シリーズ「コンクリート構造物の品質確保物語」㉟
「桑折高架橋の高耐久床版はなぜ実現できたのか」 官学民桑折高架橋高耐久RC床版打設座談会
日本大学 工学部 土木工学科
コンクリート工学研究室
教授
子田 康弘 氏
桑折高架橋は『東北地方におけるRC床版の耐久性確保の手引き(案)2019年試行版(令和元年6月 国土交通省東北地方整備局道路部発行)』に沿う形で初めて施工された高耐久RC床版工事である。高炉セメント(BB)を用いており、現着スランプ12cm、目標空気量5%を目安に始めたが、思いのほかコンクリートが固く、最終的なスランプ値は18cmまで至った。そうした性状のコンクリートを如何に施工し、品質を確保したか、その内容を残すために、同現場に深くかかわった、日本大学の子田康弘准教授(現:教授)を司会とした座談会を2020年2月14日に開催した。その模様を報告する。(下記以降の役職名は当時)(構成:井手迫瑞樹)
桑折高架橋床版打設の工区割り(小野工業所:2019年4月、佐藤建材工業:2019年4月〜5月、佐藤工業:2019年11月〜12月、JR部:2018年11月)
時季に大きく左右されるコンクリート
子田准教授 桑折高架橋の高耐久RC床版は、東北地方整備局が2019年6月に公開した『東北地方におけるRC床版の耐久性確保の手引き(案)』に沿って作られた最初の床版になります。これを記録することは非常に重要です。私も一度、施工中にレポートを書きましたが、発注機関の管理者、工事監督支援担当者、施工者の皆さんも一堂に会して、どういう施工であったかという事を記録に残したく思い、道路構造物ジャーナルNETの協力のもと、座談会を行います。本日は、忌憚ない意見をよろしくお願いします。
まずは、率直に施工を終えられた感想をお聞かせください。
高橋正晴・工務第二課建設専門官 当初着任した時は、高耐久床版打設に対して不安がありました。しかし、子田先生や施工した皆様の頑張りもあり、耐久性の高い立派な現場打ちRC床版が実現できたと思います。
高橋大輔・東北中央道維持出張所長 昨年4月に着任し、最初に東向田地区の床版打設の監督に携わりました。私が着任する以前にも勉強会などを行っており、まずは知識レベルを追いつけるように努めました。
実際、施工現場を監督した感想としては、4月~12月の8カ月に及ぶ長丁場での施工でしたので、気象条件に大きく左右されました。中でもスランプは当初12cmから始まり、最大で18cmまで変化しました。コンクリートの性状は、使用するプラントや時季等によって大きく左右されました。
材料だけでなく、施工する方々がなぜこうしたコンクリートを造らねばならないかをよく認識した上で施工を進めていかなければならないと思います。その意味でも、今回採用した本施工前の模擬床版での試験施工は大変有効であると思っています。
上野秀悦・桑折地区工事監督支援業務担当技術者 4月2日から床版打設が始まりましたが、5月に向けて気温が暖かくなっていくのですが、毎回気温によってコンクリートの固まり方が異なるため、大変なところがありました。打設ごとに元請と話し合い、一体となって取り組んだ結果、丁寧に床版を打設することができたと思います。
木戸克巳・桑折地区工事監督支援業務担当技術者 去年から携わらせていただき、業者さんと相談しながら、スランプなど生コンの性状を確認しながらやっていました。初めて接する生コンで戸惑ったこともあって、施工しながら慣れていくという状況でした。最終的には良いものができたと思います。スランプの設定が一番大変でした。
佐々木誠・東向田地区現場代理人(小野工業所) 東向田地区床版工事の現場代理人を務めました。4~5月にかけて床版工事を行いました。最初の工事という事で、3月1日に模擬床版の施工をしましたが、上手くいかず、その反省を踏まえて本施工に入れたため、大きな失敗もなく、工事を終えることができました。現場では左官仕上げが得に大事でしたので、その意見をうまく取り入れながら施工しました。
菊池清人・半五郎地区現場代理人(佐藤建材工業) 半五郎地区床版工事を請負いました。率直に言って、終わってホッとしています。スランプは状況によって様々に変わりました。スランプ12cmの時は非常に施工しづらく、苦労したのを覚えています。
佐藤拓・半五郎地区監理技術者(佐藤建材工業) 同じく半五郎地区の床版工事を担当しました。最初は先行していたJR区間(新幹線および東北本線跨線部、205m)の見学会に参加しまして、高耐久RC床版への取り組みを聞きました。当者は橋梁床版工事そのものが初めてで、それに加えて高耐久への取組み、扱ったことの無いコンクリートを使っての施工ということで、困惑しましたが無事終わってホッとしています。先行していた小野工業所さんや監督支援の皆さんの助言を聞きながら、施工を進めました。一番苦労したのはコンクリートの表面仕上げです。これの管理は大変でした。左官工と連携しその腕に頼るように仕事をしました。
このような連携の甲斐あって床版だけでなく現場打ち高欄も自分の中では、きれいな仕上がりになっているのではないかと思っています。
青柳勝彦・佐藤工業土木部長 当社では赤坂地区、界地区の500m部分を施工いたしました。高耐久RC床版の打設とはいかなる方法で行うのか、頭の中は疑問でいっぱいでした。
先行して施工していた佐藤建材工業さんや小野工業所さんの現場を勉強させていただきながら施工して、何とか良いものができたと思っております。当社はまだ高欄などを施工中ですので、事故を起こさないように安全第一で施工していきたいと考えています。
古関浩和・界地区現場代理人(佐藤工業) 界地区工事の現場代理人を務めています。当現場は、桑折高架橋床版打設の最後の現場であり、先行工事の施工やコンクリートの仕様を参考にさせていただきまして、スランプ等も改良させていただいて、(先行事例を勉強させていただいたのは)非常に助かりました。施工時期が11~12月にかかりまして、例年であれば、降雪していてもおかしくない時期でしたが、暖冬という気象条件にも助けられて、深刻な問題もなく床版打設が施工できたと思います。
芳賀敦・赤坂地区現場代理人(佐藤工業) 赤坂地区現場代理人を務めました。高所で強風が頻繁に吹き幅員も広く延長も長いことから、養生設備を設けることが現実的ではないため、生コン打設においては天気予報を睨む日々が続きまして、それが終わってホッとしています。高耐久床版の打設に必要なのは「人」でした。人によるモノづくりというのを実感しました。ICTやCIMなど技術革新が進んでいる中でも、人による施工の大切さはある、ということを感じました。
佐藤建材工業 先入観がないからこそ良い床版を打設できた
子田 高耐久床版を製作すると聞いてどう思いましたか。とりわけ佐藤建材工業さんは初めての床版工事だったわけですが
菊池 高耐久床版と聞いても、ピンときませんでした。そもそもコンクリートは強度もあり、通常でも十分耐久性はあると思っていました。勉強会に参加しているうちに、ようやく高耐久床版はなぜ必要なのか、そのためのコンクリート品質はどのようなものなのかを理解できるようになりました。
子田 面倒くさいことをさせられるのではないか? という恐怖心はありませんでしたか?
