道路構造物ジャーナルNET

⑤アルカリ骨材反応(3)

次世代の技術者へ

土木学会コンクリート委員会顧問
(JR東日本コンサルタンツ株式会社)

石橋 忠良

公開日:2020.01.01

2.曲げ耐力が問題ないとすると、せん断耐力が問題となるのでしょうか

 ひび割れが縦横無尽に入った鉄筋コンクリートのせん断耐力はどうなるのでしょうか。アルカリ骨材反応が問題となり始めたころ、アルカリ骨材反応を生じさせる梁をつくり、何トンで壊れるかの国際コンペが行われました。当時東大の前川先生などは応募したのではないでしょうか。反応前よりもせん断耐力が大きくなるという計算結果で応募したと記憶しています。
 前前回紹介した新潟地区のアルカリ骨材反応で変状している高架橋からスラブを切り取り、その状態のものと、ASR促進膨張(デンマーク法)をさせたものと、新たに同じ配筋で試験体を造ったもので、せん断の載荷試験をしました(写真-1)。構造物から切り取ってきたスラブには、中のコンクリートにも縦横に細かいひび割れが生じています。


写真-1 せん断試験

図-1 促進膨張の結果

図-2 新たに同じ配筋でつくった供試体と、切り出したままの供試体、促進膨張させた供試体の静的なせん断耐力試験の結果

 図-1のグラフは、切り出したスラブを、50℃の飽和塩化ナトリウム溶液中につけて促進膨張させた結果です。
 図-2は、せん断試験の結果です。結果を見ると、新しく作った、健全な供試体のせん断耐力が最も小さくなっています。アルカリ骨材反応でひび割れの入った供試体のほうがせん断耐力が大きくなっています。アルカリ骨材反応でひび割れが入ることで、せん断ひび割れの方向を制約すること、および膨張によりプレストレスが入ることの効果でせん断耐力が大きくなっているのです。どんどん変状が進んでいけば、耐荷力が落ちるということが起きるのかの確認はできていません。


図-3 せん断疲労試験結果(気中)

図-4 せん断疲労試験結果(水中)

 図-3、図-4は梁のせん断の疲労試験の結果です。気中と水中での結果です。
 図中には、気中の場合は上田先生の実験の式を、水中は井上先生の式を参考に示しています。どちらの試験結果も既往の式に、ほぼあっています。いずれも、アルカリ骨材反応でひび割れの生じている供試体のほうが、新たに造った供試体より、静的せん断強度が大きくなったことに比例して、疲労強度も大きくなっています。
 この結果からは、経年25年程度ですが、アルカリ骨材反応でひび割れが生じている鉄筋コンクリート構造物の耐荷力は低下していないことが示されました。
 アルカリ骨材反応でひび割れの生じたRC部材はプレストレスの効果でせん断耐力は向上するといわれていましたが、今回の結果はそのようにせん断耐力は大きくなっていました。また、心配であったせん断疲労強度も、静的強度の増加に比例して大きくなっていました。

3.今後の対応

 今後、何十年と耐荷力の低下のない状況がそのまま続くかどうかまではわかりません。
 この付近のアルカリ骨材反応の生じている構造物では、鋼材が腐食するか、鉄筋の定着部の損傷が進み定着が弱まることがあれば、耐荷力が低下することが起こるのではと思っています。
 耐荷力が低下してきたり、コンクリートが剥落し始めたりしたら、対応することが必要かと思いますが、当面耐荷力の低下はなさそうです。また今後20年程度したら実物からスラブを再度切り取るなどして、その時点で確認試験をして判断すればよいかと思っています。
 列車が毎日走っており、冬は融雪のため、お湯がスラブ上を流れる環境で、完璧な防水工なども難しい状況です。このまま経過観察を続けながら、使い続けて行くことが良いのではと思っています。
 何十年か後に切り取った部材の載荷試験の結果、耐荷力に不安が生じたら、その時には、新しいスラブと梁を隣につくって、一晩で横に移動してスラブと梁を新しいものに交換するなどしたらよいのではと思っています。

 アルカリ骨材反応で鋼材の配置された構造物の耐荷力が心配になるのは、鋼材腐食が生じた場合や、鉄筋腐食以外では、凍害や塩害などのほかの原因が複合的に作用する時かと思います。凍害ではコンクリートが著しく強度を失ってきますし、塩害などで鉄筋腐食が生じるとこれはそのまま耐荷力が低下します。
 この問題は、高度成長期に知識がなかったために生じたものです。今ではそれなりの知識が得られているので、同種の問題は生じないようにできます。建設時点で対応を取れば、この問題はなくなります。負の遺産を残さないために、一つずつ原因を取り除いていくことが大切です。
【追記】
 このままだと皆安心してしまうのではないかと思い、以下の点は注意が必要だということを付け加えます。
 今回の曲げやせん断耐力が低下しないのは、前提として鉄筋が健全で、定着がしっかりしているということがあります。鉄筋の圧接部や、曲げ加工部に欠陥がありそこで鉄筋が切れていたり、定着部がアルカリ骨材反応で劣化していて鉄筋が力を受けると抜けだすようでは耐力低下を起こしてしまいます。
(2020年1月1日掲載、次回は2月1日に掲載予定です)

石橋忠良氏【次世代の技術者へ】シリーズ
①私の概歴
②鉄道建設の歴史
③アルカリ骨材反応
④アルカリ骨材反応(2)

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