道路構造物ジャーナルNET

-分かっていますか?何が問題なのか- ㊸コンクリート橋の健全度分析と耐久性向上(その5) ‐本当にコンクリート橋は壊れにくいのか‐

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員

髙木 千太郎

公開日:2018.11.01

3.鉄筋コンクリート橋及び下部構造の分析を終えて

 ここで、今回の連載シリーズ全体の締め、最終取りまとめをしよう。

 

 3.1 変状(損傷、劣化)原因の推定方法について
 今回の分析は、過去に行われた定期点検結果の中で、橋梁総合健全度、径間別健全度および部材別健全度の評価が低かった橋梁を中心に、代表的な箇所を抽出した。次に、変状発生の原因を定期点検資料に基づき再調査し、近接目視と打音調査による現地調査を加えて、分析した。鉄筋コンクリート構造物に関する、定期点検要領の点検項目および判定基準は、変状程度や健全度を示す指標として有効であると判断できる。
 しかし、今後さらなるICT化が進み、現在注目されている人口知能(AI)を導入し、機械学習、特にディープラーニングによって道路橋の変状原因を推定し、判断するには確実に機能するデータの内容、質、量を考えると現状のままでは非常に困難であると私は考える。
 図-12に人工知能、機械学習、ディープラーニング(深層学習)の領域イメージを示したので参考にすると良い。


図‐12 AI(人工知能)~ディープラーニングの領域イメージ

 鉄筋コンクリート構造物に発生した変状に関しては、近接目視と打音点検を主とする点検・診断方法では、人に代わって人工知能が適切な評価を行うには、データ不足から難しい。その理由は、内在する変状や変状進行度の判断は、先のデータに加え、専門技術者の高度なノウハウ、暗黙知を付加することで最適値となるからで、それに代わるような推論システムが存在しないからである。
 それでは、どのようにすれば今流行の人工知能を使えるかである。これまで収集した点検・診断データを材料別、構造別、使用環境別、周辺環境別、経年別などに精緻に分類し、何が存在すると変状となるかを紐解き、その変状はどのような過程を経て進展するかを明らかにすることが必要である。ここで注意しなければいけないのは、どのような大きな変状でも、今回説明したeランク判定の下部構造で示したように、実質、構造影響度および性能低下には結びついてはいない逆の場合が存在するからである。すべての変状を、例えば、今回のように分析し、専門技術者を超えるようなレベルで機能するように、人工知能をプログラミングする専門技術者育成が第一で、その後構築した人工知能を活用したシステムの改良を重ね、活用することが必要と考える。ここでも、優れた専門技術者のノウハウ、暗黙知を、人工知能が得意とする色別認識からの推論、特徴量の自動獲得能力などをベースに、インフラメンテナンスに機能するように学習させる必要がある。人工知能とインフラメンテナンスについては、別途私の考えを取りまとめ、紹介したいと考えている。

 3.2 今回確認、分析した変状原因について
 鉄筋コンクリート道路橋および下部構造は、場所打ちコンクリート構造物の中でも重要度が高いことから、品質管理や施工管理の面で他の構造物と比較すると、より高い管理水準で造られているはずだ。しかし、今回の調査では、初期欠陥による変状が数多く見られ、変状発生の主原因としてあげられる塩害等の環境条件や供用期間、交通量等の使用条件と変状および経年等との相関は必ずしも高くはないと感じた。
 私なりに変状を分類した結果、支承機能や橋面防水性能、桁端部や路面に降る雨水や路面洗浄水の止水・排水性能が経年とともに機能が衰え、不全になると言われているので、それを今回明らかにできると考えた。
 しかし、私の拙い想像力を使い推定してみたが、進行度を示すことはできなかった。また、鉄筋コンクリート道路橋においては、支承の固着に伴う拘束ひび割れが多く見られ、ラーメン式橋脚、壁式橋脚においても、構造的拘束にともなうひび割れ発生数が多い結果となった。これらの拘束ひび割れは、使用性能にすぐに直結する変状とは言えないが、第三者被害等を考えると支承機能の改善策を講じ、コンクリートの欠け落ちやはく離を防止する対策が必要と感じた。
 これまで多く報告され、措置が必要な第三者被害に直結する変状(写真-9参照)の早期発見方法、例えば、近年種々な点検・診断で組み込みが進む赤外線調査法、超音波やレーダ波調査法の併用なども検討すべきである。


写真‐9 第三者被害となるコンクリートのはく離

 しかし、いたずらに何でも非破壊試験法の採用を決めるのではなく、試験法の適用限界、測定精度などをメーカーに細部渡って聞き、自らが積極的に本当に使えるかを調べ、有効と判断した調査法から導入すべきである。さて、それでは最終章の取りまとめ、予防保全について私の考えを説明しよう。

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