シリーズ「コンクリート構造物の品質確保物語」㉕
群馬県編① 品質確保の取組みはモノに魂を込める「モノづくり」に通じる
横浜国立大学
大学院 都市イノベーション研究院
准教授
細田 暁 氏
今回から4回に分けて、群馬県におけるコンクリートの品質確保の取組みがどのように行われてきたかについて聞くインタビューを掲載する。第1回は平成24年度から群馬県の職員として活動に参加してきた現・日本サーベイ理事の三田淳氏に聞いた内容をまとめた。(聞き手:細田暁横浜国立大学准教授 編集:大柴功治)
山口県の熱心な取組みに刺激を受ける
平成22年8月に「コンクリート研究会」を設置
細田 群馬県においてコンクリートの品質確保の取組みが始まった経緯から教えてください。
三田理事 出発点は平成21年9月に伊勢崎市内で行われたひび割れ問題に関する講習会です。県内の民間企業による講習会で、当時群馬大学に在籍していた半井健一郎先生(現・広島大学)が長期海外出張で不在だったため、代理で細田先生が講師として来てくれました。そこで山口県のひび割れ抑制システムの話をされました。
参加者は山口県の熱心な取組みに刺激を受けました。その中の群馬県生コンクリート工業組合の人たちが半井先生と今後の群馬県内での温度ひび割れ抑制対策の展開について議論を行い、産学官の連携による取組みを展開することに同意したのです。
当時、産学官の連携の場として、土木学会関東支部群馬会が活発に活動をしていました。幹事のひとりであった半井先生は、群馬会に下部組織を設置して活動を展開することを考え、平成22年8月の幹事会で「コンクリート研究会」の設置が承認されています。設置目的は「群馬県内のコンクリート関連業界のレベル向上および群馬会の活動活性化」で、具体的には産官学の協働により、コンクリート構造物のひび割れ抑制対策を成功させている山口県の事例を参考に、県内のコンクリート構造物の品質向上のための情報交換などを行うというものでした。
細田 私は伊勢崎でお話をする半年前の3月に初めて山口システムの詳細を知りました。試験施工の話は以前から少し聞いていましたが、山口県で徳山高専の田村隆弘先生と長大の前田勉氏に直接お話を伺い、衝撃を受けました。同じくらい衝撃を受けていたのが半井先生で、良い取組みであることをこの時点で知っていたから話が進んだのだと思います。
コンクリート研究会が設置されて、活動が開始されたのはいつからでしょうか。
三田 平成23年度からで、第1回目の研究会を7月末日に開催しています。「コンクリートのひび割れ問題」をテーマに、温度ひび割れや収縮ひび割れに関しての示方書の記述や山口県の取組みを紹介しました。研究会の最後に、アンケートで今後の研究会の活動方針についての意見を参加者から集めるとともに、会の運営に対する協力者を募りました。アンケートでは自由記述欄にびっしりと熱いコメントが書かれ、また、会の運営に協力的な方が複数いたことから、研究会の幹事としてお誘いして幹事会を組織することになりました。この幹事会は、人伝てにメンバーを拡大し、その後の研究会の活動の中心を担うこととなり、県内での取組みを広めていくうえで献身的な貢献を頂いています。
ただ、民間業者の反応が非常に良かった一方で、発注者である群馬県の反応はいまひとつで、第1回研究会の参加者59名のうち、発注者は群馬会幹事関係者の2名だけという状況でした。事前に県に趣旨説明に伺った際にも手応えはなく、まずは産学が中心となってのスタートでした。
平成23年度の特別講習会には約50名の県職員が参加
県との連携は平成25年度から具体化
細田 産学だけで熱心に活動しているところは他でもありますが、やはり公共事業ですから、行政がその気になってくれないと活動は上手く進みません。群馬システムで県が積極的に関わるようになった経緯を教えてください。
三田 平成23年度は「コンクリートのひび割れ問題」をシリーズ化した講習会を計3回開催しました。第3回では、田村先生、二宮純氏(当時山口県)、小田村真一氏(当時山口県建設技術センター)と細田先生をお招きし、山口県の取組みについての特別講習会を開催しています。約50名の県職員を含め200名近い参加者となりました。開催後のアンケートでは、「群馬県も導入を検討すべき」など、群馬での展開に対して非常に前向きなコメントが目立ったと聞いています。
平成24年度にはコンクリート研究会の活動を本格化させようという流れになり、コンクリート工事全般に関するテーマを体系的に扱う講習会を年に3回程度開催して、県内土木技術者の技術力向上を目指すことになりました。平成24年度の途中に半井先生は広島大学に異動されましたが、前橋工科大学の舌間孝一郎先生に研究会の庶務をお願いすることで活動を継続しています。また、県職員の定期異動のタイミングで、群馬県からの幹事を拡充しています。これまでの建設企画課に加え、契約検査課と道路整備課からも参加して、私も工事専門検査員の立場から活動に参加することになりました。
講習会では基礎知識編、最新技術情報編、法令・規準編の3本を基本として、テーマに応じて著名な外部講師を招いて基調講演をお願いしたほか、県職員も参加したパネルディスカッションを開催しましたが、山口システムの群馬県への導入など、県の実務と連携した動きには至りませんでした。
県との連携が具体化するのは平成25年度からです。まず、養生をテーマに、東京大学の岸利治先生を招いて開催した第7回研究会(6月開催)が、その後の群馬県内での表層品質に関する議論の出発点となりました。基調講演では、表層品質の重要性が前年に活動を終了していた「構造物表層のコンクリート品質と耐久性能検証システム研究小委員会(土木学会コンクリート委員会の335委員会)」の活動とともに紹介されました。研究会の翌日、半井先生が岸先生を県内の現場にご案内した際、群馬県内での表層品質の議論に後押しを頂いています。
第8回研究会では、岸先生に加え鉄道総研の西尾荘平氏や上田洋氏にご参加を頂き、335委員会の活動の詳細や開発中の試験手法などを紹介して頂くとともに、群馬県における検査のあり方を議論しています。この研究会では、私も工事専門検査員としての自身の体験を踏まえ、良質なコンクリート構造物をつくることの重要性と、それを実現するためには発注者と施工者の相互理解と協働が大切であることを訴えました。また研究会の前日には、河本工業が施工する伊勢崎市内の現場において表層品質調査を行い、研究会の幹事に手法の紹介などを行いました。
これらの活動を集約する形で、半井先生が研究代表者となり、群馬県における品質確保に関連した研究助成の申請を行うことになり、平成26年度の国土交通省「道路政策の質の向上に資する技術研究開発」で、「非破壊試験を用いたコンクリート構造物の表層品質検査システムの構築」が採択されたのを受け、平成26年度には数多くの取り組みが行われました。具体的には、国土交通省の研究プロジェクトがスタートするとともに、群馬県と前橋工科大学は品質確保に関する共同研究をスタートしています。
また、平成25年度から研究会の幹事になっていた後藤剛氏(当時道路整備課)は、橋梁長寿命化の観点から取組みの重要性を認識し、館林市内の2つの現場で実構造物に付属した試験体の作製を立案し、当時監督員だった宮田嗣実氏(当時館林土木事務所)とともに実現させました。