道路構造物ジャーナルNET

シリーズ「コンクリート構造物の品質確保物語」㉙

地元業者が取り組む高耐久RC床版の施工(その1)

日本大学 工学部 土木工学科
コンクリート工学研究室
准教授

子田 康弘

公開日:2019.05.01

 勉強会を行った後、3月に2工区の試験施工が行われた(1回目3月1日:小野工業所2回目3月8日:佐藤建材工業)。まず、1回目の試験施工の結果からは、本施工に向けての課題が認められた。
 この床版施工における特徴は、道路線形が横断勾配が片勾配部で3%、最急縦断勾配が4%であり、曲線も入っている厳しい線形を想定しなければならない。つまり、試験施工における確認事項の主な要点は、縦横断勾配によってバイブレータによる締固めでコンクリートが低いほうへ流れることと、その中でどのように設計床版厚さと平滑度を保つ仕上げができるかを試すことである。
 試験施工は、実橋と同じ配筋とした6.3m×5.4m幅の模擬床版(写真-6)を使って行った。打込みは勾配の低いほうから行い、仕上げバイブを50cmピッチで最適な挿入時間を確認するというような検証が行われた(写真-7)。


写真-6 試験施工用の模擬床版

写真-7 (仮)桑折高架橋で行われた試験施工の状況(小野工業所)

 先行して試験施工を行った小野工業所は、締固め作業の着眼点を締固め時間の検討に特化した。この間、左官工による天端高さの再調整に着手することはなかった。結果として、写真-8に示すように、振動締固めによってコンクリートが流動し、最も勾配の低い隅の床版高が30mm高くなり、最も勾配の高い個所が40mm低くなった。このように締固めによって流動したコンクリートを再び天端高さに戻すかき上げと再均しが必要になるとわかった。事前にコンクリートの流動は予想していたものの、施工手段に意識が偏ったために流動の程度が大きいことに気がつかなかった。


写真-8 締固めによって流動した状況

 次に行われた写真-9の佐藤建材工業の試験施工では、先行の試験施工で得られた課題への対策を踏まえて実施された。改善点は、流動を極力抑えるため、バイブレータの直径をφ50mmからφ40mmにし、敷均し用レーキで打込み中、および打込み直後からコンクリートをかき揚げる(勾配をとる)対策を行った。


写真-9 (仮)桑折高架橋で行われた試験施工の状況(佐藤建材工業)

 試験施工では、天端高さにこのような対策によって、流動したコンクリートを元の高さに戻すことができることを確認した。加えて、床版コンクリートの打込みにあたっては、使用するコンクリートのワーカビリティー、フィニッシャビリティーの確認もさることながら、ポンプ圧送性の確認(試験施工の最後に高さ約30mの圧送を行い、橋面上でスランプロスを確認して著しいロスが起こらないことを確認)、スランプの経時変化の把握(本現場では高性能AE減水剤の効果を利用しスランプを大きくしており、その効果が低減するとスランプロスが急激に生じる)も行った。
 施工を行う2社は、このような精緻な現場コンクリートの性状を評価すること自体が会社としても初めてであり、この種の試験施工が社員1人1人の技術力の向上、生コンに対する見識の醸成に寄与していると思われ、地元業者が高耐久床版の施工に取り組む意義は県内の技術力を高める意味においてもその意義は大きい。
 以上のように、2工区2回の試験施工によって本施工における課題の解決策を、本施工の実施計画に取り入れることができたので、仮に1回の試験施工で残された課題をそのままに本施工には臨むことは不具合が生じるリスクを払拭せず本番に臨むようなものと言わざるを得なかった。

 RC床版の施工は、打込み、締固め、均し、仕上げが同時進行、かつ比較的広い平面の作業となり、締固め不良箇所や仕上げ不良箇所が生じやすいが、これは床版の耐久性を低下させる原因に直結する。
(仮)桑折高架橋における試験施工においては様々な課題が出たが、これは試験施工であるからの課題といえるが、本施工であれば施工不良(施工の失敗)となる。すなわち、床版を施工することにおいては、この種の試験施工が本施工に臨むに当たって重要な役割をなすといえる。試験施工後は、関係者全員で施工の振返り会(写真-10)を行い、発注者、施工者、左官工といった技能工を交え、意見交換を行うことで意思統一がはかれ、本施工に臨む体制が整うと思われた。


写真-10 試験施工のミーティング

 東北地方では、「既設構造物の不具合を新設構造物に持ち込まない」7)という信念を持って新設構造物の整備に当たっている。2019年4月2日より、本橋RC床版の打込みが始まった(写真-11)。


写真-11 本施工の床版コンクリート打込み状況

 本施工中においても改善の余地があった。例えばポンプ車2台の施工により、本締めの目印となるロープを幅員全長で伸ばすよりも中央で2分割したほうが施工が遅れている班に合わせる必要がなく効率が上がったなど、それらを改善しながら床版施工が進められている。この2工区は、予定通り進めば5月の連休明けに施工が終了する。この2社は福島県内における高耐久床版の施工ができる第一人者になる。桑折高架橋に高耐久RC床版が実装されることを期待したい。

 【参考文献】
1)道路構造物ジャーナルNET:インタビュー「 復興道路を1日も早く供用したい
2)土木学会:鋼構造シリーズ27 道路橋床版の維持管理マニュアル2016,2016.10
3)熱血ドボ研2030:新設コンクリート革命 長持ちするインフラの作り方,日経BP社,2017.3
4)例えば、道路構造物ジャーナルNET: 現場を巡る 「南三陸国道管内 小佐野高架橋の高耐久RC床版施工現場を視察
5)SIPインフラ 維持管理・更新・マネジメント技術:凍結抑制剤散布下におけるRC床版の耐久性確保の手引き(案),2016.10(注釈※1)
6)国土交通省東北地方整備局 コンクリート構造物の品質確保の手引き(案)
7)佐藤和徳:復興道路・復興支援道路に関する取組み,コンクリート工学,Vol.53,No.1,pp.15-20,2015.1 (注釈※1)なお,本手引きは国交省東北地整版として新たな知見も加えられた改訂手引きが近く公開予定である。
(2019年5月1日掲載)

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