道路構造物ジャーナルNET

シリーズ「コンクリート構造物の品質確保物語」㉛

過酷環境下で供用されるコンクリート構造物の耐久設計の難しさ

横浜国立大学
大学院 都市イノベーション研究院
教授

細田 暁

公開日:2019.08.05

3. 耐久性確保のための要求性能の設定

 東北地方のRC床版については、以下の環境作用や供用環境を考慮する必要がある。
・凍害環境である。
・凍結防止剤が大量に散布される。
・防水工の健全性が損なわれると、凍結抑制剤を含む水や劣化因子が床版の上面から作用する。
・繰返し荷重が作用する。

 東北地方のRC床版の耐久性を確保するために、下記の事項が満たされる必要があると考える。
(1) 床版上面からのスケーリングに対して十分な抵抗性を有する必要がある。 
(2) 凍害に対して十分な抵抗性を有する。
(3) ASRによるひび割れが生じない。
(4) 塩害による鋼材腐食を生じさせない。
(5) 有害なひび割れが竣工検査までに発生しない。

 上記の項目を満たすために耐久設計を行うわけであるが、100年間の供用期間を想定して、それぞれの項目について定量的に検討することは容易ではない。「十分な抵抗性」や「有害なひび割れ」というものをどのように定義するかによって内容が変わってくるからである。

4. 進行性の劣化に対する基本思想とASR対策

 筆者らは、進行性の劣化については、一旦劣化が始まると手の打ちようが無くなると考え、劣化を生じさせないように耐久設計することを基本思想とした。
 本稿では、ASRの抑制対策について説明する。
佐藤和徳博士らは、塩分環境下(凍結抑制剤)によるASRについて検討した。コンクリートのアルカリシリカ反応性判定試験方法(JCI-AAR-3)において、供試体を包む保水紙に含ませる真水を20%NaCl 水溶液に代えた試験(SSW)により検討した。化学法で無害とされた骨材を使用したコンクリートをSSWにより試験したところ、東北6県の45のコンクリート製造工場のうち15工場でASRによる顕著な膨張を示した。図1が、15製造工場の27供試体のASRによる膨張である。



 図2、図3に高炉セメント、フライアッシュ(能代火力発電所のⅡ種灰)を混和材で使用したときのASRの抑制効果を示した。筆者の把握している範囲では、SSWという過酷な条件でのASR試験においても、高炉セメントB種もしくはフライアッシュを適切に使用することで、1000μを超える膨張ひずみが確認された事例はない。ほとんどの試験結果において膨張はほぼゼロであり、これらの対策の有効性が示されていると言える。
 高炉セメントあるいはフライアッシュを用いることで、ASRの反応性を有する骨材であっても有効に活用することができる。我が国においては、これらの対策を標準的に用いるべきであると筆者は考える。
 進行性の劣化であるASRを防止する目的で、高炉セメントあるいはフライアッシュを使用することが必須の条件となった。当然であるが、図4に示す多重防護の対策にこの対策が含まれている。

 さて、図4に示す対策により、100年の耐久性が確保できると考える証拠はどのようなものであろうか?筆者らは、証拠が十分に揃っているとは考えていない。しかし、復興道路におけるRC床版の実際の工事は次々と進められるため、悠長に検証を待つわけにもいかない。ある程度は割り切って耐久設計を行い、実務を前進させなければならないのも現実である。
 何度も議論を交わしてきた佐藤和徳博士は、「これまで造ってきたものに問題が生じているのだから、何も改善しないという選択肢はあり得ない。これまでより悪くならないんだったら試せばよい。」と周囲を勇気づけながら一連の動きを推進してきた。証拠揃えが絶対と言われればできなかった動きであったと思う。
 実構造物における効果の検証が難しい耐久性の問題であるが、時間はかかってもよいので検証を続けるべきであると筆者は考える。
 多重防護対策の中に追加養生があり、床版上面の養生については、給水養生を1ヶ月間行うことを手引きに記載した。この根拠は何であろうか?次稿では、養生やひび割れの観点も含めて、ASR以外の劣化に対する対策の根拠について論じてみたい。(2019年8月5日掲載)

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