道路構造物ジャーナルNET

シリーズ「コンクリート構造物の品質確保物語」㉝

品質確保と講習会

横浜国立大学
大学院 都市イノベーション研究院
教授

細田 暁

公開日:2019.10.16

3. 横浜国立大学での講演会

 2003年10月に、30歳でしたが横浜国立大学の准教授に着任しました。着任後の私の正直な感想は、研究室のゼミ等で交わされている情報や議論の質が非常に低い、というものでした。誰が悪い、とかそういう議論をするつもりは全くなく、当時の私が感じた正直な思いです。その状況を改善すべく、自分にできる研究や教育での工夫はもちろん実践しましたが、さらに外部から私の信頼する技術者を招いての講演会を開催しました。毎年1回、3年間実施しました。その講演会の懇親会で、一緒に研究室を運営していた椿龍哉先生が「細田先生は、研究室に刺激を与えようと、この講演会を企画している」という趣旨の発言をされたのを今でも覚えています。

 その後、外部から講師を招くだけでは情けない、と思うようになり、多少は実力も向上していたのでしょうが、自らも講師として登壇する研究会を主催するようになりました。
「コンクリート材料―構造の最先端技術に関する研究会」と題して、毎回、特定のテーマを設定し、私自身を含む6名の講師に登壇していただくものでした。テーマは、ひび割れ、塩害、発注者の役割、など当時の私が本当に議論したいことを、たこつぼにならないように「材料―構造」と幅広く勉強するような講師陣をお願いして、魅力的な研究会となるように全力を尽くし、誰でも参加できる形としました。毎回100名を超える参加者があり、盛り上がりました(写真1)。研究会の後、土木工学棟のセミナー室で乾きものと飲み物で、ぎゅうぎゅう詰めの懇親会を行い(写真2)、その後に40名弱の大懇親会を横浜駅周辺で行いました。講師の方々には、旅費も謝金も支払いませんでしたが、講師の皆さんも他の講演を聴いて、そして懇親会で満足していただけるように努力しました。


写真1 第2回のコンクリート材料-構造の最先端技術に関する研究会の様子(2007年12月)

写真2 横浜国大での講演会の後の乾きものでの懇親会

 この横浜国大での講演会は10回程度実施しましたが、そうこうしているうちに東日本大震災もありましたし、次に述べる山口システム発の品質確保の講習会をあちこちで開催するようになり、現在は横浜国大でコンクリートに関する講演会は行っていません。時が経てば状況は変わるので、また積極的に大学で講演会を実施するときが来るかもしれません。

4. 山口県の講習会

 実はこの記事は、プラハで書き始めて、飛行機に乗った後、食事の時間も挟んで一気に書き上げてしまいました。しかし、2章の冒頭に書いた、「切りがよい」ところで終わらないように、さらに次の原稿を書き始めよう!と上書きしながら書き始めたところで、間違って保存してしまい、今回の記事の中盤以降が消失してしまいました! 機内でがっくりしながらワインを飲んだことは言うまでもありません(笑)。
 というわけで、この章は、10月に入ってしまいましたが、盛岡へ向かう新幹線の中で書いております。

 この連載でも書きましたが、私は2009年3月3日に山口システムに出会い、衝撃を受けることになります。その後、私なりに、山口システムに「入り込み」(笑)、このすごいシステムを見てほしくて、私の周囲の方々を連れて何度か通いました。当時、岸利治先生の土木学会の委員会(335委員会)でコンクリート構造物の表層品質を組織的に勉強していたこともあり、山口システムのbefore/afterで表層品質に違いのあることを私は直観的に見抜きました。2010年7月28~29日に、私が調査隊長という形で、表層品質に関わる研究者たちが大挙して山口県を訪れ、山口県の方々に多大なる援助をいただいて、before/afterの構造物群の調査をしました(写真3)。翌日の7月30日に、山口県の第6回のコンクリートの品質確保の講習会にて、調査結果の速報を報告することになりました。


写真3 山口県のひび割れ抑制システムの開始前の橋台の調査(2010年7月)

 山口県のコンクリートの品質確保の講習会は、毎年1回程度、ひび割れ抑制・品質確保システムに関わるすべてのプレーヤーが集う形で開催され、多い時は500名を超える参加者があります。その第6回目に、JR東日本の石橋忠良さんもお招きして特別講演をいただき、表層品質に関する講演、高炉スラグ微粉末を用いたコンクリートに関する講演、7月28~29日の調査結果の速報、さらには私がコーディネーターを務めるパネルディスカッションまで開催し、これらの企画一切を私がマネジメントさせていただくことになりました。
 これを機会に、私は山口システムの傍観者ではなく、山口システムのプレーヤーの当事者の一人となり、山口県の皆さんも私のことを本当に信頼してくださるようになったと思っています。
 山口システムの講習会から学ぶことは多く、産官学のすべてのプレーヤーが発表し、システムの中での良い実践例も多く発表されます。良い仕事をした人は皆の前で発表することで大きな成功体験にもなります。これまでの講習会の講演資料は山口システムのホームページで公開されているので、これも貴重なデータベースと言えます。公開された資料を自分で勉強して、日常の品質確保・ひび割れ抑制に活用している技術者も少なくないと思います。また、山口システムの講習会のあり方は、次に述べる東北での講習会にも大きな影響を及ぼしています。
 その後、山口県の講習会で私も何度か講演させていただき、2018年9月の第12回では、山口システムが土木学会技術賞を受賞したことを受けて、記念講演をさせていただきました。私自身も山口システムに大いに鍛えていただいた一人で、心から感謝しています。

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