シリーズ「コンクリート構造物の品質確保物語」㉖
群馬県編② インハウスエンジニアがチャレンジすることの大切さ
横浜国立大学
大学院 都市イノベーション研究院
教授
細田 暁 氏
群馬県におけるコンクリートの品質確保の取組み第2回は中央長野原橋の現場で取り組んだ橋梁上下部工の施工工事、チャレンジ現場での取り組みについて、同県県土整備部都市計画課都市計画係主幹の下山秀男氏に聞いた。インハウスエンジニアの意気込みによって現場がよくなる実例が浮かび上がるそんな対談となった。(聞き手:細田暁横浜国立大学教授 編集:井手迫瑞樹)
細田 初めてお会いしたときは八ッ場(ダム水源地域対策事務所)の監督官でしたね。そのときのお話をお聞きしようと思いますが、現在の職掌は。
下山 都市計画課に在籍しています。構造物を建設することとは全く違ったことをしています。
細田 八ッ場のときの話を聞いていきたいと思います。まず、試行工事は楽しかったですか。
下山 楽しかったですね。
細田 最初はどう思ったのですか。やれといわれたときの気持ちからお願いします。
下山 主に透気試験のフィールドを提供するという話で、たまたま自分の事務所(八ッ場ダム水源地域対策事務所)の現場が当たりました。平成26年度のことです。それが、平成27年度からはじっくりやってみようという話に代わりました。本格試行の最初の年ですね。
細田 どのような構造物の現場ですか?
下山 長野原町の町道の改良工事なども受託している事務所で、町道の橋の架け替えが2、3ありました。試行の現場も町道橋の架け替えの現場でした。
細田 橋名は。
下山 中央長野原橋です。橋長151mのPC3径間連続ラーメン箱桁橋で、橋脚高はP1が16m(基礎は大口径深礎杭、φ7,000、深さ21.5m)、P2が橋脚高14.5m(基礎は大口径深礎杭、φ7,000、深さ20.5m)という構造物でした。そのP1橋脚が平成27年度の試行工事として選ばれました。
細田 最初は前橋工科大学の舌間孝一郎准教授が来られて、コンクリートの透気を測って終わりだと思っていたところ、だいぶ違ったみたいですね。
下山 正直、びっくりしました。コンクリート品質管理計画書の作成、施工状況把握チェック、コンクリート表面の目視評価の実施などを求められましたが、どうしたら良いかわからなかったのが実情です。
細田 その状態からどのように、育っていったのですか。
下山 試行が始まったときは橋脚の現場だったのですが、施工業者も代理人も、計画を立てることが好きな人だったので、やりやすかったというのが一番です。分からない! という反応をされてしまうと、そこから共通認識をもつまで大変なのですが、幸いに下部工の現場では困ったことはなく、スムーズに進めることができました。
細田 それは地元の業者ですか。
下山 そうです。
細田 群馬県も試行をいきなり始めたわけではなくて、たとえばコンクリート研究会が勉強会を重ねていました。下山さんや現場の人はそういう情報は持っていましたか。
下山 建設企画課の方で発信していて、事務所の次長級が集まる会議でも伝えられていたと思いますが、個人的にはよく認識していませんでした。
細田 例えば、施工状況把握チェックシートの使い方などの把握や、その講習会への参加はなされていましたか。
下山 当時の事務所員は参加していなかったと思います。
細田 下山さんも参加はしていなかったのですか。
下山 試行現場に決まった年の春先の研修に参加したのが初めてです。実際自分のことになってこないと、なかなかこうしたアンテナは立てられません。
細田 自分がやらなければいけない責任あることになってくるわけですよね。何がきっかけで回るようになってくるのですか。
下山 下部工施工時は業者も協力的だったので、手探りながらうまくまわっている感じではありました。その後の上部工は全国規模の業者(川田建設とIHIインフラ建設)と地元業者がJVを組んで施工してもらったのですが、試行現場ではなくてチャレンジ現場としてお願いしたところ、快く引き受けてくれました。特に川田建設さん(上部工事(分割1号)工区担当)は自ら供試体を製作してくれました。
細田 「チャレンジ現場」というのは正規の試行工事と何が違うのですか。
下山 正規の試行現場では打込みごとに施工状況把握チェックシートを活用していたと思いますが、チャレンジはそこまでせずに、とりあえず施工状況把握チェックシートを使ってみよう、という意味合いでした。しかし結果的には、正規の試行現場と変わらないやり方で施工しました。例えば打込みや締固めについては、打込み速度(16㎥/h)や高周波バイブレータの使用、バイブレータの挿入間隔、挿入長、振動時間、ブリーディング水処理などを細かく決めて記載していただきました。また、打込みの体制・人員配置計画も詳しく決め、役割分担を色つきヘルメットで明示し管理しやすくしました(下表、写真参照)。