3.コンクリートの施工
もう一つの原因は、コンクリートの施工にかかわるものです。トンネルの施工では、しばらく前までは、トンネル覆工コンクリートは、型枠をセットして、地山との隙間にコンクリートを施工する方法でした。狭い隙間に、人もバイブレーターも入りません。また十分なコンクリートの量が施工されたのかも見ることができず、わかりません。そのため、コールドジョイントや、覆工の厚さの足らない状況になりがちです。
また、しっかりコンクリートが施工されても、地山とコンクリートが密着していると、コンクリートの収縮が拘束されてひび割れが入りやすいことになります。この施工の難しさが原因でひび割れが入ったり、コールドジョイントができたり、それが原因で剥落が生じたりしています。
トンネルの施工にはいろいろな方法がありますが、多くは上半分のアーチ部を先につくり、その後に、下の側壁部をつくっていく方法がとられます。この場合、打継部のコンクリートの施工が難しく、型枠を斜めにして上の部分を広げてコンクリートを打つことで、打継部に、コンクリートを確実に充填させようとの施工が多くされてきました。
この部分は少し飛び出して残っています。この飛び出している部分が、時々落ちるということも起こっています(写真-5)。今は事前に落としてしまって対応しています。
現在の主なトンネルの施工はNATM工法で、最初に地山にコンクリートの吹き付けをして、必要なロックボルトを施工します。そのあとシートを施工して内側に再度コンクリートを施工しています。地山と縁を切った内巻きのコンクリートが表面に見えているのできれいな状況となっています。また、地山にコンクリートを吹き付けているので、天井付近に地山とコンクリートの間に隙間が生じていることはありません。ただし内巻きコンクリートの天井付近のコンクリートの施工が難しいことは、今までと同様です。
4.既設構造物への対策
4.1 鉄筋コンクリート
コンクリート片の剥落対策は、人や物に当たると被害の生じる箇所では、応急的には一般にネットを施工しています。
剥落対策が大変なのは、高架橋のスラブから一カ所でも剥落が発見され、そこの下が道路など人の入れる場所であると、その施工者が施工した付近の被害が想定される箇所、全構造物に対策をすることになるからです。
東北地方で、スラブのコンクリート片が落下しました。落下したのはモルタル製のスペーサーでした。スペーサーの上の鉄筋が錆びていました。錆の状況から塩分がスペーサーに含まれていると思ったので、塩分を調べてもらいました。思った通りモルタルスペーサーに塩分が入っていました。東北地方の作業では、寒い時期にコンクリートに塩を入れて早期強度を出そうとしたのか、融雪剤を入れたバケツでモルタルを練ったのかわかりませんが、時々このような事象もあります。この場合も、同一の施工業者の施工した構造物で落下すると危険な箇所すべてに剥落対策をすることになりました。
恒久対策としては、ネット入りの表面被覆工を施工しています。恒久とはいっても、とりあえず10年程度の効果を発揮している実績のある工法を、現場調査の上選定しています(写真-6)。
新規の工法は、10年の保証をしてもらうことを条件に、少しずつ実績を見ながら採用するようにしているのが現状です。材料規格を特に決めていないのは、試験室の成績が、実施工での耐久性と必ずしも一致しないからです。新しい材料を開発したといっていろいろな会社が説明に来ます。その場合は、とりあえず新潟地区などの環境の厳しい現場を提供して試験施工をしてもらうようにしています。多くの新材料は1年経つとだめでしたと報告されるのがほとんどです。
4.2 無筋コンクリート
トンネルのコンクリートの剥落は、後から剥落箇所を埋めるなどの処置をしても、その処置したものがまた落ちることになるので、残った部分が健全なら、落ちたら落ちたままにすることが基本です。落ちた後を埋める方法は、コンクリートの接着に期待するのはあきらめるべきです。どうしても落ちた箇所を埋めたいのであれば、アンカー鉄筋などしっかり施工し、付着がなくても落ちないような方法で対応すべきです。
また落ちそうな箇所は、落としてしまうか、落ちないようにアンカー鉄筋を施工するか、表面をシートで覆って、シートと覆工を接着させる方法がとられています。あとからつけるものは剥落しやすいので、シートにも短いアンカーを併用したりして、接着だけに期待しないことが必要です。
5.まとめ
コンクリートの剥落をおこした、鉄筋腐食の生じた構造物の耐荷力についてはどうなのでしょうか。
鉄筋腐食によりコンクリートのかぶりが剥落しても、通常の温和な環境では急激に鉄筋が腐食し断面減少するわけではありません。定期的な外観検査で、剥落と鉄筋腐食を見つけたら鉄筋の錆を落として、錆止め、断面修復をすることになります。かぶりの剥落を見つけた時点での鉄筋腐食による断面減少は数%ですので、耐荷力にはほとんど影響しません。見つけたら処置をしていくことが大切です。
鉄筋コンクリートはこのように欠陥をかぶりが剥落することで自ら教えてくれる性質を持っています。その都度対処していくことで、十分耐荷力を維持できます。大切なことは見つけたら処置をしていくことです。
トンネルなどの無筋コンクリートは、剥落したままでも構造上問題がないならそのままとします。埋める必要がある場合は、アンカー鉄筋を配置して、後から施工した部分の接着力がなくなっても落下しないような配慮が必要です。
(2020年2月1日掲載、次回は3月1日に掲載予定です)
石橋忠良氏【次世代の技術者へ】シリーズ
①私の概歴
②鉄道建設の歴史
③アルカリ骨材反応
④アルカリ骨材反応(2)
⑤アルカリ骨材反応(3)