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-分かっていますか?何が問題なのか- ㊴コンクリート橋の健全度分析と耐久性向上

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員

髙木 千太郎

公開日:2018.07.01

2.コンクリート道路橋の現状調査

 読者の多くの方はお分かりとは思うがここで鉄筋コンクリート構造についておさらいをしよう。
 鉄筋コンクリートとは、引張力に弱いコンクリートの弱点を鋼材(鉄筋や形鋼等)で補強したコンクリートである。鉄筋コンクリートの注意点として、鋼材だけではコンクリートの代表的な変状、ひび割れ発生に対して補強にはならない。一般的に、鋼材が有効に機能するのは、ひび割れが発生した後であり、コンクリート構造物の設計は、ひび割れ発生後の状態を基準として行われていることの理解が必要である。
 鉄筋コンクリート構造物、特に道路橋を対象として特徴を述べる。①型枠を造りさえすれば、形状や寸法に制限が無い。②品質管理、設計、施工を適切に行えば、耐久性、耐震性に優れ、維持管理費用も安価である。③低引張強度であることから、ひび割れが発生しやすく、脆いことから部分的に破損しやすい。④鋼構造物と比較すると断面が大きく、単位体積重量も24~24.5N/㎥前後であることから、構造物として重量が大である。⑤コンクリートの中性化、鉄筋の電気的鋭敏性、塩分等の環境条件などで鋼材(鉄筋)の腐食が懸念される。⑥コンクリート中の鋼材(鉄筋)は、過荷重を受けると座屈しやすい。などである。ここにあげた特徴を持つ鉄筋コンクリート橋の設計は、与えられた荷重条件に対し、各部材に生じる曲げモーメント、せん断力及び軸方向力など断面力を適切な構造モデルを設定して行うことになる。要は、学生の時に学んだ構造力学授業の初期に、何度か手計算によって必要断面や鉄筋量等を求め、図化した梁と床等の設計である。ここで、鉄筋コンクリートの基本は再認識したと考え、私の分析過程と結果に移るとしよう。

1)鉄筋コンクリート道路橋の種類と代表的な変状

 国内の道路橋は、約73万橋と言われているが、その多くは、設計、施工が容易で安価な鉄筋コンクリート橋であると言っても過言ではない。代表的な鉄筋コンクリート道路橋は、写真-8のカルバート(カルバート橋)、ラーメン橋(外観は、カルバートと同様であるので現況写真は省略)、写真-9のアーチ橋、写真-10の桁橋、写真-11床版橋(桁構造)、写真-12床版橋(版構造)ここにあげた6タイプがほとんどを占めている。構造分類と5枚の鉄筋コンクリート道路橋の写真を見て、どんなところに架かっているのかイメージが沸いたと思う。お分かりのように、農業用水路、市街地水路や小河川を跨ぐ小構造物の多くは、ここに紹介した鉄筋コンクリート構造である。次に、鉄筋コンクリート道路橋の分析を行う前に、代表的な変状を紹介しよう。



 変状の中でも時間軸の短い損傷(地震等自然災害に被災や車両・船舶等の衝突などによって発生した変状)としては、写真‐13に示すような、鉄筋露出、はく離がある。

 道路橋の場合、取付部は、桁下が河川管理用通路や生活道路の場合が多々あり、桁下高さが十分でない場合が多い。ここにあげた理由からか、桁下空間を無理やり車両が通過を試み、その結果、写真-13に示すような損傷が発生する。このような損傷が起こっても、結構鉄筋コンクリート橋は強く、大事に至ることは少ない。
 写真-14は、桁端部が橋台の不同沈下、側方移動によって接触し、接触部に応力集中が発生、はく離及び鉄筋露出した状態である。写真-15は、塩害もしくは中性化で変状が発生、コンクリートが欠損、鉄筋露出した事例である。ここに示した状態を説明すると、4本の露出した鉄筋は、曲げに対して抵抗できない状態となっているとの予測がつく。

 写真-16は、張り出し部の変状、コンクリートのはく離と鉄筋露出である。張り出し部は、側面や路面から雨水が伝ったり、内部に侵入したりする状態となり易く、当該環境となると、被り厚の薄い箇所からはく離し、第三者被害となる変状である。写真-17は、可動支承の動きが悪く、拘束状態となったことから、等間隔のひび割れが発生したものである。これと似通った現象が、横桁にも格子構造の主桁拘束によって発生することがある。

