シリーズ「コンクリート構造物の品質確保物語」㉗
群馬県編③ 数値化や施工プロセスの評価が施工者の意識向上につながる
横浜国立大学
大学院 都市イノベーション研究院
教授
細田 暁 氏
ひび割れの発生に対して誘発目地や補強鉄筋の導入を提案
若手技術者が施工現場で自ら考えて試行
細田 2回目の研究会から取組みに参加されたとのことでした。それはどのような経緯からでしょうか。
金子 最初は当社の若い職員が参加していました。ある時一緒に出てくれと言われて、それからはズルズルと(笑)。
細田 金子さんは群馬県の仕事を直接担当していないとのことですので、大島亮一さん(同社の若手技術者)の現場の話を聞かせてください。
金子 大島が担当していた現場は、鉄道のアンダーパスとなる県の道路です。
細田 私は現場を見に行けなかったのですが、かなり会社としても工夫されて品質も良かったと思いますし、ひび割れもかなり事前検討をされていました。現場でされた工夫や効果を施工者の立場から教えてください。
金子 ひび割れをなくす取組みはもともと行っていて、できる範囲内で最大限の努力はしていました。大島の現場でも、ひび割れの発生に対して、温度応力解析を行って、誘発目地や補強鉄筋の導入を提案して、館林土木事務所とコミュニケーションをとって、施工しました。
現場での取組み① 温度応力解析の実施
現場での取組み② ひび割れ誘発目地の検討
現場での取組み③ 補強鉄筋の検討
細田 それらは試行の対象でしょうか。
金子 対象です。ただ、当社では試行の対象前からこうした取組みを行っていますので、特段の工夫ではありません。これまで行ってきたものを現場に応じて提案しています。ただ、大島が気を遣ったのが、目視評価によって表面の品質が評価されるようになったことです。どうしたら砂すじがもっと少なくなるかとか、打重ねが見えなくなるかとか、きちんとバイブレータをかければ気泡が減るとか、気泡を減らすために何種類か違うバイブレータをその都度かけてみよう、といったことを自分からトライしたことが大きな成果だったと思います。
細田 大島さんは現場でどのような職掌だったのですか。
金子 現場代理人です。まだ36歳と若い技術者です。もともと、当社では施工手順書や、コンクリート打設の手順書があり、独自のチェックシートも20年くらい前からあります。それには、ひび割れが出るケースや施工上やってはいけないことがかなり書いてあります。先輩方や我々が経験したことを追加していき、バージョンアップを図っています。
そのようなものはありますが、彼が気泡や砂すじを減らすためにどうしたらいいかを自分で実験をしてくれたことは嬉しいことです。虎の巻に書いてあるからこうやればいい、ではなくて、自分で実際に試してみることは、これからの彼の技術者としてのあり方を考えると大切だと思います。
先輩が言ったこと、本に書いてあったことはひとまず置いといて、自分も同じようにトライしてみるということが、この取組みで変わってきたことかもしれません。
つくって終わりにせずにPDCAを回す
設計者にも施工における品質確保の取組み情報のフィードバックを
細田 山口システムも群馬県も東北も品質確保がキーワードになっていますが、産官学、最終的にはマスコミを巻き込んで、みんなが力をあわせるといい方向にいくと思います。現在、金子さんはまさに産官学の協働を実際に体験されているわけですが、協働ではない仕事と比較するとどのように感じますか。
金子 例えば、普通の現場は発注されました、施工しました、評価されました、で終了です。産官学が連携すると、発注された工事に対して、みんなで提案する形になって、結果が出て、それがまた戻ってきます。PDCAが回る形になっていると思います。そのような流れが進歩していくためには必要だと思います。
細田 つくって終わりではなくて、つながっていくのですね。
金子 品質確保の取組みのなかで、設計にもチェックが入るようになりました。三者会議で問題があると、設計者と発注者と現場の人間が協議することになっていますが、設計し施工したものが設計者に戻るためには、その三者会議の中で、施工における品質確保の取組みの情報が設計者に伝わり技術向上につながるPDCAがあればいいのではないでしょうか。学が入ればさらに論理的な話になってくるでしょう。そのような仕組みを今後つくっていく必要があると思います。
会社のなかでも工事を受注すれば、施工検討会でやり方をみんなで話して、実際に施工して、最後はクロージングミーティングを行っています。結果はどうだったのか、次に反映できるのか――それをもって現場が終わりになります。そのような仕組みが公共工事の全体のなかにあると、設計者にも情報がフィードバックされて、よりよい設計ができてくると思います。
