現場に合わせて混和剤を変える
床版防水も橋梁の形状に合わせて選択
細田 さらに細かいことをいくつか聞きます。生コンの運搬も60分かかったので、配合もかなり工夫されていますよね。また曲線橋であったためシート防水なども勉強したと思いますが、その2点を詳しく教えて下さい。
音道 配合は生コンプラントの試験室の人と話をした時に、まずこれだけW/Bを下げるのであれば高性能AE減水剤を使うのが良いのか? という議論になりました。しかし高性能を使うと薬が効いている間はフレッシュ性状を確保できますが、薬の効果が切れたときに扱いづらくなるのではないかということが懸念されたため、高性能AE減水剤を使わないことを決めました。
結果的には高機能タイプのAE減水剤を使用することに決めました。できれば単位水量は165㎏/m3以下にしたかったのですが、最大1時間半の打設時間を考えた時に暑中になることも想定できたため、単位水量を170㎏/m3まで上げて、セメント量はちょっと増えるけれど、高機能AE減水剤で調整しながら打設したことが工夫といえます。
細田 事前検討で相当に配合も検討されましたよね。フライアッシュも含めて相当幅広い配合で、阿波先生や佐藤先生のアドバイスをもらいながら施工されていましたが、その当たりはどうですか。
音道 フライアッシュが青森県でほとんど需要がなく、使っているのは六ヶ所村の原燃だけでした。セメントメーカーからの供給も細く、試験用ということで何とか取り寄せ、フライアッシュと高炉のW/B40%のコンクリートの室内試験や実地試験をしてみました。フライアッシュはフレッシュ性状の変化が生じるのが少し早く、60分過ぎたあたりから一気にこわばり始めたため、結果的には高炉セメントを選択しました。国交省の標準仕様がN(普通ポルトランドセメント)ですので、Nも当然試験し、データを比較して、やっぱり高耐久にならないよね、ということを実証するために、Nも含めて多くの配合で試験しました。
細田 シート防水は佐藤さんが音道さんとよく勉強して、その当たりもRC床版の耐久性確保の手引きにたくさん入りましたね。
音道 青森県でシート防水による施工がきちんとできる業者は1社しかありません。シート防水はどうしても付着力が弱く、とりわけ斜角が入っていると、シートはまっすぐしか貼れないため、継ぎ目が数多く発生してしまいます。シートと床版の間にも空気が入りやすくなります。曲線橋や斜橋では、シート防水はあまりよくないと思います。シートの継ぎ目が多く発生していると舗装の平坦性にも影響してきます。
斜角かつ曲線が入っている橋梁での床版防水工は難しい(写真は舗装完了状況)
シート防水の施工状況
継ぎ目及び膨れ/排水桝周り
防水工の補修状況
事業量の減少とともにノウハウが減る舗装現場
あえて、ありのままを見せた
細田 高耐久な現場打ちRC床版を実現するには三位一体の取組みが必要です。床版本体の高耐久化としっかりとした防水工、最後にアスファルト舗装、すべてに配慮しないと本当の高耐久床版にはなりません。その意味では防水工についての記載が入ったのは大きいと思います。アスファルト舗装についても以前から気を付けて施工していたのですか?
音道 弊社は元々舗装工事に対する取り組みが早かったので、舗装は得意です。しかし近年は舗装修繕工事の数が減っていて、作業員自体のノウハウが減ってきています。私たちが指摘しないとやらない部分というのがあります。一時期舗装工事を受注するにはとにかく原価を下げてやらざるを得なくて、そうすると人も削減するしかなく、直接品質に関わらないようなところでは手を抜くことになります。前回、青ぶな1号橋で施工した時も佐藤先生が現状を知りたいというお話だったので、ありのままを見せました。
例えば、粗骨材がばらけてダンプに踏まれているケースもありました。本来は、掃除を欠かさず行うべきなのですが、結局言わないとやらないほど作業員のレベルが下がっている状態であるわけです。でも結局そうした状態があったからこそ、不具合の事例として手引書に載りました。会社とすれば汚点かもしれませんが、正直に見てもらって改善してもらえるよう努めました。これは弊社だけの事象ではありませんでしたから。どれだけの人間を各工程にかけるべきなのか、人を削減する方向に走っているから掃除など細かいところに人を割けなくなっていると考えます。
編集部 防水工を容易に傷つけますね、それは。
音道 ですので重ね継ぎ目を無くすべく流し貼り+シート工法を施工するのが良いと考えています。
次代を担う高校生にも現場を積極的に公開