 写真-18は、床版及び主桁に大きなひび割れと欠損が発生したものである。当該変状の原因は、下部構造の変位から支承が欠損、それに誘発されて偏荷重が集中し、ひび割れ、欠損に至ったものと想定される。このような、原因で写真-18のような状態となることは稀有な事例である。写真-19は、アーチ橋やラーメン橋の基部が欠損したものである。当該事例は、躯体施工時の施工不良でジャンカが内在し、経年ではく離したものであるが、鉄筋コンクリート構造には結構施工不良が多い。

 写真-20は、鉄筋コンクリートアーチ基部の補修した箇所が再劣化し、はく離、鉄筋露出したものである。鉄筋コンクリート部材に顕著な変状が発生した場合、劣化防止剤やモルタルなどで補修する事例が多々あるが、変状が発生した原因を明らかにし、適切な措置を行わないとこのような再劣化現象となるので注意が必要である。以上が、鉄筋コンクリート道路橋に発生する代表的な変状(損傷、劣化)である。次に、今回から連載する鉄筋コンクリート道路橋の調査、分析結果について順を追って説明する。

2)鉄筋コンクリート道路橋の調査分析

 今回の調査分析対象橋梁は総数445橋であるが、建設年次を調べると供用後100年を超える橋梁、前回の東京オリンピック前の供用後80年から高度経済成長期の終わる供用後40年を経過した橋梁が多い(図‐3参照)。また、構造種別としては、表‐1に示すように、カルバートが158橋の35.5%、ラーメン橋が35橋の7.9%、アーチ橋が46橋の10.3%、桁橋が89橋の20.0%橋、残りが床版橋で117橋の26.3%となっている。調査前に想像していた通り、カルバート構造と床版橋が半数以上の61.8%を占め、次いで桁橋の構成となっている。最大支間長別を区分してみると、アーチ橋が最大60mに達しており、他の形式と比較すると、支間長が30mを超えるとアーチ橋が多いことが分かる。また、アーチ橋に次いで長い支間長で架けられているのは、ラーメン橋、桁橋の順で、5m以下となると圧倒的に床版橋とカルバートとなる。道路の橋梁としての基本は、橋長が2.0m以上、土被が1.0mではあるが、今回の調査で橋長が2.0m未満の構造も41橋あり、全体の9%を占めている。次に、対象橋梁445橋がどのような健全度状態であるか分析した結果を説明しよう。なお、ここにあげた調査対象橋梁の健全度区分は、私が取りまとめ、現在も使われている道路橋健全度診断の考え方によって区分した。まずは、読者の多くの方々は私の取り纏めた「橋梁の定期点検要領」のコンクリート橋健全度診断について説明する。

①コンクリート橋の健全度評価について
 道路橋の定期点検は、図‐4に流れを示したが、水色の破線で示す区域が外業となる点検作業で目視外観調査と安全性判定をおこなう。

 点検が終わると、現地で取り纏めた調査資料を基に、内業であるパープルの破線で示す診断業務に移る。点検の基本は、徒歩または船で可能限り近接目視で行い、必要に応じて足場(下部構造の全面から2.0mは足場を設置)、点検車を利用して行う。過去に設計された多くの構造物は、維持管理、特に点検に配慮して詳細構造を決定した事例は少なく、いずれも容易に点検ができるような橋梁は数少ない。
 どことはい言わないが、身体が汚れるから、部材の詳細な箇所を見るには潜り込まないといけないから、高所で容易に部材に接近できないからなど点検できない理由を述べる技術者がいる。点検困難箇所も、足場や点検車両、点検冶具等を使って確実に、各部材の隠れた部分まで肌が触れるほど接近して行うのは、点検・診断業務の基本、鉄則なのである。点検・診断し難い箇所を適切に行うのがプロ、困難な箇所を事も無げに行うのが優れた専門技術者でしょう。忘れてはならない、このことを。
 ここで私が取り纏め、地方自治体で初めて導入したコンクリート道路橋の健全度診断方法について説明する。これまで、鋼橋に関する健全度診断方法は説明しているので、以前読まれた方は多少の違いはあっても考え方は同様なので理解は早いと考える。道路橋を構成する各部材別に健全度診断する判定標準を表‐2に示した。

