道路構造物ジャーナルNET

シリーズ「コンクリート構造物の品質確保物語」㉜

青森発 地場ゼネコンが高耐久コンクリートを実現する

上北建設株式会社
土木部 主幹

音道 薫

公開日:2019.09.11

締固め時間を計測して施工したことに大きな意味
 より良い構造物を届け、次世代の負担にならないようにする

 細田 高耐久現場打ちRC床版について技術的に思うところはありますか。
 音道 締固め時間を計測しながら施工したことが、大きく意味があったと感じています。



締固め時間を計測しながら施工

 細田 (JCI年次大会の)生コンセミナーの基調講演で空気と凍害についての話がありました。凍害って結局、促進試験によってしか確認していないので、長期間供用される構造物で凍結防止剤も散布される中、どうすれば凍害を防げるかというのはまだ本当には分かっていません。乾湿繰返しを受けることで当初持っていた耐凍害抵抗性が損なわれるというような研究事例も最近出てきていますから。実験条件によっては空気泡内に充満した水が逆に凍害を助長するというような結果も出てきているようです。私は検証というのが大事だと思っていて、私たちの取組みの結果も粘り強く長期間、確認していかないといけません。そこは学者としての矜持をもってやっていかないといけないと思っています。
 さて、技術者として大切にしていることは
 音道 冒頭に申し上げました通り、社会貢献です。品質確保も高耐久性の追求も、これらは全て社会貢献にくくられる一つの行動であると考えています。我々は公共事業を扱う技術者ですから納税者の皆様により良いものをお届けする、未来の子供に対して負担にならないものを提供してあげるというのが今、一番大事にしていることです。地元の別の会社に就職した後輩からも、技術面から書類の作成まで様々なことを相談されます。私も忙しいですが、頑張っている後輩のために書類も添削してあげるし、技術面でのレクチャーもしています。次代を担う後輩も大事にしたいと思っていますので。
 細田 次代の技術者へのメッセージは
 音道 自分が正しいと思うことは、諦めることなく貫き通して欲しいです。成果を得るためにどんなに遠回りしたとしても、前進するスピードが遅くてもやり続けてほしいです。成果がすぐに出なくても、いつか目標としたことを達成すれば、大きな価値があると私は信じています。
 細田 全く同感です。このコンクリート構造物の品質確保という取組みは、僕の卒論のテーマだったんですよ。どうしようもない卒論でした。学部4年生の手に負える代物じゃないですから。それを20年越しで施工状況把握チェックシートであるとか、表層品質の確保などの取組みを皆さんと実践して、何とかようやく卒論でやろうとして目的に近づいていますが、今でも途上です。
 音道 一緒に山口の勉強会に行った時に、私は吉田松陰が大好きですと話しました。吉田松陰の「夢無き者に理想なし、理想なき者に計画なし、計画なき者に実行なし、実行なき者に成功なし。故に、夢なき者に成功なし」という言葉に共感したからです。だから、自分も夢や目標を追いかけて実行してるんですよ。なので、若い人には夢や目標を諦めるという選択肢を選んで欲しくないですね。
 細田 ありがとうございます。私の修士論文もとんでもない駄作で、イメージ的にはコンクリート材料の特性と、構造物の実際の性能を何とか結び付けようというものでした。とんでもない駄作だったんだけど、今取り組んでいる高耐久現場打RC床版のひび割れ抑制は、材料レベルで計測した物性値も使って数値シミュレーションも行い、実物でも検証しているわけです。だから現在は、あの修士論文で目標としていたこともしつこくやっているわけです。諦めないことが技術者や研究者には大事です。
 音道 すぐに成果を目指す人が多いですから。仮にすぐに成果が出たとしても、またそれには次があるわけですから。
 細田 高みを目指してほしいですよね。憧れってすごく大事で、自分が若い時に見ていた岡村甫先生とか、石橋忠良さんとか、前川宏一先生とか本当に凄いなぁーと思ったし、何とかその高みに近づきたいなぁーと今でも思っています。

