道路構造物ジャーナルNET

⑦横風と車両横転について

現場力=技術力(技術者とは何だ?)

株式会社日本インシーク
技術本部 技師長

角 和夫

公開日:2020.04.01

(10)横転事故の原因特定と対策提案
 これまでの車両横転事故の原因(と言われるもの)、今回の検討の結果を踏まえた事故原因の特定と対策提案を行った。

①横転事故の原因
 ・空荷で走行する軽量なアルミバントラックの突風に対する危険度
 →荷物(トレー等)をたくさん詰めて運べて、車両重量もオーバーしない「アルミバントラック」は荷物満載時の重心に対して空荷時はかなり高くなる。釣り合い式の外力である横風モーメントが抵抗モーメントを大幅に上回り、転倒しやすくなる。
 ・地形や構造物の形状により、車両走行位置では大きな増・減速や気流が傾斜している場所がある。→図-6参照
 →気流の増・減速は、釣り合い式の外力部分が変動する。これにより、ハンドルを取られやすく、横転事故が発生しやすくなる。
 →支間中央部の増速率は、車速等により若干変動はあるが凡そ0~40%。最大で平均風速の1.4倍程度。アーチリブと桁結合部付近から側径間では0~-100%。或いは方向が逆転。

 ②対策
 車両走行位置での増・減速が顕著な箇所に遮風率を変えた(徐々に風速を慣らす)遮風壁を設置する案とし、併せて対策効果の検証をすることとした。これにより、今後の横転事故対策検討のアプローチ手法が確立できたと考えている。

3.最後に

 今から8年前、しまなみ海道「大三島橋」で発生した車両横転事故に伴う「原因究明と対策」について紹介した。何で今なのか?と思われる方も居ると思うので紹介する。①掲載時期が4月1日であること(平成24年4月3日発生、震災と同様に自分自身で忘れないように)、②この検討に当たってご助言を頂いた耐風の世界の権威、白土先生がご逝去されたのが直近の2年前であったこと、③ここ数年、世界規模の気候変動により大型台風やハリケーンの発生、爆弾低気圧の発生等、異常気象が顕著であること、④横風問題(横風による横転事故や車両の対策検討)が厳然として国内で議論されていること、⑤私が転職するきっかけの一つになったこと、からである。

 当時、白土教授と色々な話をした。新規の長大橋の案件が出てこない以上、研究室の風洞設備は他の研究に使用せざるを得ないと。その一つが、異常気象(爆弾低気圧含む)に伴う様々な事象に対して民間の自動車メーカー等からの共同研究の打診である。一般的に車両の横転事故は、外力的には車両走行中の突風(横風・斜風や風向が反転等)の影響、つまり、車両の形状(抗力係数や重心位置)によるところが大きい。内力的(抵抗側)としては、車両重量の大小が影響する(車両形状・重心位置も)。副次的には、雨天時や路面不良による路面の摩擦係数の減少(グリップ力の低下)がある。私が携わった「北九州空港連絡橋(海上中央部のアーチ橋)」での風洞実験によればアーチリブ後方で気流が乱れ大きな増速・減速域が確認された。また、今回の風環境調査では、周辺地形やアーチリブの形状等による影響で気流が乱れ、アーチリブ後方で大きな増速・減速域並びに風向反転等の事象が確認された。これらの成果は、私が30年以上前から言っている産・官・学の連携の成果である。掲載のきっかけとして、⑤に転職のきっかけの一つになった、と書いた。1年半ほどを要した検討の過程で全社的に強い抵抗を感じた。物事を究明する必要性と責務を感じる側とその対面に存在する「波及効果」を恐れる群れ。

  橋梁の設計計画に際しては、通常、製作性・施工性・経済性・維持管理性(LCC含む)が議論される。この中の維持管理性というのは管理者サイドの補修・補強という話ばかりではなく、使用者側の走行性・安全性の確保が特に重要で必須と考える。

 昨今は、新型コロナウイルスの影響でオリンピックも延期になった。プロ野球もMLBも。ここまで酷くなったのは最初のガードが緩すぎた。最悪の状況になってからの対応は意味がない。

 我々技術者は、建設・管理の最前線に居ると常々思っている。長年にわたり横転事故や横転事故に繋がりかねない事象が多々あったと思う。

 本文が橋梁上の横転事故対応のアプローチとして参考にして頂ければ幸いである。
(2020年4月1日掲載、次回は5月1日に掲載します)

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