菊池 床版工事自体を知らないため、みんなに教えてもらいながら施工しました。何せ初めてでしたから。
子田 先入観がないから素直に受け入れることができたのですね
菊池 そうです。
締固めの時間をしっかりと取るのが従来との違い
ブリージング水が出ないコンクリート 丁寧な施工で品質を確保
子田 これまでの床版施工と、新しい手引きに準拠した施工との違いはありましたか?
高橋正晴 発注者からすると、敷均した後の締固めの時間をしっかりと取っているのが従来との違いであると思いました。今まで床版工事の現場監督経験は無く、(現場打設は)ボックスカルバートの立ち合いなどで、施工しているのを監督するぐらいでした。その時も表面にあばたが出た場合、こうしたものはなぜ出るのかな? と思うぐらいでした。他には元請が下請けに対してどのような指導をしているか? など感覚論しかなく、今回のように、バイブを8秒間かけるなど、具体的、定量的に現場を監督したのが、従来との違いであると感じています。
もう1点は、ブリージング水が出てこないコンクリートを使って打設したことです。表面は水分が足りないような感じで、これって逆に生コンなの? と思えました。
10年ぐらい前に監督を行ったときはスランプ8㎝で打設し、打設が終わるとブリージング水が出てきて、それを処理するという感じだったのですが、それと比べるとあまりにもコンクリートの性状が違い、最初は戸惑いました。
高橋大輔 私も床版工事の監督は初めてで、仰るように、コンクリートが全然違いました。(12cmで始まり)最後にスランプ18cmで施工した時は、これで本当に大丈夫なのか? と心配しました。施工に関しては、締め固め時間を測るなど、押並べてより丁寧な施工をしていると感じました。コンクリートの性質がどうあれ、丁寧な施工を行うことが最終品質の確保につながると感じています。
芳賀 私も床版工事に携わったのは初めてですが、今までボックスカルバートや下部工の施工に携わっておりまして、佐藤建材工業さんの現場を見た時にこれだけ人員が要るのか、と驚きました。実際に経験しますと、左官屋さんを始め、確かに必要であると感じました。それをうまく配置できたのは良かったと思います。
本当に大事な試験施工
界地区では単位水量170kg、水結合材比を45%に
子田 試験施工は、本施工に臨むにあたり有用でしたか?
佐々木 試験施工で、今まで経験したことの無いスランプでの打設や、50cm間隔でバイブを8秒挿入する決め事を実際やってみました。本当に高耐久になるのか? と半信半疑でしたが、実際行うと密実なコンクリートの打設ができたと実感しました。
木戸 私も本施工の前に試験施工を行ったのは、良かったと思います。コンクリート自体が普通のコンクリートではなく、下請けの業者さんも扱ったことがないものなので、最後はスランプ18cmで施工したにもかかわらず、下請けさんからは「硬い」といわれました。
それでも試験施工を行えば、こうしたコンクリート性状の周知もできるし、施工方法の意見交換もできます。一回施工すれば、後は試験練りだけでコンクリートの性状が分かると思います。初めて施工する業者さんがぶっつけ本番で施工したら大変なことになるのではないか、と思います。従来のスランプ12cmの普通コンクリートとは明らかに違います。
子田 何が違いますか?
木戸 粘性が高いです。セメント量が多いですから。
子田 スランプ18cmで実際に打ったのは。
木戸 佐藤工業さんが担当した界地区(最後の区間)です。170kgぐらいに上げて水結合比を45%にする方法です。赤坂地区はスランプ15㎝で単位水量をなるべく最大まで上げるような仕様にしました。それでもポンプを通すと固いといわれました。
スランプ18㎝で打設した界地区 170kgぐらいに上げて水結合比を45%にする方法
子田 スランプ12cmで当初、佐藤建材工業さんの現場で不具合出さなかったのは奇跡に近いですね
木戸 丁寧に施工したことと、時季がよかったことが幸いしました。真夏にスランプ12cmで打設していたら厳しかったと思います。
次ページ 受け入れ時の性状確認をしっかりと行う 施工タイミングは左官屋との連携で判断
※本ページ内で、当初、芳賀敦氏と古関浩和氏の写真を誤って掲載していました。お詫びの上、訂正させていただきます。(2020年4月2日11時5分)