道路構造物ジャーナルNET

-分かっていますか?何が問題なのか- ㊸コンクリート橋の健全度分析と耐久性向上(その5) ‐本当にコンクリート橋は壊れにくいのか‐

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員

髙木 千太郎

公開日:2018.11.01

橋を支える下部構造の変状を見逃せば、信頼の土台は揺らぐ

はじめに
 数多くの人々が熱中症の初期症状、めまいや立ちくらみを経験し、いつまで続くのかと半ば諦め感の強かった異常な猛暑も、10月末には待ちわびた秋風が吹き、とうとう幕引きとなったようだ。今年の異常な暑さも大変であったが、巨大台風襲来の多さと想定外の逆コース取り台風には驚きの連続で、被害は各地におよび、私自身も行く所々で大きな傷跡を目にする機会が多かった。日本では、昔から夏が暑いと台風の発生数が多いと言われているが、確かにそのようで、地球温暖化による異常気象がそれに拍車を掛けているようだ。
 国際社会に目を向けてみると、話題の中心はトランプ大統領。彼の傲慢な政治に翻弄されていると感じる事柄が多く、心静かな日々は少ない。社会の雰囲気は、不安定状態が続き、北朝鮮、中国、ロシア、エジプト、トルコなど、一触即発の緊張感が漂っている。構造物と同様で、社会情勢も不安定状態は好ましいことではなく、早期に安定状態に戻さないと、最悪、地球破滅になるのではと私は危惧している。さて、ここらで連載の話に戻すとしよう。

 インフラメンテナンス分野では、話題になることが少ない鉄筋コンクリート構造、特に道路橋をターゲットにし、読者の多くの方々に実態を知ってもらおうとの意欲でシリーズを始めたが、読者は満足できたであろうか? コンクリート構造は私の得意とする分野ではないが、道路橋を維持管理する技術者としては知らなければならない基本的な構造であることから、無理を承知で私自身も日々学び直す意気ごみで解説している。私の焦点の定まらない説明に疑問を感じる読者もいるとは思うが、何とか書き続けてきた。
 話の柱は、いつも鉄筋コンクリート構造物、それも小径間の道路橋に発生している変状(損傷と劣化)であった。手前味噌の文章を書く私の日々もそれなりに大変だが、不完全な文章を読む読者はもっと大変であろうと推察する。記録的な猛暑がスタートした梅雨の時期に始まった本シリーズも5回目を迎え、いよいよ今回が最終回となる。

 今回は、『コンクリート橋の健全度分析と耐久性』の最後を飾り、陽の目をみることの少ない、縁の下の力持ち下部構造を分析した結果の説明と耐久性向上に向けた提案である。
 ここでもう一度問いかけてみたい。私のインフラメンテナンスへの熱い思いで書き続けた今回のシリーズを読まれ、読者の方々は何を感じたのであろう。読者が見て、感じた鉄筋コンクリート道路橋の実態は、私が分析した結果と同じであっただろうか、それとも、全く別物であろうか? 前回までは、日頃、目に触れる機会(側面や斜め上からの鳥瞰的視界の中)の多い上部構造を中心に、経年と健全度の相関などを分析した結果を、写真やグラフ等を使って説明してきた。支間長も短く、構造的にも特異なものが少ない鉄筋コンクリート道路橋だけに、ある程度予想した結果に落ち着き、「なんだ、やっぱり管理瑕疵に繋がるような変状は少ない」と感じた方が多かったかもしれない。
 しかし、私の趣旨は多少違っている。国内で供用されている道路橋の約4分の3、74%を占める2m以上15m未満の道路橋はどうなっているのだろうか? とまずは考えてもらいたい。次に、私が書く趣旨に興味を持っていただき、種々な角度から分析した結果を見て、読んで、今後に不安を感じ、何とかしてもらいたいからなのだが。
 不安を煽るようで申し訳ないが、ここで鉄道を跨ぐ、跨線橋の話をしよう。その理由は、大きな地震が発生すると必ずと言っていいほど問題となるが、話題ともならない小橋梁にも跨線橋、跨道橋が数多くあるからだ。公表された国の資料を調べてみると、緊急輸送道路を跨ぐ2m以上15m未満の小規模橋梁は、跨線橋が12%、跨道橋(緊急輸送道路を跨ぐ)が4%である。跨線橋、跨道橋のパーセンテージだけを見れば、少ないと思うかもしれないが、実数にすると跨線橋と跨道橋を足すと約11万7,000橋とかなりの数であることが分かる。
 写真-1は、市街地の鉄道を跨ぐ道路橋であるが、外観と周辺環境を見て分かるように、この橋を点検・診断するのは至難の業である。その理由は、桁下を列車が運行していない時、終電から始発までの非常に短い時間帯に作業が限られているからである。


