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-分かっていますか?何が問題なのか- ㊶コンクリート橋の健全度分析と耐久性向上(その3) ‐本当にコンクリート橋は壊れにくいのか‐

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員

髙木 千太郎

公開日:2018.09.01

1.鉄筋コンクリート構造物の初期欠陥

 良好なコンクリートとは、打設前のフレッシュコンクリートの間は、打設作業等に適する適切なワーカビリティーを持つことである。詳細に解説すると、フレッシュコンクリートとは、コンクリートの硬化が瞬時に生じるのでなく、練り上がりコンクリート、凝結過程コンクリートと徐々に進み、強度が増加する。フレッシュコンクリートの性質を表す語句として、コンシステンシー、ワーカビリティー、プラスティシティー、フィニシャビリティーが使われる。この中で、コンクリート打設の施工性をいう、ワーカビリティーとは、運搬、打設、締固め、仕上げ等の作業の容易性を表し、良好なコンクリートの施工に重要な因子である。コンクリートは、粗骨材、細骨材及びそれらを結合するセメントと水によって構成され、時には、コンクリートの性質を改善する目的で混和材が加えられ、練り混ぜられる。練り混ぜた後、コンクリートは、徐々に流動性を失い、固体へと移行することになるが、この過程が凝結である。 凝結は、コンクリート一体化するための打ち継ぎ許容時間、スライディング型枠の移動時間、再振動締固め可能時間などの判定に意義を持っているが、凝結開始、終了を判定するのは難しい。凝結の程度を知る方法に、圧縮強度測定、プロテクター貫入抵抗値測定や超音波伝搬速度計測などがある。例えば、圧縮強度測定による方法では、0.01N/㎟を凝結始発、0.06 N/㎟を凝結終結、0.1~0.2 N/㎟を再振動限界との考え方もあるが、明確な定義とは言えない。実は私にとって、凝結と言う言葉には忘れられない体験がある。それは、主要幹線道路に架かる道路橋の鉄筋コンクリート床版が抜け落ちる事故が多発し、対応に追われていた時代の話である。凝結から話が逸れるが、ここで私の経験した鉄筋コンクリート床版抜け落ち事故に関する話をしよう。 

1)鉄筋コンクリート床版の設計と設計基準

 私であっても今ならば、当時の鉄筋コンクリート床版について、抜け落ちる理由を理論的に解説し、適切な対応策を導き出すことは容易である。しかし、当時の私には、大学で学んだ考えが優先し、経済設計を行い、合成構造を採用した構造がベストであると考えていた。であるから、私は、当時供用している鉄筋コンクリート床版が多くの問題を抱えているとは、思いもしなかった。当然私は、目の前に起こっている、写真‐1に示したような抜け落ち事故を全く処理できず、その都度対応策の決定に上司のアドバイスを受けることが多かった。当然、何度も同じことを聞く私に対し、上司や同僚の私への信用は薄れ、自らの技術の引き出しの少なさを露呈する厳しい日々であった。

 今改めて考えてみると、確かに抜け落ちた床版は、いずれも床版厚が薄く、配力鉄筋の量も不足し、床版を支持する主構造はたわみ易かった。抜け落ちる現象も、今や常識である教科書通りの一方向ひび割れから、遊離石灰析出とともに二方向に移り、写真‐2に示すような亀甲状ひび割れに進展、最終的に押し抜きせん断破壊で抜け落ちとなる結末であった。冷静に考え、目の前にある鉄筋コンクリート床版と桁構造の弱点を正しく理解できれば、当時の道路橋は交通実態に適した構造ではないことに気づくはずであった。しかし組織内の趨勢は、構造的な問題点ではなく、主原因は大型車交通量の増加であるとの意見が大勢を占めていた。当然私も、周囲の意見に同調せざるを得ず、車両通行量、特に大型車両の増加が主原因であると公言していた。

 しかし、床版抜け落ち現場を多数見ているうちに、私自身も徐々に疑問を抱くようになった。確かに、幹線道路に架かる場合、車両通行量や過積載車両の増加が抜け落ち事故の一因であったことは事実である。ところが、幹線道路ではない、交通量も多いとは言えず、大型車混入率も少ない路線の道路橋にも抜け落ち事故が発生していることが明らかとなった。抜け落ちた事例を年代別に区分けしてみると、東京オリンピック開催前に建設、供用開始した道路橋の抜け落ち事故が突出していることが分かった。そこで、建設年次の次に適用基準の絞り込みを行い調べると、おぼろげながら抜け落ちの原因が見え始めた。

