-分かっていますか?何が問題なのか- ㊷コンクリート橋の健全度分析と耐久性向上(その4) ‐本当にコンクリート橋は壊れにくいのか‐
これでよいのか専門技術者
(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員
髙木 千太郎 氏
報告書の初めには、『このレポートは、フロリダ州マイアミにおいて建設中であった歩道橋が2018年3月15日に崩壊した事故について、NTSBが5月23日に公表した暫定報告書に続いて最新の調査情報を提供する。』と記され、『当該報告書はあくまで暫定的なものであり、今後の調査過程において、補完または修正される。』とこれが最終ではないとしている。
前回も記したが、Turner-Fairbank Highway Research Center (TFHRC・ターナー – フェアバンクハイウェイ研究所)が今回も技術的な調査を行い、歩道橋を構成する幾つかの部材、複数のコンクリートコア及び鋼材サンプルの破壊試験を実施した。第一の調査は、歩道橋が崩落した後に、現場から採取した複数のコンクリートコアや鋼のサンプルに関する種々な試験である。
第二の調査は、私も関心がある内容である。事故を起こす当日、3月15日に現場で再緊張作業に使っていた斜め部材(Diagonal Member)11に設置していた鋼製ポストテンションロッド及びそのロッドに張力を付加する油圧ジャッキそれぞれの評価である。それらを評価する理由は、ジャッキが崩落過程で破損したにもかかわらず、クラックが発生していた部材の安定化に必要と考えた付加力が適正に機能したかを判断するためであり、そのために必要な試験も行っている。試験項目は、ポストテンションロッド試験とポストテンションジャック試験である。
具体的には、ロッドの適合性を確認するために、部材11から取り外されたポストテンションロッド(1/3インチ径)について、部材が破壊するまでのテンション試験を行っている。ポストテンションジャッキについては、ジャッキ、ホース、油圧ポンプ、及び圧力ゲージで構成されたシステムに着目しているようだ。そこで、使っていたシステムを作動させ、崩落した部分から回収した4つの圧力計の圧力測定値を荷重基準と比較し、ジャッキの最大能力試験も行っている。
採取したコンクリートコアについては、圧縮試験として、圧縮強度、圧縮弾性率、ポアソン比、及び圧縮応力に対する歪み挙動を決定する内容である。また、引張試験として、引張強度、引張弾性率、ポアソン比、引張応力に対するひずみ挙動を測定する内容である。今回破壊に至ったコンクリート自体の分析は、内在する空気の含有量、凝集物の含有量、及びセメントペーストの含有量などである。
現地で行った調査としては、6月13日と14日両日に部材11と12の交点(格点)近辺の床構造内部に着目し、調べている。詳細は、補強鉄筋の寸法及び配筋状態が当初設計と適合していたかを確認するため、デッキの約5フィート幅の範囲を部材の両側を写真撮影し、引き続いて3-Dレーザー走査によって記録を残す方法である。この調査で明らかとなるのは、事故前に行ったデッキとダイアフラムIIの内部破断面部分の評価が正しかったかである。そこで、設計図書で規定された補強と適合していたかの他、損傷していない部材の表面及び健全な補強鋼材やコンクリートを確認している。以上が、今までにTFHRCが行っている調査の中間報告である。
興味深かったのは、アメリカも私と同様に(以前、当連載でも詳細に解説した跨座型モノレールのPC軌道桁はく離事故調査・炭素繊維補強は何故だ!を指す)原因を確定するために、関係者ヒヤリングを行ったようである。相手先は、①Munilla Construction Management、②Bolton, Perez & Associates Consulting Engineers、③Structural Technologies LLC、④Louis Berger Engineers、⑤Florida Department of Transportation、⑥The Corradino Group, Inc. 、⑦George’s Crane Service, Inc.の7組織に対し、聞き取り調査を行ったことが記述されている。この判断は今回の事故原因が、かなりヒューマンエラー的要素が強く、判断ミスの実態解明のためには、設計及び施工の各段階別に理詰めで解くことが必要と判断したと私は考える。聞く方も嫌だが、聞かれる方は裁判の被告人のようで、身も細る思いであろう。技術者としての倫理観、公正を貫くことはとても辛いし、苦痛であるが、関係者は心を鬼にしてやらねばならない。