写真‐1 跨線橋(市街地・鉄筋コンクリート道路橋)

 写真-2に示すようなある程度の支間長、規模を持つ跨線橋であれば、道路橋の取り付け部、例えば、写真-2の石積み擁壁の上から何とか跨線橋の状態を観察できる。写真-1に示すような、小支間の橋梁となると、桁下に入り込まない限り、跨線橋の変状を確認し、適切に診断することは不可能である。


写真‐2 跨線橋(市街地・鋼道路橋)

 それではどうするか。列車が運行しない時間帯に点検・診断するしかないのが常識なのだ。市街地にある鉄道の多くは、始発は夜も明けぬ早朝から、終電は多くの人が寝静まった深夜であることが多い。結局、道路管理者が跨線橋の状態を適切に確認し、維持管理する時間は数時間しかないのが一般的である。
 さらに、桁下空間に入るのも容易ではない。その理由は、鉄道区域内に跨線橋の道路管理者が立ち入るには、鉄道事業者の許可が必要となり、終電終了後に線路閉鎖、起電停止措置を鉄道事業者に依頼しなければならない。これがまた、鉄道区域内立ち入り、作業等の手続きに多くの時間を要するだけでなく、多額の費用が発生する。費用とは、鉄道区域内で作業を行う場合、線路閉鎖および起電停止措置に要する費用が発生することを指している。
 分からない読者もいると思われるので基本的な語句を説明しておこう。線路閉鎖とは、語句が示す通り線路を閉鎖する措置を表す。線路内で行う作業は、列車の運行・管理する鉄道事業者が行う作業とそれ以外がある。それ以外とは、例えば、跨線橋を管理する道路者がメンテナンスする作業や鉄道区域に隣接する建築物や斜面等に施す作業がある。これらの鉄道区域内で行う作業は、終電と始発間の時間帯とはいえ、来ないはずの列車が来て事故が発生する事態になりかねないので、線路を閉鎖する措置を行う。これが線路閉鎖である。起電停止とは、線路の上空にある列車に電気を送る架空線の送電を停止する措置を指している。写真-1を見れば分かるように、列車走行に必要な受電の架線が跨線橋に接するように配置され、送電を停止しない限り、近接目視は不可能だからである。たとえ起電停止措置を行っていても、架線に触れることはもとより、近くに寄ることも禁止される場合がほとんどなのだが。
 いずれの作業(線路閉鎖、起電停止)も、資格を持った専門技術者が行うことが決められており、夜間作業となるためにそれに要する人件費や事務費も、当然高額となる。以上にあげた作業を跨線橋の管理者と道路管理者は、作られた関連資料をもとに協議を行い、それが纏まると始めて跨線橋の桁下点検・診断を行うことになる。図-1は今から3年前、市街地のA跨線橋の点検・診断を行うために、鉄道事業者と協議し、合意に達した作業工程表である。図-1で明らかなように、桁下の点検は、午前1時30分から午前3時20分までのわずか1時間50分以内で行うことになる。ここに示す時間内で、どの程度の量、現地点検が可能なのかを読者の方々にも考えてもらいたい。