 それではなぜ当時、今では誰でもが知っている「適用した技術基準が問題を抱えていたので、鉄筋コンクリート床版の抜け落ち事故が多発するのだ」との結論を導くことが困難であったかである。その理由の第一は、適用した設計基準の不備を関係者が話題としたくなかったからと考える。その理由は、著名な研究者や行政技術者が主導した道路橋設計・施工技術の不完全さを、面と向かって彼らに指摘できる社会状況でなかったのだ。私の所属していた組織も同様で、経済設計を追求した1956年(昭和31年)、1963年(昭和39年)の鋼道路橋設計示方書の取り纏め委員であった、A氏とB氏が組織内にいたことが大きい。両氏とも、自らが関与し、取り纏めた基準によって設計した道路橋の床版が、抜け落ち事故を起こすたびに、今考えれば、技術者として穏やかではなかったであろうと私は思う。私自身、A氏、B氏には、組織内の研修(当然、講師と受講者の関係)や起工書決済の説明でしか接したことも無く、両氏とも『遥か彼方の雲の上の人』状態で口をきける立場ではなかった。例え機会があったとしても、大先輩で高度な技術力を持っているA氏やB氏に対し、当時の設計基準について、基本的な考え方、意図した趣旨等を私自身が聞けるほど、私には技術力も度胸もなかった。両氏の材料、橋梁構造に関する理論、施工技術の研修は素晴らしく、立て板に水がごとく講義が進み、気迫が満ち満ちていた。当然両氏の組織内での発言力は大きく、私の見聞きする限りでは取り纏めた設計基準に関して、疑問を呈し、質問する先輩や同僚は皆無であった。

 今回の最後にも触れるが、私は斬新で先駆的な技術力、想像力を持つ技術者にも考えが及ばないことがあることを、後に痛感することになった。話はA氏のご自慢であった自らが計画・設計し、完成まで監修したC橋についてである。A氏独自の理論を基に設計したC橋は、外観も特異で著名な橋梁ではあったが、供用開始後数年後に鉄筋コンクリート床版に重大な変状が発生、緊急工事で縦桁を追加せざるを得ない状態となった。その後も、変状は留まることなく進展、苦肉の策鋼板接着補強を行ったが変状はさらに進み、最終的に取り換え鋼床版に交換せざるを得ない状況となった(写真-3参照)。鉄筋コンクリート床版を鋼床版に交換する時には、当然A氏に説明に伺ったが、何時もの鋭い眼光が一時曇ったように見えたのは私の錯覚かもしれない。時は流れ、両氏が鉄筋コンクリート床版抜け落ちの大きな要因は、設計基準の配慮不足であると認め、公言しだしたのは昭和50年代のことであった。

 この話は現代にも通じることであると私は思っている。国内の道路橋等の設計・施工基準策定に関係する技術者は、産官学から集められてはいるが、最終取り纏めをコントロールするのはほんの一握りの行政技術者である。一握りの技術者、大きな権限を持った技術者が誤った方向に導く、配慮に欠けた方向に導くことこそ、後に後悔するような事態を生む。私自身も、基準策定に深く関与する立場であったので大きな口は叩けないが、現状の委員構成も見直す必要があると私は考える。現行基準の委員構成は、委員を決めている国の事なかれ主義、外部に対するアリバイ造りとなっているような気が私はしてならない。もっと恐ろしいのは、誰とは言わないが、一握りの技術者が大きな発言権を持ち、誤った方向に委員会を捻じ曲げ、世界の流れに逆行するような基準創りは、日本にとって最悪な結果となることを忘れてはならない。国が関与する技術基準は、関係する技術者にとって崇高であり、絶対的でもある。

 私は熱望する。今、日本国内の種々な技術基準は誰のためにあるのかを、基準に関係する人々に是非考えてもらいたい。私は、名簿にはあるが委員会に全く出席しない委員、出てきても発言をしない委員は、何のために委員名簿に名前を連ねているのかを疑問に感じたことが度々あった。ひょっとしたらこのような委員は、自らの肩書創りのために委員となっているのかと思ったこともある。基準書の委員名簿に委員として記載されることは、確かに名誉である。基準書の委員として社会に公認される委員となったからには、当たり前ではあるが、大きな責務が課せられる。私は学協会の委員会を構成する委員に関し、以下のように考える。委員は、議題に上る種々な案件に対し、自らが多方面に情報収集し、内容が分からなければ分かるまで学び、熱い議論を委員会で戦わせてこそ委員としての価値がある。委員は、業界の利益増大や製作・架設時の手抜きを助長させる委員会とはならないことを第一に考え、一部の人のみが好むような基準創りをしないことを弁えることが重要である、と。