品質確保の取り組みで手間が増えた意識はない
県の統一書式になったことでまとめやすくなった
細田 そのような取組みが結局、生産性向上につながりますよね。バラバラで行っているとそれで終わりですが、みんなで知恵を絞って対話をしながら、育つ取組みが重要です。つくった構造物も、それ自体で世の中の役には立っていますが、改めて研修に使ったり、つくったときのノウハウを講習会で話したりして、みんなでシェアする。結局、そのようにしていかないと、我々は生き延びていけないのだと思います。ピンチだからこそ、結託してやるしかないですよね。
品質確保は手間がかかります。施工者の立場から見て、品質確保の取組みの意味や課題を聞かせてください。
金子 手間については大島とも少し話をしましたが、品質確保の取り組みで手間が増えたという意識はありません。温度の記録をつけたり、ひび割れを調査したりするのは、当社の書式を使ってこれまで行っていたことです。それが今度、県の統一書式になったということで、それほど増えたという意識はありません。逆に言うと、統一書式になったことでまとめやすくなりました。
細田 自社の努力で行っていたことが、発注者も人によってはレベルが上がるようになったということですね。
金子 ただ、日本人独特のデータを取って満足してしまう、というところがともすればありました。群馬県さんにデータを提供することで、さまざまなところからデータが集まり活用されて、ひび割れなどの対応策が検討できれば、意味のあるデータになると思います。
細田 先も述べたつながりや改善をしていくことでは、データベースが一番のツールになります。
金子 当社の規模だと、年間に数件ぐらいしかデータは集まりません。群馬県さんが一括管理して、データを集めて、それを解析して使うのは有効な手段であり、いろいろと改善されていくと思います。
細田 群馬システムにはいくつか特徴がありますが、散水試験や非破壊試験等の活用もその一つですね。実際に行うのは施工者さんですが、どのような印象を持たれていますか。非破壊試験といってもいろいろありますが、行ってみようと思われていますか。目視評価についてはいかがでしょうか。
金子 目視評価は最近活用させてもらっています。非破壊試験も元々自社で行おうと思っていて、資格も主要なものは取らせています。しかし結局、大変になってきてやらなくなってきています。時間がかかり現場が忙しくなればできなくなるので、今後は簡単なものから積極的に行っていきたいと考えています。散水試験は、国交省やネクスコの仕事でも使ってみたいと現場は言っています。
細田 散水試験ならば、どの規模の施工者でもできます。非破壊試験の活用もよいのですが、施工のプロセスをしっかりする、ということが本質です。お金のかかる装置だと、どうしたって全部の構造物ではできないでしょうから。
チェックシートを有効に活用する
――(編集部) 施工状況把握チェックシートを使ったことによって、対話がしやすくなったということですね。河本工業さんでは普段行っていることとのことでしたが、対話ができなかった会社が今回のチェックシートや県側の取組みが開始されたことにより、一方通行だったものが対話しやすくなったという感覚ですね。
施工だけでなく、設計状況把握シートを新たにつくったことは非常に意味があり、例えば上部工では設計どおりにつくると不具合が出るような場合もあったかと思います。照査設計をすると、たとえばピアの高さが足りないとか、もしくは三次元座標的に少し違ってきているとか、そのようなものを昔ですとわざわざ測量しなおして、上部工の桁を架けたりすることもありました。施工業者が設計をあまり信用していないような側面もあったかと思いますが、設計にフィードバックできるのは、施工者にとってもいいことなのかを聞かせてください。
金子 例えば橋梁で言えば、床版のコンクリートを打設するのに膨張材を使わないとバリバリにひび割れてしまいます。そういうことをいくら設計に言っても反映されません。施工者側で膨張材を入れたり、繊維を入れたり、いろいろな工夫をして自腹を切っています。最終的にコストを考えれば、膨張材を入れたほうが安くなります。設計チェックシートのなかで、そのようなことがダメだということが設計者にもわかり、それが回っていってもらえれば、すごくプラスになると思います。設計者が自分の行った設計を現場に見に来てもらって、それをチェックシートに反映させていくことが重要だと思います。シートをつくっただけでは意味がないと考えています。