今回の報告書の中で私が最も関心を示し、何度も確認したのは、これまで説明した部分ではなく、最終章の部分だ。景観に凝り、構造的にも種々な問題を指摘されている当該歩道橋は、崩落する以前に、主構造組立、架設段階において、重要部材にかなりの変状が発生していたことを公表したことにある。
今回、それを段階的に確認した状況写真がステップごとに明らかとなった。公表された4枚の写真は、崩落事故前のステップで撮られたもので、事故原因となった? 部材11(事故直後から指摘、推測されている)周辺に発生したクラックの記録である。これらの写真は、主径間部を桁製作ヤードから移動台車で移す前の状態と記され、撮影したカメラ等の電子情報からNTSBが日時を確定しているのがアメリカらしい。写真-2は、事故発生2日前の鉛直部材12の西側床版に発生したクラックで、計測しているスケールの目盛りを読むと驚きの値である。写真-3は、先の鉛直部材12の東側床版の状況で、写真2を撮影した翌日である。床版に発生したひび割れに注入するのか、青色のホースと黒色の器具(緊張装置?)が確認できる。さらに、部材12の基部に斜め方向の小さなひび割れが発生している状況が分かる。
写真-4は、部材11に発生したひび割れ状況を写真‐3と同時間帯に撮影した画像である。ひび割れは、手前側に大きくはく離状態となっていることが見て取れる。写真-5は、前述の部材11の反対側、東側のひび割れ状態である。写真-4の撮影時から約2時間経過した状況であるが、これだけ大きなひび割れと無数のひび割れが斜め方向に入ってしまった場合、本当に当該構造を正規な状態に戻すことが可能であったのか大きな疑問が沸く。以上が、公開された資料や写真を基に私が感じた所見を述べた。いずれにしても、建設中で、完成系となっていない状態の構造物が破壊し、崩落したことは事実であり、それも主構造建設中から種々な個所がひび割れていたことが明らかとなった。私がこれらを見て考えるのは、「ひび割れではなく、破壊状態であった言った方が、的を射ているかもしれない」である。このような状態となった構造物を架設し、その直下を安全策も講じず、供用させたことの責任は重大であり、ヒューマンエラーと簡単に処理できる事案でないことはだれでも分かることと思う。
さて、国内は大丈夫なのか? 橋梁架設中の事故は毎月のように発生し、関連委員会が設置されるのは常である。しかし、その後に改善策が公表され、それが機能した報告は皆無である。残念だ、日本の技術者の技術力、想像力そして倫理観を問われているのではないだろうか?最後に、『同様の事故発生を防ぐために必要な、安全勧告を発行する目的で、NTSBは原因を特定し、崩壊に至ったすべての側面を調査中である。』と記述されている。私はいつも、アメリカの事故調査報告を見て、感心している。読者の皆さん、私が何を言いたいのかお分かりか!
次回が最終報告書となるかは分からないが、NTSBから公開された場合、私はその報告書の内容を確認し、読者の方々に解説しようと思っている。期待してほしい。ここで、アメリカ編は終わりとし、本シリーズの柱、鉄筋コンクリート道路の分析について説明しよう
今回は前回に引き続き、供用中の鉄筋コンクリート橋の定期点検結果を分析した後、より詳細に変状発生原因調査を目的に、Cランク(やや注意)評価の20橋、Dランク(注意)評価の23橋、供用開始後長期間経過しても健全なランク(Aランク及びBランク)と評価された9橋を含めて、現地の再調査した結果を説明しよう。
次ページ「1.鉄筋コンクリート道路橋の変状発生原因調査結果」