-分かっていますか?何が問題なのか- ㊵コンクリート橋の健全度分析と耐久性向上(その2) ‐本当にコンクリート橋は壊れにくいのか‐
これでよいのか専門技術者
(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員
髙木 千太郎 氏
3.異質なコンクリート橋・アンダーパス構造物の劣化速度は?
今回の連載は、鉄筋コンクリート橋に発生する変状によって、健全度が悪化するのは何が主たる要因であるのかについて、要因別に相関関係を調べた結果を説明した。
前回、健全度と構造別の差異について説明した際、カルバート構造は施工時の欠陥が多いのではと考えたが、それが適切であったかも再検証した。その過程で、短径間ではなく、長径間のアンダーパス構造も道路橋に含まれていることが明らかとなった。さらに、ボックスカルバート構造の多くは、現況写真でも分かるように、補強した箇所が再劣化し、最悪落下事故となるような重大変状が発生している事実も明らかとなった。このような理由から、再度分析資料の見直しを行った。
今回の分析では、先に分析した定期点検結果のデータではなく、その次に行った定期点検結果のデータを使うこととした。その理由は、先の分析資料を調べると、アンダーパス・ボックスカルバートが中柱を耐震補強していたために、変状が正しく反映されていないことに気づいたのが理由だ。再調査に使った対象橋梁数を表-2に示す。調査・分析は、対象橋梁を絞り込み、構造別の劣化予測式を算出することとした。私は、今回の分析を始める前、当然ボックスカルバートよりも、桁橋の劣化速度が速いものと想定していた。しかし、予想に反して図-11で明らかなようにボックスカルバート構造の劣化が最も早く、寿命に至る経過年は60年弱となった。この理由は、先のトンネル構造に近似しているアンダーパス形式の道路橋の変状が大きく影響したものと推測される。また、先に示したボックスカルバート構造の道路橋は、一般的な開削方式で築造された都市トンネルで発生している変状と同様とも考えた。その理由は、開削工法で築造した矩形トンネルは、構造体の継ぎ手部のひび割れ、漏水や遊離石灰析出、基礎杭が無いことなどから躯体の不同沈下し、多くの問題を抱えていることが近年明らかとなったからである。
このような構造の施設は、先の道路橋であれ、矩形トンネルであれ、点検をするのも対策を行うのも、多くの車両が躯体内を常時走行しているので非常に困難と言える。このような構造物は、如何に効率的に点検や種々な対策を行うかがカギとなる。現在多くの専門家が進めている、点検の機械化、ICTを使った点検方法の開発ニーズがここにもある。
話題提供の新幹線台車枠亀裂調査の際にも述べたが、現代社会には、社会基盤施設に関連する技術者に対し、数多くのニーズがあることを、今回のカルバート道路橋を対象に分析する過程で強く感じた。現段階では、種々な場面での判断力は当然人の方が優れている。社会から期待され、ブームに乗ったかのように見える第3世代の人工知能(ディープランニング等)は、開発の進歩は目を見張るものではあるが、物事の判断を人に取って代わる時代は直ぐにはこない。
しかし、社会基盤施設の多くが高齢化し、変状が目立ち始めた近年、少子高齢化社会が現実となる前に、人が行っている作業の多くを代行する機器やシステムの開発は急務である。東京都多摩市唐木田で起こった建築現場の火災事故は、主たる原因は仮設鋼材切断時の作業員のケアレスミスである。しかも、当該建設現場内の事故は2度目でもあり、監督技術者を含め大手企業のリスク管理の甘さがまたも露呈した。このような事故の再発防止策は、今まで何度も言っているのでこの場では指摘はしないが、慢性化する技術者、特に職人不足もその原因の一つであろう。技術者や職人の負荷を少なくし、ケアレスミスの事故を撲滅するためにも、人の行っている作業を補助し、代行する機器やシステムを開発し、実装することこそ専門技術者に与えられた責務である。
肩書、プライド、机上の空論はいらない、直ぐに役立ち、使える機器、システムを現代社会も欲しているし、私も直ぐにでもほしい。私の場合は、ただ楽をしただけなのだが。
(2018年8月1日掲載、次回は9月1日に掲載予定です)