5.浙江省浙江交通投資集団~寧波舟山港主通道プロジェクト~
2019年12月、浙江交通投資集団を訪問した。浙江交通投資集団は、交通インフラ業務、金融業務、交通関連(鉄道)業務、高等職業教育業務を行っている社員4万人のマンモス企業である。このうち、交通インフラ業務に携わる技術者の研修講師を数年前から行っていた。 2020年の春先から浙江省杭州等において技術アドバイザーを要請されており、打ち合わせも兼ねて訪問した。上海から南下して途中、杭州湾跨海大橋(全長36㎞、2008年開通)(写真-5)、舟山跨海大橋(全長48㎞、2009年開通)及び舟山西候門大橋(中央支間長1,650m、世界第2位の吊橋)(写真-6)を望みながら寧波舟山港主通道プロジェクト(図-2参照)の中心基地となるプレキャストブロック工場に到着(写真-7参照)。
(1)寧波舟山港主通道プロジェクト
このプロジェクトは、富翅門大橋(斜張橋)、舟岱大橋(主通航孔橋と南通航孔橋の2斜張橋+高架橋)、等で構成されている。富翅門大橋(PC5径間連続斜張橋)は、橋長670m、最大支間長340m、支間割57m+108m+340m+108m+57m、開通2019年。舟岱大橋主通航孔橋(鋼6径間連続鋼斜張橋)(主塔はRC)は、橋長1,630m、最大支間長550m、支間割78m+187m+2@550m+187m+78m、主塔高180m(3主塔同一)、開通2021年予定。
(2)プレキャストブロック工場
本プロジェクトのために整備されたPC箱桁、PCT桁及びRC橋脚工場である。中国と日本の違いが明確なところは、目標と手段と意思決定のスピードである。このプロジェクトを達成するために掲げた目標(工程管理・品質管理・安全管理の徹底)、手段(プレキャストブロック工法の活用とそのために製作工場や運搬基地の整備)、意思決定(資金調達・建設・運営管理を行う巨大な投資集団が)は、日本では到底望めないものである。
以下には代表的な製作ライン(写真8~写真-11)、非常に感心した安全体感設備(写真-12,13)及び現場施工状況を示す。
(3) 工程管理・品質管理・安全管理の徹底
中国の長大橋梁建設に関するイメージ(私個人かもしれないが)は、日本の同一規模の橋と比較して、工期が半分以下、工費が1/2~1/3と非常に安く安全・品質は二の次というものであった。日本と政治・経済情勢や安全に関する考え方が違うのは当然としてではあるが。
イメージが悪いのは、2011年7月に発生した中国高速鉄道事故(浙江省温州市)の列車転覆事故と緊急復旧の映像(右写真16)だ。交通の早期回復を第一優先し、列車を高架下に落とし、土砂で埋めた映像が流れた(政府当局によれば、周囲が軟弱地盤なので復旧用のショベルを走行させるために車両の上に土を盛ったと)。人命より運転再開が重要なのの? と国内・国外から批判を受けた。
こういう過去の苦い経験や安全管理や品質管理の重要性を認識した政府の方針転換により、非常に優れた橋梁が建設されるようになった。
(4)瀬戸大橋を思い出すと
1980年当時、瀬戸大橋四国側のアプローチ橋「番の州高架橋(鉄道部)」では、工期短縮のためにプレキャストブロック工法の検討を行っていた。番の州高架橋は、南北備讃瀬戸大橋(吊橋)のアプローチ橋となることから橋脚高が非常に高い。このため、橋脚間隔も70mを超え、鉄道部にはPC連続箱桁を採用した。しかし、その施工法は場所打張出架設工法か、高架下のヤードを利用したプレキャストブロック工法か、数年をかけて検討した。結果的には工費が高くなるプレキャストブロック工法を諦めたわけだが、あの時プレキャストブロック工法を採用していれば本四の技術キャパシティも増えたのだが。私も40年、国内・国外の長大橋に関わってきたが、番の州高架橋ほど地形・地理的条件がプレキャストブロック工法にマッチしているところはないと思う。純粋な技術的判断というよりは政治的・業界的な圧力に屈した結果が正解なのだろうが。