図‐1 A跨線橋点検作業工程表

 写真-3は、跨線橋の点検作業を軌陸車(軌道レール上を走行できる車両)によって行っている作業風景である。軌陸車を使った点検作業は、作業架台を機械的に上下左右に移動でき、架台も安定しているので、短時間に確実な作業を行うことが可能である。


写真‐3 跨線橋の点検風景:軌陸車

 これを見て、すべての桁下作業は軌陸車を使って行えば簡単だと考え、軌陸車を使って作業を行うように指示しようと考える人が多いと思う。しかし、軌陸車を鉄道区域内に搬入するには、難点がある。鉄道区域内のどこから軌陸車を軌道に入れるかがポイントとなる。要は、軌陸車が入るためには先の、線路閉鎖、起電停止後が絶対条件で、そうでなければ軌道内には乗り入れられないのである。
 跨線橋の近隣に軌陸車が入るゲートがあれば良いが、ない場合は、ローリングタワー(移動式足場)との比較検討を行う。図-1の場合は、最終的に軌陸車が入れるゲートが遠方のため現地まで到達時間が長く、現地で組み立てるローリングタワーを使用するほうが点検作業時間に余裕があることから、ローリングタワーを選択せざるを得なかった事例である。写真-4は、A跨線橋において、何度も鉄道事業者と協議し、現地組み立てのローリングタワーによる点検作業風景である。


写真‐4 A跨線橋の点検風景:ローリングタワー

 私のこれまでの跨線橋点検経験から言わせてもらえば、機械化、ICT活用は良いが、ここに示すような厳しい条件下でそれらがどの程度機能するか、機能させるにはどうしたら良いか、機器開発者は専門家の意見をぜひ聞いてもらいたいと常々思っている。蛇足ではあるが、写真-1、写真-2両方に筆者が片隅に映っているので是非確認してほしい。
 午後11時50分の作業開始ミーティングから、午前4時40分以降に行った作業終了ミーティングまで立ち会ったが、眠い目を擦りながら現地確認をするのは容易な作業ではない。読者の方々もたまには、現地で行っている点検・診断とはどのようなことで、何が大変なのかをぜひとも体験してもらいたい。技術者に必要な真の現場主義とは何かが分かるはずだ。跨線橋の話はこのくらいにして、連載シリーズの本旨に話を移すとしよう。

 本シリーズの連載の間に、道路橋が4橋崩落した。崩落した橋梁は、建設中、供用中、プレストレストコンクリート、鋼、鉄筋コンクリートと幅広く、いずれかに偏ってはいない。この数カ月を振り返ると、自然災害ではなく、人的災害(ヒューマンエラー)によって道路橋が崩落し、数多くの貴重な命が奪われたことは技術者として恥じ、反省しなければならない。
 私が書いた崩落事故のスタートであるフロリダの場合は、目を疑うようなプレストレストコンクリートの破壊形態、ミャンマーの場合は、アンカーレイジに定着された付近の異常とも言える吊ケーブル腐食が原因であった。ジェノバの場合は、先端構造、プレストレスコンクリート技術を導入した斜張橋の吊ケーブル腐食が原因、カルカッタの場合は、施工不良、メンテンナス不足による鉄筋コンクリート桁、下部工の損壊が原因であった。崩落した道路橋は、いずれもある程度の橋長、支間長を持っている。そのため、世界的なニュースとなって我々国内の技術者も目にし、耳にすることが可能であったのかもしれない。しかし、今回のシリーズ、鉄筋コンクリート道路橋は、規模も小さいことから、崩落したところでニュースとして見栄えせず、記事にはならない可能性が高い。
 しかし、路面下の空洞と同様で、車両や人がその穴に嵌れば、死亡、傷害事故となることには変わりはない。私は、我々が数多く作り続けている、陽の当たらない鉄筋コンクリート橋にも注目してもらいたいと考える。それでは今回の話題提供、下部構造の変状と分析結果を説明し、その後、シリーズの取りまとめとして鉄筋コンクリートの耐久性向上について述べるとしよう。

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