 第一にaランクの健全からeランクの危険まで5段階に区分する。次に、径間別(橋梁単位別)の健全度は、部材別の健全度から表‐3の『状況』枠内に記述している総合健全度判定式に基づいて算出し、最終的に部材別と同様にAランクの健全からEランクの危険まで区分することになる。

 部材別の健全度判定区分は、変状ランクと考えてよく、詳細を表‐4に示した。表の見方であるが、変状ひびわれの場合、規模的に少なくの種類別にランク決定する。

 例えば、ひびわれCランクは、ひびわれ幅0.3㎜(PC構造物の場合は0.2㎜)以上のひびわれが50㎝以上の間隔であるものとして区分する(言葉だけでは分からないのでCランクとは写真‐21を示したので参照にするとよい)。

 目視外観調査によって変状ランクが評価されると、表‐5に示した「重み係数及び評価因子別の評価表」に基づいて耐久性αを算出する。ここで示す重み係数は、各部材が構造体に占める重要度と考えればよく、主桁は30、その1/3が床版、1/10が縦桁、横桁となる。つづいて、安全性βを、設計活荷重、大型車交通量、供用年数から算出する。このようにして求めた耐久性αと安全性βによって径間単位の総合健全度ランクを決定する。なお、耐久性αと安全性βの数値(閾値)を表‐6、総合判定図を図‐5に示したので参考にするとよい。以上が、今回分析に使用した点検・診断の基本的な考え方である。それでは、分析結果を順次紹介しよう。


②調査対象橋梁の健全度
 調査した445橋の健全度をランクA、B、C、D、Eに区分し、グラフ化したのが図‐6である。健全度が注意のDランク評価となったのは、数が多い順に桁橋、アーチ橋、床版橋、ラーメン橋、カルバートとなった。また、やや注意のCランク評価は、桁橋、床版橋、カルバート、アーチ橋、ラーメン橋の順であり、いずれも桁橋の健全度レベルが悪い位置となっている。その理由は、支間長が長く、桁下高が低いのが大きな理由であると考えた。また、他の理由として、桁橋とアーチ橋でCランク以上の損傷率が平均値より高いのは、他と比較して構造が複雑で施工の難易度が高いことなどから、施工不良に起因する初期欠陥が内在している可能性が高いと考えられる。

 次に、各構造別に供用年数と健全度の相関がどのようにあるのかを分析してみた。図‐7はカルバー構造、図-8はラーメン橋、図-9はアーチ橋、図-10は桁橋、図-11は床版橋の相関状態を分析したグラフである。




 全ての構造形式別のグラフを見ると、全般的に架設時期が古いほど損傷程度が高くなる傾向にはあるようにも見えるが、ばらつきが多く明確な相関があるとは考えられない結果となった。なかでも、カルバート、ラーメン橋及びアーチ橋は、比較的新しい橋梁でも健全度が悪化している箇所(赤色破線で囲んだ部分)もあった。この原因は、施工時の初期欠陥が進展したものと考える。カルバートやラーメン橋は、プレキャスト製品を現地に設置する工法であれば、初期欠陥は比較的少ないといえる。しかし、架設現地で型枠を組み、鉄筋を組み立て、コンクリートを打設する場合は、簡易な構造だけに施工欠陥が生じやすいとも考えられる。また、アーチ橋の場合は、基礎を含め、比較的大規模で構造が複雑となり易いために、他の形式の鉄筋コンクリート構造と比較して施工欠陥を生みやすいと考える。以上の理由から、供用年数が短くても健全度が悪化しているのは、周辺環境の影響よりも施工技術の差異によるものと判断した。鉄筋コンクリート構造物の初期欠陥は、型枠の移動、打ち継ぎ処理及び間隔(コールドジョイント)、バイブレーター不足などによる、豆板、ジャンカ、空洞等である。
 次回は、供用している鉄筋コンクリート橋の健全度と交通量との相関、特に大型車交通量との相関、次に桁下条件との相関等について分析結果を紹介することとする。しかし、鉄筋コンクリート構造物は、予想以上に耐久性がありそうだ。

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