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-分かっていますか?何が問題なのか- ㊷コンクリート橋の健全度分析と耐久性向上(その4) ‐本当にコンクリート橋は壊れにくいのか‐

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員

髙木 千太郎

公開日:2018.09.30

1.鉄筋コンクリート道路橋の変状発生原因調査結果

 前回、鉄筋コンクリート橋の変状原因の全体を示すレーダーチャート図を最後に示したが、今回は、構造別に分析した結果を説明しよう。上部工全体のレーダーチャート図の説明においても触れたが、変状の原因として最も顕著なのは、鉄筋の被り不足、コンクリート打設時の締固め不足などであり、それによって発生したと思われるジャンカ、コールドジョイント等の脆弱部が内在する、初期欠陥であった。その結果、変状としては、鉄筋露出、コンクリート表面のはく離や鉄筋腐食の進行等があげられる。次に多いのは、設計条件として移動する機能が必要な支承やヒンジの固着による、構造体として移動機能が失われ、機能不全状態となったことを原因とするものである。その結果、桁の拘束によるひび割れや、漏水、遊離石灰析出等の著し変状が顕在化する。

 今回対象となった鉄筋コンクリート道路橋に関して、構造別の変状原因数を区分けし、取り纏めたのが表‐1である。この表から明らかなように、変状原因として多かったのは、やはり、鉄筋の被り不足、止水・排水不全、脆弱部内在、橋面防水不全、支承機能不全がベスト5で、以下、構造的拘束、コンクリート表面の経年劣化、鋼材腐食、過大荷重の作用、コンクリートの品質不足、不適切な補修の順となっている。意外であったのは、止水・排水不全と橋面防水の不全が小計で27と多く、水が結構悪さをしているのが浮き彫りとなった。当然と思った変状の原因は、鉄筋被り不足による変状が23、脆弱部の内在による変状が16と多く、初期欠陥が後の重大な変状を生むことがここでも明らかとなった。

 次に構造別の変状原因について分析結果を見てみよう。分析結果は、見た目で分かり易い様にレーダーチャートと、経年によって変状原因がどのように分布しているかを示すグラフ、2つのタイプで示した。

1,1 床版橋に発生する変状の原因
 床版橋に発生する変状は、全体の傾向とほぼ同様で、鉄筋被りの不足(写真-6参照)や脆弱部の内在を原因とする初期欠陥が多く、同様に鉄筋の腐食要因としての腐食メカニズム、カソード部、H2O水が介在することになる、橋面防水や止水・排水の不全が多くを占めている。床版橋の変状原因傾向を図-1のレーダーチャート図に示した。縦軸の赤が目立っている。図-2には、床版橋の変状発生原因と経年の関係を示したが、何れの原因も経年とは相関が無いことは明らかである。


1.2 桁橋に発生する変状の原因
 桁橋(主にT桁橋)に発生する変状の原因を区分してみると、トップが鉄筋被り不足で11、セカンドが支承機能不全で10と二つが二桁で全体のほとんどを占めている。私の経験から言わせてもらうと、鉄筋の被り不足は、いずれの鉄筋コンクリート構造物にも数多く見られる変状であるが、施工時のミスが大きい。道路橋の場合、比較的小径間の鉄筋コンクリート橋の変状発生原因としては、支承が錆びついたり、ゴムが固着するなど、支承としての機能を失っている状態を目にする機会が多い。

 写真‐7に桁橋の支承機能不全の事例を掲載したが、事例の橋梁も支承が鋳鉄製で錆付き、可動しないことからコンクリートが桁からはく離し、鉄筋露出した。小径間橋梁の場合、理屈では支承交換を口にするが、実態は放置されたままの事例が多々ある。桁橋の変状原因傾向を図‐3のレーダーチャート図に示した。支承機能不全、顕著な青色の突出が明らかである。また、図‐4には、桁橋の変状発生原因と経年の関係を示した。赤の破線で囲った部分から判断すると、桁橋の変状原因別の傾向、全体として、経年を経るほど数が増加すると考える。


1.3アーチ橋に発生する変状の原因
 アーチ橋に発生する変状を区分してみると、脆弱部内在、鉄筋被り不足が思った以上に多かった。アーチ橋の建設は、構造特性や施工の難易度を考え、他の鉄筋コンクリート道路橋構造と比較すると、難易度が高く、注意深い施工管理が求められる。以上の理由から、私は脆弱部が存在することは無いと考えていたが、想定とは異なった結果となった。今回私が分析対象とした地域以外の事例を紹介しよう。

 中部地方の地方自治体が管理するアーチ橋、特に脆弱部を抱える事例を写真‐8に示した。当該橋梁は、叩き点検でかなりのエリアで浮きや空洞が確認され、桁下にはく離したコンクリート落下が危惧されることから、緊急工事で補修を行っている。アーチ橋に発生する変状の一般的な原因としては、床版防水の不全や止水・排水不全である。該当する事例を写真‐9に示した。これまで示した分析結果と同様に、変状原因傾向を図‐5のレーダーチャート図に示した。赤の点は、これまでの事例と異なって、突出した傾向は少ない。また、図‐6にアーチ橋の変状発生原因と経年の関係を示した。アーチ橋の変状原因と経年グラフを見ると、60年以上経過した橋梁に種々な変状が発生している傾向が見て取れ、アーチ橋の健全度悪化は経年が大きな要因であること、それもかなりの年月を経ないと重大変状には至らないと判断した。しかし、これも施工が良いことが条件で、手を抜くと、写真-8で示したような状況となるので要注意である。


1.4ラーメン橋に発生する変状の原因
 ラーメン橋に発生する変状は、そもそも健全度Cランク、Dランクとなっている事例が少ないこともあり、変状発生原因を区分してみても、傾向を把握することは困難であった。事例数が少ない中で判断すると、ラーメン橋の場合は、止水・排水不全が多少多い。該当する事例を写真‐10に示したが、当該橋梁の場合、添架物の埋め戻し状態が悪く、止水が完璧では無かったことから、雨水が滞水し、漏水、錆汁析出となっている。ラーメン橋は、小橋梁には多く採用される事例で、発生する変状も少なく、比較的管理し易い構造と言える。変状原因傾向を図‐7のレーダーチャート図に示した。黄色の角点は、中央部に点在し、主たる原因を見出すことは困難だ。また、図‐8にラーメン橋の変状発生原因と経年の関係を示した。変状原因は、経年50年から30年に位置に点在し、数が少ないことから傾向は見て取れない。


 なお、表‐1でも明らかなように、小径間の鉄筋コンクリート道路橋として最も数が多いと予測されるカルバート橋については、ラーメン橋以上にCランク、Dランクに該当する橋梁が少なく、対象箇所として抽出した橋梁の発生原因数も総計で5箇所であることから、レーダーチャート分析及び経年との関係を省略した。以上が今回分析した結果の説明である。
 次回は、鉄筋コンクリート道路橋だけでなく、鋼道路橋、プレストレストコンクリート道路橋の多くが採用している下部構造、鉄筋コンクリート下部工について分析した結果を説明しよう。さて、どのような内容となるかこうご期待である。
 さて、今回の最後は、世界中で毎月のように起こり始めた橋梁崩落事故の話しだ。現在、日本の技術者が数多く現地に入っている、アジアの大国、インドで起こった道路橋崩落事故について、私感を含めて説明しよう。
次ページ「2.インドで発生した道路橋崩落事故」

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