細田 青ぶなの現場についてもう一つ聞きます。私が現場に行ったのは2018年の7月だったと記憶していますが、模擬床版の施工をしていました。そこには西松建設などのちに高耐久床版を施工する他の会社も見学に来ていました。びっくりしたのは十和田市内の高校生が大型バスに乗って沢山見学に訪れていました。忙しい中で仕掛けたわけですが、あれはどういう思いから行ったのですか
音道 三本木農業高校(音道氏の母校)の生徒は実機試験練りの時も呼んでいます。性状の確認だけだとつまらないので、現在現場で使われている自動追尾の測量機器や、安全に関する3DVRを体験させたりもしました。実機試験では高耐久な橋を造るためにこうした配合のコンクリートを練っているんだよという事を伝えたので、じゃあそれを実際に現場に来て、どういう風に打設しているのかを見せたくて、模擬床版の試験施工にも呼びました。ただ本施工の時は夏休みに入ってしまっているのでタイミング的に合わず、呼べませんでした、コンクリート品質を高めるための一連の流れを見せたかったのが一つと、そこまでやれる現場ってそうそうありませんから、めったにないタイミングを見せてあげたいというのが思いですね。
模擬床版の施工時の見学の時、大きな枡箱を用意して、その中にコンクリートを入れてバイブレータをかける体験をさせてあげたりもしました。重いバイブレータを用いてバイビングすることの大変さを感じてもらえたと思います。生コンで汚れることも含めて、建設の現場というのを知ってもらえたと思います。
技術の底上げのためには、「使う側」の意識や制度上の変革が大事
官学と地方の建設業者の橋渡しを担いたい
細田 色々なチャレンジを実現していく上で困難だったことはありますか。
音道 社内にコンクリートのことを自分と同じレベルで知っている人はいません。大手さんと違って技術研究所があるわけでもありませんし、自分が積極的に計画書から作っていったので、その思いを共に現場を担当した同僚に伝えていくのが大変でした。会社の応援は施工の時に少し手伝ってもらえるぐらいで、計画とかそういう所はやれる人はいませんから。それはちょっと苦しみました。
細田 さきほど百点の構造物を造ったことはないと仰っていましたが、高耐久コンクリートの実現にはまだまだ課題があると思います。音道さんの目で見て、本当に東北地方で、高耐久床版を造る際の課題はどう考えますか
音道 一つは官と民の高耐久コンクリートに対する温度差が大きいかな、と思います。それをできるだけ小さくしていかなくてはなりません。官の技術者間でも熱心さには大きな差がありますし、民間企業でも同様の例があります。コンクリートが得意な人が活躍できる仕組みをどう作っていくかという事だと思うのです。重要なコンクリート構造物を製作する際は、入札の段階でコンクリート技士や主任技士といった資格を有する技術(技能)者を配置させて、入札時の評価を加点してあげるとか、あとは会社でも人事考課してあげればよいと思います。スーパーマンに頼ってもその人がやらなくなってはだめですから、試行工事も増やしながら資格と組み合わせて、コンクリートを施工できる人間を増やしながら底上げをしてあげるのが大事かなと考えます。
2つ目として、凍害区分の種別Sのような特殊な取組みを行う場合において、地場の建設会社だとコンクリートに詳しい人はそうはいません。学の先生がそうした取組みに飛び込んできてくれるかが、大きな二つ目のポイントになるかと思います、
3つ目は、良いものを造りたいと思っている人に学の先生方をはじめ、施工経験に富む技術者が活動して、地場の会社の職員に対してインセンティブを与えてあげればいいのかなと思います。現場からは先生方に声をかけにくいということもあります。そこに自分のような経験のある人間が緩衝材としての役割を果たせば、彼らも先生に相談しやすくなります。そうすればコネクションができて裾野が広がるのではないのかなと思っています。
学と民の橋渡しを務めている桑折高架橋の現場(井手迫瑞樹および大柴功治撮影)
ただ、そこに大手さんだけが入ってしまうと、地元の業者のハードルが高くなります。橋渡し役は地場の会社の経験がある人が一番適していると思います。そうすれば東北地整の手引きに書いてあるようなノウハウもいろいろな地域に実装していけると思います。
細田 その当たりは阿波先生や子田先生が一生懸命携わっていらっしゃいますよね。
音道 子田先生は、桑折で非常に汗をかいておられます。
桑折高架橋の高耐久現場打RC床版の打設にも私は呼ばれていきました。そこでも小野工業所さんや佐藤建材工業(地元企業)さんなど地場の建設業者と先生との間のワンクッションを果たすことができたと考えています。