土木部門で県内1位を目指す
 現場の変化を感じ取ることが大事

 編集部 社会貢献を追求する求道者のように感じますが、個人的な野心はないのですか。また会社の利益という側面から、活動はどのような影響を齎せているのでしょうか。
 音道 個人的な野心という点では、県内で10位に入るか入らないかという会社である上北建設を、技術を蓄積して土木部門で県内1位にしたいという思いがあります。一人では無理ですから信頼できる先輩や後輩にはその旨を公言しています。一位になれなくてもOBや同僚、後輩が誇りに思えるような会社にしたいのです。

 編集部 青ぶな1号橋のようなやり方は、将来の発注時の積算を改善していくためという意味では非常に良い反面、現場での採算は厳しいと思います。会社はどのように判断しているのでしょうか。
 音道 会社も国土交通省の仕事をたくさんやってきていますから、場合によっては厳しい現場になることがあることは理解してくれています。
 編集部 学会や他社現場でのレクチャーなどに対する理解はどうですか。
 音道 そのような活動を行うのと並行して、今でも現場をもって仕事しています。自分で持っている現場では、きっちりとある程度の利益を確保できるよう努力しています。品質・耐久性確保の試行工事である青ぶな2号橋の下部工現場では設計変更審査会で、取組みに関する費用を説明して了承してスタートしており、前回のような持ち出しが無いようにしています。自分の現場がコントロールできるようであれば、社外での活動に対して何か言われるようなことはないです。
 編集部 民間住宅の施工であれば、名指しで棟梁として指名されることもあるじゃないですか。土木分野でもそうしたことはありませんか。
 音道 あります。国交省や県の仕事をしていても、かつてお世話になった役所の方から、「今回の現場は音道がやらないのか?」といわれることがあります。現在は国交省の仕事をやることが多いのですが、県の方から「県の仕事もやってくれよ」といわれます。成績評価点もかなり高い点数を得ています。これが次の仕事に繋がっています。
 編集部 自社だけでなく地域全体の底上げという点や人の育成は。
 音道 阿波先生が青い森ネットワークという部会を作っていて、そこで青森県の職員はもちろん、NEXCOの方も含めて入ってきてくれて、そこで情報交換しながら、なんとか落とし込んで行くように阿波先生が頑張っておられます。この部会の活動がもう少し活発化してきたら、さらに変わってくると思います。国でやっている現在の知見が伝われれば、材料に依存しなくて、丁寧に施工するだけでも、良いものが作れるという事を県の人にもしっかりと分かってもらえる必要があるから、チェックシートや目視評価というのは大事であると考えますし、それを現場で使っていこうと考えます。
 細田 その過程で失敗をなるだけ恐れずチャレンジして行って欲しいですね。
 音道 今、自分の現場に新入社員が配属されてきていて、彼に「日々の建設現場の変化をしっかりと観察しろ」と話しました。「1日当たりどれくらいの仕事量をこなせているかも1つだし、何か一つをテーマにして追いかけろ、それも一つの研究なんだ」と発破をかけました。「それを意識すれば貴方の成長スピードはもっと速まるはずだ」と。
 編集部 品質を確保しながら省力化・省人化を行うためには
 音道 基礎がしっかりとしている人が現場に配属されて、その上でやるべきことをやれることが大事です。土台がしっかりしていないのに省力化・省人化を追求してはただの手抜きになってしまいます。ベースをどう育成するかが第一です。それができて初めて省力化・省人化があると思います。
 コンクリートの現場で省力化・省人化を追求するのは結構難しくて、単にプレキャストを使ったらいいだろう? とかそういう人がいますが、私はそう思っていません。現場打ちとプレキャストを二本立てでやって、現場打ちの技術を残しつつ、必要なところをプレキャスト化すれば良いと思います、現場打ちの技術を無くしてしまえば将来のメンテナンスを担える人間がいなくなってしまいます。
 細田 当然、高流動コンクリートだって使われることになるだろうけど、本格的に使われるためには設計に入らなくてはいけませんから。材料単価が上がっても工期も含めてトータルで安くなるということであれば財務省としてもOKなんですよ。そういう方向に行くと思います。高流動も当たり前のように土木でも使われるようになると思いますし、プレキャスト化も進むようになると思います。
 しかし、基礎がしっかりとしていないといけない。材料だって難易度がどんどん上がっていくと思うので、その意味では余計人の価値が高まってくると思います。人が賢くならないと使いこなせません。本日はありがとうございました。

(2019年9月10日掲載、次回は10月に掲載する予定です)

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