2.無筋コンクリート
福岡トンネルの覆工のコンクリートの一部が落ちて新幹線にあたったことがあります(図-4)。
図-4 覆工コンクリートの一部の剥落
この原因は施工時のコールドジョイントが引きがねといわれています。トンネルの覆工は一般に無筋コンクリートです。トンネルそのものは、周辺の地山の強度でもっており、コンクリートは、岩の風化防止や、部分的な岩の剥落をおさえる程度の役割として考えられてきました。そのため、コンクリートは打設後1日で脱型し、コンクリートの品質は意識されない施工がとられてきました。脱型時にクラックを入れることもしばしばありました。
JR東日本のトンネルの竣工検査には打音検査を導入しました。それまでは打音すると、ボコボコと浮いている音のする覆工が多かったのですが、竣工検査の項目として打音検査をすることのルール化をしたら、浮いている音のする覆工はなくなりました。型枠の脱型時にひび割れを入れないで施工するようになったのです。施工者は検査項目に合格するように施工管理をしているので、必要な検査項目が明示されれば対応できる技術力があるということを示しています。検査のルールは品質確保に重要です。
3.新設構造物への対策のまとめ
鉄筋コンクリート、無筋コンクリートを含め、コンクリートの剥落対策としてJR東日本では表-1のような対策を実施しました。設計、施工管理、検査それぞれに対応をしました。
表-1 新設構造物の品質向上施策
このコンクリートの剥落も、多くは設計、施工の建設時点が原因です。しっかりとしたものを造って、維持管理側に渡さないと維持管理で苦労することになります。かぶり不足など、竣工検査でわかったらその時点で、酸素や水が鉄筋に達しにくいように、表面被覆などの処置をして竣工させるなど、欠陥のまま、維持管理側に渡さないことが重要です。
コンクリートの品質は強度と耐久性が求められます。特に鉄筋の腐食に関しては、中性化、コンクリート中の湿度、酸素が鉄筋腐食に影響します。コンクリートの品質の検査に、これらの耐久性にかかわる透水性や透気性などを直接測る検査方法に変えていくことも今後のテーマかと思われます。
4.コンクリートの剥落のない構造物はできる
温和な環境でのかぶりの剥落は、構造物の安全性にはすぐに結びつかないので、かつてはそれほど気にされていませんでした。この事象は多く発生し、今ではすぐマスコミにも報道されるようになり、対策に最もコストをかけている事象の一つです。
設計かぶりを大きくし、水の浸み込みにくい単位水量の少ないコンクリートを施工することが望まれます。また完成時には、非破壊試験で実際のかぶりを確認して、不足する箇所は対策をしてから引き継ぐようにすれば、この問題はほとんど解決すると思います。
無筋コンクリートは建設時にクラックを入れないことです。竣工時に打音検査でクラックの有無を確認すれば、問題はほとんどなくなります。
いずれにしても、今までと同じ施工管理や、検査を続けていては同じことを繰り返します。この欠陥もなくすことのできる欠陥ですので、設計、施工、検査で対応していってもらいたいものです。
(2020年3月1日掲載。次回は4月1日に掲載予定です)
石橋忠良氏【次世代の技術者へ】シリーズ
①私の概歴
②鉄道建設の歴史
③アルカリ骨材反応
④アルカリ骨材反応(2)
⑤アルカリ骨材反応(3)
⑥コンクリートの剥落