シリーズ「コンクリート構造物の品質確保物語」㉗
群馬県編③ 数値化や施工プロセスの評価が施工者の意識向上につながる
横浜国立大学
大学院 都市イノベーション研究院
教授
細田 暁 氏
自社の技術を出し惜しみしない
次の強みを見つけることが進歩につながる
――(編集部) 協働の取組みの中では、自社の保有する技術力を知られる、すなわち手の内を明かすようなこともあると思いますが、デメリットはありませんか。
金子 その話は社内でも少しありました。しかし、例えば群馬県の講習会で現場のことを話す時点で、それを隠すと話になりません。格好いい話をすると、普段我々がやっていることは本当に強みなのか、ちょっと工夫をすれば誰でもできるのではないか、それをいつまでも強みだと思っていないで次の強みを我々が見つければいいのです。そうしていかないと、進歩していきません。今あることをいつまでも強みだといっていると遅れてしまうのです。当社がしていることを見てもらって、当社はその次を考える、というスタンスでいたほうがいいと思います。
細田 出し惜しみをしない、ということですね。我々学者でも講演で全部話してしまうと、その後に話すことがなくなると思う人がいるかも知れません。しかし、私もそのときに話せることはすべて話してしまいます。そうすると次のことをやるしかない、と追い詰められます。
持っていることを出し切っている河本工業さんの発表を聞くと、すがすがしいですね。良い会社だと思うし、会社のPRにもなっています。さらに、発注者も信頼します。こうした目に見えないメリットのほうが大事だと思います。隠す人は嫌いだし、付き合う気にもなりません。目に見えるところだけで得をしようとしている人たちはたくさんいますが、そうではないほうが大事です。
金子 今回の品質確保の取組みでベースが一律になったわけですから、そこからが業者の競争です。各社がカラーを出していくしかないので、絶えずベースを超える次の取組みを行い、課題を明確化していくことが重要だと思います。基本的にはこれが当社の考え方のベースだと思っています。
細田 できる人は当たり前のように行っているけど、手の内を明かしたから誰でも同じようにできるわけではありません。
金子 そこに行くまでには何回も失敗をしているので、同じことをやろうとしても絶妙な手順というものがあります。
細田 当たり前のことを当たり前にやっているだけだけど、それは蓄積をして失敗を重ねて、レベルが上がってきているから、当人にとっては当たり前であっても、他の人にはなかなかできません。そうすると、出し惜しみをする必要はなくなります。適切に情報をオープンにしてシェアしつつ、みんなが育っていくほうが、全体的な生産性向上になると思います。
技術者には考える時間が必要
施工計画を発注者と業者が一緒に考えていく
金子 我々が直接手を動かすわけではないので、手を動かしてくれる協力業者さんが大切になるということも伝えておきたいことのひとつです。我々の思いを理解して施工してくれる業者がいなければ、いくら革新的な試みをやりたくてもできません。いいものをつくることを一緒に考えてくれる協力業者をつかまえておくことが大切だと思います。
20年くらい前は、コンクリートの打設も決まった人間が施工していました。今ではそのような専門職人班はいません。当社は現在、大工さんがコンクリートを打ちます。彼らは型枠の弱いところ、強いところを把握していて、協力的で彼らからの提案もあります。
細田 人が育つことが一番重要ですが、育つことが難しい環境にどんどんなっていると思います。若手・中堅や協力会社など、みんなが育っていくことが大事だと考えられるなかで、金子さんがこのように環境を整えていきたいというアイデアや、我々に対する要望はありますか。
金子 我々くらいの会社ですと、例えばコンクリートに携わるときはコンクリートに携わっていますが、仕事がなくなればさまざまなことをしなければなりません。スペシャリストではなくてゼネラリストです。専門技術者が育ちにくい環境ではあると思います。だからこそ、手順書の作成が社内で生まれたのだと思います。これからも記録を残すことや、考える時間をつくってあげることが大切だと思っています。工事もなかなか平準化しないので、現場が始まると忙しい時期が続いてしまいます。考える時間を与えられていないと、私自身も感じることがあり、かわいそうだとは思います。
しかしその中でも、技術者として自分が譲るところと譲れないところの一線をもつように育てたいと考えています。人の意見も聞かなくてはなりませんが、これは自分の意見だと言える精神的なものを育てながら、チャレンジさせてあげられればいいと思います。
細田 人は人でないと育てられませんから、さらに下の世代を育てられる次世代のリーダーになる人をしっかりと、群馬県の講習会などの機会を活用して、みんなで育てていくしかないですね。
金子 最終的にはこのような取組みによって、施工計画を発注者と業者が一緒に考えるのが理想だと思っています。全体を一緒に考えるのは大変ですが、打設の仕方などを受注後に発注者と施工側が一緒に施工計画をつくることによって、発注者も納得して変更ができて、お金が出せるところは出していただきたいです。いいものをつくっていくなかで、お互いが勉強になりますし、理想はそこにあると思います。
細田 ありがとうございました。
(2018年8月16日掲載)