前回、アルカリ骨材反応での損傷の生じた構造物について、JISに従って造ったので、施工者に補修費を負担させるわけにはいかないだろうということで、補修費を発注者が負担することとした話をしました。その時に、今後同じ問題の生じる構造物を造ったら、インハウスエンジニアの責任だと言われたことも話しました。
すでに経験したトラブルであるので、同じ問題を再び生じさせたら、JISの通り造ったから施工者にも、インハウスのエンジニアにも責任はないとは言えないこととなるのは当然だと思います。
新設構造物への対策
厳密な理論や研究はともかく、今後つくる構造物に同じような問題が生じないように対策をしなくてはいけないことになりました。現行のJISと大幅に体系を変えるルールとすることは抵抗が大きいと思い、JISのアルカリ骨材対策に準じて少しルールを変えることにしました。
新設の構造物を欠陥構造物としないために、JISと異なるアルカリ骨材対策を社内の仕様書に導入しました。骨材が疑わしいと思ったら、混合セメントを使うことを中心とした対策です。
JISにて無害と判定されている骨材について、その境界を厳しくしました。JISではモルタルバー法で膨張率0.1%を限度としていますが、その半分の0.05%までを無害として、それ以上の膨張の骨材は対策をすることとしました(図-1)。
図-1 モルタルバー法による骨材のアルカリシリカ反応判定区分
また、膨張率0.05~0.1%のものについては膨張率の勾配により、有害と準有害に分けて対策を分けることにしました(図-2)。
図-2 モルタルバー法による骨材のアルカリシリカ反応判定区分
化学法での判定基準も図-3のように変えました。モルタルバー法や化学法の判定区分の、変えた数字には厳密な根拠はないが、おおむねこの程度なら良いであろうと判断し、コストも、施工者側の対応も難しくはないであろうということで決めたものです。これらの数字については、この分野に詳しい大学の先生にも事前にこんな考えでどうでしょうかという話はしていました。
図-3 化学法による骨材のアルカリシリカ反応判定区分
図-4 アルカリシリカ反応抑制対策
JISそのものの規定を変えるには、数字的な根拠などそれなりの研究が必要であろうことは想像できます。そのため、すぐに変えるのはなかなか難しいと想像します。しかし、実際の現場で欠陥が生じる可能性があるなら、しかもコストもほとんど変わらずに対策できるなら、事業者は対応していくことが必要です。
対策は簡単なのです。骨材の膨張量など、骨材の品質を心配するなら、初めからすべてのコンクリートを混合セメントや、普通ポルトランドセメントに高炉スラグやフライアッシュなどを加えたセメントを用いたものにすればよいのです。
いろいろなほかの性能もこれらのコンクリートは優れています。混合セメントは中性化が早いという心配もしましたが、実構造物を調査した結果、普通ポルトランドセメントと変わらないということで、設計かぶりも変えることなく、図面変更もなく、セメントの種類を変えることで対応できるようにしました。
骨材の試験もサンプリングの試験ですので、その試験結果で全体を表しているのか不安もあります。無害という結果でも、サンプリングの場所によってはすべての骨材が無害であるかはわかりません。
混合セメントや、これら混和材を加えたコンクリートの値段は普通コンクリートと余り変わりません。地域によって手に入りやすい混和材の違いはありますので、手に入りやすいものを用いればよいと思います。
混合セメントは初期強度が出にくいということはあるので、どうしても早期強度のために普通ポルトランドセメントを使いたいのなら、その時はしっかり骨材を調べて使うことが大切です。
これらのルールは2011年より正式にJR東日本の契約書に取り入れられて使われています。
写真-1、2は、アルカリ骨材対策として全面的にフライアッシュを加えたコンクリートを用いて施工している新潟駅付近の高架橋です。
フライアッシュを全面的に用いることについては、事前に新潟市の「新潟生コンクリート協同組合」と話し合いをし、全面的に協力していただいて実施しています。配合表の一例を表-1に示します。
ある大学の先生に、この件ではないですが、JIS製品で問題が生じた事例を話したら、「JISを信用するほうが悪い、JISは生産者を守るための規格で、使用者を守る規格ではないのだから、使用者は勉強して自己防衛をしなくはいけない」といわれたことを思い出しました。
今では、JR東日本のみでなく、かなりの機関で、これと全く同じではないが、同様のアルカリ骨材対策をとるようになってきました。問題の生じる可能性のあることは、あまりコストがかからずに対応が可能なら、建設時に対応すべきです。造った後から生じたトラブルへの対策は、ほとんどの場合、完璧な対策はなく、多くは何度も補修を繰り返すことになります。
耐久性の問題のある構造物の原因のほとんどは、設計および施工の時点にその原因があります。今も使われ続けている径年100年の明治、大正に造られた構造物は、建設時点での欠陥がほとんどないものだからです。建設時点で、欠陥の可能性はできるだけ排除しましょう。
(2019年12月1日掲載、次回は2020年1月1日に掲載予定です)