4.1 主ケーブル
主ケーブルのグラウトについても、国鉄時代に撤去した桁を調査しました。定着具付近などには空隙が多いことがわかりました。グラウト材料はアルミ粉を入れて、水素ガスを発生させて膨張することで、ブリージング水を追い出し充填を完全にしようとするものでした。
しかし実験すると、水素ガスは出るのですがグラウトはシースの凹凸で拘束され動かずにガスだけが動くということがわかりました。今ではグラウトの材料を変えているので大丈夫でしょうが、過去に造られた多くのPC桁の主ケーブルのグラウトも不十分なものが多くあると思われます。
また、同時に全く充填されていない主ケーブルも時々発見されています。PCの初期は、緊張管理もグラウト作業も発注者、施工者とも社員がついて熱心に実施していました。PCの施工が増えた時期から、グラウト作業は協力業者任せにすることが多かったようです。
そのため工期が厳しいと、施工しないでグラウト注入ホースを切ってしまったりしたようです。中には、元請と、下請けとのトラブルで、1現場全くグラウトなされていない箇所もありました。あとから下請けがそのことを国会に構造物が危険な状況だと投書し、国会で話題となったこともあります。これら、グラウト未充填は発見の都度、再注入を実施してきています。
現在は、施工後に外から充填状況がわかるように、グラウトキャップを用いて施工し、後からグラウトキャップを外して確認するように変えています(写真-6)。透明のグラウトキャップであれば、中を確認できるので、そのまま残すこともよいと思います。
4.2 主鋼棒
カンチレバー工法などには、主鋼材に鋼棒を用いているものが多くあります。東北新幹線や上越新幹線では、カンチレバー工法の6割は鋼線ではなく鋼棒を主鋼材に用いていると思います。
デビダーク工法は鋼棒を用いています。これも横締めと同じで、シースとの隙間が小さく、グラウトの品質も当時はよくなかったので、充分にグラウトが施工されていないと思われます。そのため、主鋼棒の破断、飛び出しが発見されることがあります(写真-7)。
5. 解体した下路桁の調査結果から、鉛直鋼棒の使用と上縁定着をやめる
1969(昭和44)年建設されたPC下路桁(上り線スパン27.5m、下り線スパン29.1m)が、河川改修で1982(昭和57)年に撤去され、新しい桁に架け替えられました。撤去した桁を解体した結果、鉛直鋼棒のほとんどが内部で腐食破断していることが発見されました。以降、国鉄ではPCの箱型桁や下路桁の設計に鉛直鋼棒を用いることを全面的にやめて、すべてRC構造として設計することとしました。
東北新幹線などの設計、施工が行われている時期で、RCへの変更が間に合わないものは、鉛直鋼棒をグリースなどが工場で施工されているアンボンド鋼材に変え、設計の修正の間に合うものは、せん断設計を鉄筋コンクリートに変更して鉛直のPC鋼材を使用しないようにしました。
鉛直鋼棒の腐食破断の原因は、グラウトの充填が不十分なことと、上面の後埋めコンクリートの打ち継ぎ目からの水の進入です。
定着部が上面にあるとそこをコンクリートで後から埋めます。この後埋め部と、元のコンクリートが目地切れを起こし、そこから水が入って、鋼材を腐食させていました。この後埋めの施工を完璧にするのは難しいことから、上縁の定着の構造は設計時に採用しないことにしました。設計時点で、鉛直鋼棒をやめると同時に、主ケーブルもすべて上縁定着をやめ、端部定着することにしました。
6. シースはすべてプラスチックシースに
主ケーブルにグラウトの施工が不十分ですと、端部などから水がシース内に入り、桁下が汚く見えてきます。桁下からドリルで穴をあけると、シースから水が飛び出します。この水は高アルカリです。そのためグラウトのない状況でも、水で満たされているとケーブルは錆びていません。この水が入れ替わるようになったり、乾燥と湿潤を繰り返すようになるとケーブルは錆びてしまうと思われます。
少々グラウトの施工に欠陥があってもシースが水や、塩分などを透過させないことが大切です。薄鋼板のシースでは穴が開いたり、腐食することが考えらえます。このため、物質の透過しにくいプラスチックシースをJR東日本では全面的に採用することにしました。
グラウトの材料を変えたり、施工方法や検査方法を変えたりして対策してきましたが、主ケーブルのグラウトは現場施工が避けられませんので、何らかの原因でグラウトが不十分でも、鋼材腐食を避けることができるようにとの配慮からです。
7. 今後の対応
過去のグラウトの不良による鋼材の破断、飛び出しによる第三者への被害を防ぐ対策を各機関はしてきていると思われます。横締めや、鉛直鋼棒などは、数本の破断では、桁の安全性にすぐに結びつかない箇所であることが幸いです。見つけたら、新しい鋼材と入れ替えるなどで対応してきています。
これから真剣に検討していかなくてはいけないのが、主鋼材の破断です。これは外に飛び出して、何かに当たるという心配は少ないですが、構造物の安全性に影響します。また発見もしにくいものです。
鋼棒は本数が多いので、何本か切れてもすぐには致命的にはなりませんが、ある程度心配になったら、外ケーブルなどでの事前補強などの対策を検討したほうが良いと思っています。完全なグラウト調査は難しく、コストも非常にかかると思われます。その労力、コストを考えたら初めから補強してしまうほうが安心かと思っています。いろいろな補強方法を今から勉強しておいてくださることを期待いたします。
8. まとめ
これから造るものは、設計と施工で対策をすることで、グラウトの欠陥による問題はかなり解決されると思っています。基本はプレグラウトを用いて、可能な限り現場施工をなくすことです。太径のケーブルはプレグラウトがしにくいので、未施工のものを見逃さない工夫と、それでも欠陥があった時を考えて、プラスチックシースを使うことで、鋼材の腐食破断は対応できると思っています。
初期のPC桁のグラウトはしっかり入っているようです。技術者が現場に付きっ切りで管理したからだと思います。大量施工の時代に入り、施工方法も効率化を求めて変えてきました。効率化で施工法を変えるときに、品質が変わらないことを確認していくことをおろそかにしたのだと思います。
初期は主ケーブルの端部は布切れで抑えて空気が抜けるようにしてグラウトをしていたのだと先輩から聞きました。布切れを除けば、端部までグラウトがあるか確認できます。施工量が増えると、端部をモルタルでかためてホースをつけて空気を抜く構造に合理化しました。モルタルを壊して中の様子を確認しないので、ケーブルの端部は空隙が残っていることが多いのです。
端部までグラウトが入っていることを保証するための施工がグラウトキャップを用いての施工です。生産性向上は必要ですが、品質が確保できるか確認しながら合理化を進めることが大切です。
(2020年5月1日掲載。次回は6月1日に掲載予定です)
石橋忠良氏【次世代の技術者へ】シリーズ
①私の概歴
②鉄道建設の歴史
③アルカリ骨材反応
④アルカリ骨材反応(2)
⑤アルカリ骨材反応(3)
⑥コンクリートの剥落
⑦新設構造物のコンクリートの剥落対策
⑧塩害(海砂、飛来塩分)