協会より1号から89号まで年4回発刊された。3号は1965(昭和40)年9月発刊。 (2020年6月1日掲載。次回は7月1日に掲載予定です)

石橋忠良氏【次世代の技術者へ】シリーズ
①私の概歴
②鉄道建設の歴史
③アルカリ骨材反応
④アルカリ骨材反応(2)
⑤アルカリ骨材反応(3)
⑥コンクリートの剥落
⑦新設構造物のコンクリートの剥落対策
⑧塩害(海砂、飛来塩分)
⑨ 道路 PCグラウト

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