 昨年発刊された道路橋示方書・同解説の解説を聞いた際、私だけかもしれないが大きな不快感が残った。その理由は、示方書説明者の上から目線の解説、自らが取り纏めた訳でもないのに、独断的な話、これでは何時まで経っても良くはならないと感じた。それにしても、数十年適切に機能し、多くの技術者がバイブルとするような設計・施工基準を創ることは難しい。ここで設計・施工基準の話から、鉄筋コンクリート抜け落ち事故のその先に話を戻すとしよう。

2)鉄筋コンクリート床版と初期欠陥
 実のところ私は、鉄筋コンクリート床版抜け落ち事故原因について、設計以外の要因が最も大きいのではとも思っている。それは、施工上の重大な瑕疵、今でも現場が抱えている問題点である。鉄筋コンクリート床版の抜け落ちは、確かに適用基準も原因ではあったが、それ以外に施工時の配慮が十分でないと抜け落ち事故に繋がることを常々私は感じていた。昭和20年代までのコンクリート打設は、作業員が現場でコンクリートを練り、猫車などを使って練ったコンクリートを打設箇所に運搬し、作業員が突き固め冶具を使って締め固めていた。要は、ほとんどが作業員の腕と勘、権限を持つ厳しい監督員の技術力と判断力で品質が保たれていた。 ところが、昭和24年頃から現場で練るコンクリートから、レディーミクストコンクリート(Ready Mixed Concrete、生コンクリートとも呼ばれる)に替わり、工場から出荷されるようになった。また、昭和30年代となると、ポンプを使った打設が始まり、密に鉄筋を配筋した型枠内のコンクリート打設風景は一変することとなった。人力中心から、機械併用、機械中心と移っていく。当然施工技術は低下し、注意力も散漫となる。現在では、コンクリート打設の常識となっていることも、機械化施工が始まった頃は何をするにも手探りの状態で開始されたと聞いている。例えば、引張応力を考えたコンクリート打設順序、ポンプ車及び配管径選定、打ち継ぎ目の位置及び処理方法など『鉄筋コンクリート床版施工手順書』に記述されている内容である。と言うことは、人力から機械併用に移っていた時代の鉄筋コンクリート床版には、施工に起因する変状が多々あるということになる。

 確かに、私が調べた当時の抜け落ちた床版には、その痕跡が数多く残されていた。抜け落ちた箇所は、床版端部に多く、コンクリートの色も悪く、艶も無かった。また、抜け落ちたコンクリート部分を良く見ると、モルタル分や砂筋が多く見られ、鉄筋との付着状態も悪いものが多かった。床版端部は、伸縮装置があり段差もあるので衝撃荷重も大きく、ひび割れが発生し易すい。さらに、縦断・横断勾配から雨水が滞留し易いことから、ひび割れが進展すると鉄筋との付着力を低減させる砥石現象が重なり、急速に抜け落ちへと進む。私の経験では、抜け落ちた箇所、抜け落ちかかった箇所を総合的に整理すると、施工不良に起因する箇所が多かったのは事実である。それでは、その事実を裏付ける話をしよう。

 私はある時、行政側の工事関係者が集まる事務所の飲み会で、数多くの現場監督を経験しているD氏に聞いてみた。生コン、アジテータトラック、コンクリートポンプ車及び配管(コンクリートポンプ工法)によって、コンクリート打設を始めた頃の話である。「Dさん、変な話を聞いてもいいですか?」「何の話、髙木さん。知っていることは話すけど、何かやだなー、気持ち悪いよ」、そこで「私の聞いた話ですけど、E橋の新設現場で監督員してましたよね。その時の話ですけど、教えてくれませんか。初めてポンプ車使った生コン打ちを採用したと聞いていますが、どんな状況だったのですか?できれば苦労話も・・・」。 
 D氏の話が始まった、「まあ、大変だったね。施工管理基準で決められたスランプで生コン打ちを行うと、うまく流れなくてね。何度もポンプに詰まって処理するのに苦労したよ!しっかり見てないと、後ろで作業員がホッパーに水いれるし、シャブコンと分かっていて打つのさ。それと、ポンプ打ちを始める時にうまく流れる様にモルタル流してから生コン流すのだけれど、教科書通りにはいかないものだったね。モルタルも一緒に床版に打っちゃたこともあったね。ひどい時には工程表通りにいかないと、私が昼食とって帰ってきたら全てのコンクリート打設が終わっていて、F社の監督員を怒鳴ったこともあるよ。作業工程だと2時間かかる作業が何と1時間切って終わっているのさ。・・・」と当時の話を延々と聞く羽目になった。これで謎が解けた。抜け落ちの原因は薄々分かってはいたが、D氏に実態を聞いて以降、私は他言することはなかった。D氏の話が発生した変状要因の全てとはいえないが、E橋の鉄筋コンクリート床版はひび割れが2方向に進展、写真-4のように床版下面に鉄筋が露出し、写真-5のようにひび割れが亀甲状に進展し、遊離石灰析出が目立つ状態となった。最終的には、コンクリート強度不足の箇所を下面からシュミットハンマーを使って全て確認、写真‐6に示すように鋼板接着による補強工事を行って、現在も安全に供用している。

