シリーズ「コンクリート構造物の品質確保物語」㉕
群馬県編① 品質確保の取組みはモノに魂を込める「モノづくり」に通じる
横浜国立大学
大学院 都市イノベーション研究院
准教授
細田 暁 氏
適時適切な技術的判断を求められる県土木技術者
取組みが人材育成や仕事への意識向上につながることに期待
細田 自治体の技術者はとても大事な存在だと考えています。人が育っていくには難しい時代ですが、県の技術者が果たすべき役割についてどのようにお考えでしょうか。
三田 県の土木技術者は、インハウスエンジニアです。職員という立場で公共工事の計画立案から設計、積算、工事の監理、そして完成後の維持管理までの業務の中枢を担っています。発注者だから偉いということではなく、一連の業務をすべて束ねて動いているという意味では、非常に重要な役割を持っていると思っています。そのなかで、それぞれのプロセスで生じるさまざまな事象に対して、関係者との円滑なコミュニケーションと協働意識を醸成させることで、適時適切な技術的判断を下せなければなりません。県の技術者の果たすべき役割はここにあると考えています。
最近では情報通信技術の高度化や、複雑かつ煩雑化した業務体制の変化により、パソコンの画面だけを見て、データなどの処理をすることが仕事だと勘違いしている人が多くいます。公共工事には単品受注生産と現地生産という大きな特徴があり、「事件は現場で起きている」のに現場に行かずに処理をしたがる人がたくさんいます。それでは技術者の役割を果たしていないということをつねに言っています。
現場で起きることに対して適切に対応できる判断力を養うためには、自分ひとりでは限界がありますから、つねにアンテナを張るとともに人間関係を大事にしなければなりません。
また、仕事は強いられることが多いですが、やらされる感が強いとやる気はでません。何のために行う工事なのか、その工事の目的を自分の中で腑に落ちるまで明確にする必要があると、若い職員にはいつも言っていました。主体性を持って取り組むことができれば、楽しく仕事ができ、いい仕事となります。今回の取組みが、品質確保という本来の目的のほかに、人材育成や仕事に対する意識向上につながることに期待しています。
――(編集部) 勉強することは大事ですが、自分だけでは分からないこともたくさんあります。現場に出ることで人脈ができ、分からないことがあったらすぐに聞ける、あるいは対応してもらえることで、自分の実力以上のものが発揮できるようになると思います。このようなことを若い職員につなげていくためには何が必要だと考えていますか。
三田 自分が所属長になってから、施工業者の方との接点を多くするためにさまざまなことを企画しました。例えば、失敗自慢大会を開催しました。誰でも失敗をしているわけですが、その失敗を隠します。失敗を自慢しあうことにしたら、オープンにできます。その場を通して、失敗を恐れるな、と若い職員には伝えてきました。失敗がなければ次につながらないし、小さな失敗をたくさんすると、大きな失敗をしなくてすみ、仕事のハードルの乗り越え方が上手になります。また、仕事の進め方にはさまざまな選択肢があります。選んだものが明らかに間違っていれば問題ですけど、そのようなことはまずありません。そこで私が責任を持つからまず動いてみようと職員に伝えていました。
今回の群馬県の取組みも長い目で見て、改善をしていくスタンスをつねに持っていなければならないと思っています。その意味では、本格運用が始まりますが、ずっと試行なのかもしれません。
細田 ありがとうございました。
(2018年5月31日掲載)