シリーズ「コンクリート構造物の品質確保物語」㉘
二つの品質確保システム~発端の異なる山口システムとJR東日本システムの比較~
横浜国立大学
大学院 都市イノベーション研究院
教授
細田 暁 氏
〇 山口システムの特徴
世間でよく、「耐久性が重要といいながら、コンクリート構造物の検査では、いまだに出来形と強度とひび割れくらいしか検査しない」というようなことが言われる。ひび割れは目に見えるし、ひび割れ幅は正確な計測は実は容易ではないが、測ろうと思えば誰でも測れる。
山口システムでは、コンクリート構造物の検査システムの形は変えずに、竣工検査でひび割れ幅が貫通ひび割れの補修基準(0.15mm)に到達していないかをチェックしている。その検査をクリアするために、設計段階での適切な対策と、施工段階での施工の基本事項の遵守がなされるように建設システムが改善された、という見方をすることもできる。
筆者は、山口システムの考え方を発展させた品質・耐久性確保システムを、東北地方整備局での試行工事で産官学の協働で勉強しながら実践している。凍結抑制剤を大量散布する厳しい供用環境で十分な耐久性を発揮するための構造物を建設するため、設計、施工の各段階で様々な工夫を行っている。品質を向上させるための取組みとして、数多くの試行工事の中で目視評価法や表層透気試験・表面吸水試験等も活用しているが、これらと検査の関係については筆者自身の中でもまだ十分に明らかな解が無い状態である。
最終的には、設計・施工・検査の一気通貫のシステムが構築される必要があると考えており、その意味でも、試行工事の段階をとうに終えて、正式な運用が続けられている山口システムから学ぶことは今でも多い。
〇 JR東日本の品質向上施策
一方のJR東日本の品質向上施策について説明する。筆者は、博士課程修了後にJR東日本の構造技術センター(当時、石橋忠良所長)で勤務を開始し、様々なことを学んだ。現在の筆者の研究スタイル等にも多大な影響を及ぼしている。例えば、「構造物の変状の調査を深く行いたい気持ちは分かる。だけど調査をいくら行っても、対策(補修方法)が結局同じになるのだったら意味がない」とか「実構造物がよくならないと、研究を行っても意味がない」というような考え方である。
また、構造物の変状の原因を徹底的に究明して、その分析結果に基づいて適切な対策を講じ、システム化し、さらにはそれを論文として発表する、というやり方は、組織の中で実際に見て体験して、大変に勉強になった。当たり前のことを当たり前に実践する、ということは必ずしも容易ではないが、実は現代に最も必要なことではないか、と感じる。
さて、JR東日本の品質向上施策の詳細については参考文献1)、 3)を参照されたいが、私の理解している本質を以下にまとめる。
山陽新幹線での1999年の剥落事故を受けて、緊急点検・緊急措置が行われた後、JR東日本でも高架橋等からのコンクリート片の剥落の原因が徹底的に分析された4)。その結果、鋼材腐食に起因するコンクリート片の剥落の原因として、以下が明らかとなった。
・かぶりが十分でない箇所が多かったこと。
・コンクリートの中性化速度係数が非常に大きいものがあったこと。推定されたW/Cも非常に大きいものが、特に高度成長期に建設された高架橋で少なくなかったこと。
・雨水や漏水の作用する箇所で、鋼材腐食による剥落が多く確認されたこと(図-3)。