 幹線道路の床版抜け落ちや陥没事故多発は、報道でも何度も取り上げられ、対応を迫られることは度々である。しかし、私自らが施工不良の話を口にしたことはない。もしそれを話せば、報道はそれをメインテーマとして流し、その後の我々が受けるバッシングの凄さは予測がつく。結果的には事務処理ばかりが増え、肝心の抜け落ち事故の解決策とはならず、下手な発言をしたことに後悔ばかりが残るからだ。結局、抜け落ちた床版の対応策は、設計上でも施工上の問題であっても、最終的には基準に適合した新たな床版に打ち換えることになる。なぜこのような結末となるようなことを、分かっていて行ってきたのかは、数多くの構造物を短期に建設することが求められていた、時代背景からなのだ。これは、現代にも通用する。大丈夫ですか?皆さん。

3)床版打ち換え工事と凝結反応
 ここで厄介な問題の処理が求められる。たわみ易く、床版厚が規定を満たさない道路橋は、安易に床版の厚みを増すことは、伸縮装置や取付道路の縦断勾配等から難しい。そこで苦肉の策、床版厚の規定から外れる構造、例えば、I型鋼格子床版や鋼合成床版などを選択し、床版打替えを行うことになる。

 ここで問題となるのは主要幹線道路に架かる既設橋の床版打替え工事である。その理由は、交通管理者の工事許可条件にあり、一般的に通行止めによる施工は不可となる。その結果、鉄筋コンクリート床版の施工環境としては最悪な橋軸直轄方向(幅員方向)に2分割や3分割、広幅員の場合には4分割での施工となる。このような条件下での 施工を安易に行えば、出来の悪い床版も当然出てくる。特に、供用下での分割施工は完成時に一体化とならないという意見が多く、何らかの解決策が必要との問題提起であった。その中の一つが、車両走行下による振動発生時のコンクリート打設の是非論である。これはコンクリート硬時に振動を受けると鉄筋との付着が切れ、十分な強度と耐久性を持った鉄筋コンクリートにはならない、との考えだ。まさに、先に話した凝結反応の話である。そこで調べ始めたのが、コンクリートはどのように固まるのか? 振動を常時受けている鉄筋コンクリート構造物は、本当に耐久性に劣るのか? などである。

 解決策として、通行車両による振動を最小限とするには、コンクリートが凝結する時間を捉え、その時に通行規制を行えば完璧だとの意見が大方を占めた。そのような話をしている時、車両供用下でのコンクリート床版打設が、どの程度強度や耐久性に影響があるかを計測する現場ある、との情報を得た。計測場所は、国が管理する主要幹線に架かる道路橋で、活荷重合成桁のコンクリート床版を打ち替える工事で行われるとのことであった。私にとっても非常に興味深い計測で、深夜、関係者が集まり現場を見に行ったことを、昨日のようにはっきり記憶している。結論は、確かに振動下で、床版のような薄板と言える鉄筋コンクリート構造物を施工することは難しいが、強振動下でない限り、鉄筋との付着が切れたり、強度が激しく低下するようなことは無いとの結論となった。私を含め、コンクリートの凝結反応に着目し、その時間を外した施工方法を考えていた同僚は一応に落胆した。その後は通行止めの議論は影を潜め、主桁の不等沈下、新旧床版の段差解消、打ち継ぐ箇所の一体化など分割施工に対する種々な検討を行い、既設道路橋の床版打替え工事を数多く行ってきた。今でも思っているのは、振動下のコンクリート打設への影響が少ないとの結論は、当時現場計測であったから影響が少ないとの結末となったが、今でも疑問が残っている。もしも、より精緻に種々な状態を計測すれば、コンクリートの凝結について、現代にも通じる有意義な論文が書けたかも、との後悔の念である。話が大きく横道に反れ、延々とシリーズには関係のない話となったが、ここで話を現地詳細調査の話に戻すとしよう。

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