はじめに
文頭から何時もの上から目線の物言いで申し訳ないが、敢えて言いたい「これでよいのか! 専門技術者」、何時になったら事故や不祥事の無い社会になるのか!
今の日本には、技術者の質を問われるような事件が多すぎる。私が毎回のように事故や不祥事を探し出し批判するので、これを読まれている方々の多くは口うるさい爺様と私を嫌っているだろうな、と思っている。ここで私は、自身が優れた技術者であると思い上がり、指導的立場で他人の行動を評価、批判しているのではないことだけは断わっておく。ではなぜ私は批判するのか?私の話す自らの苦い経験を種々な場面で活かしてほしい、そして日本の技術者が少しでも良くなればとの強い思いからだ。私は、インフラに関係する技術者、管理者に向かってお聞きしたい。何で毎月のように、技術者不要論が本流となるような不祥事ばかり起こるのか?日本には。何時になったら、この負の連鎖を断ち切ることができるのでしょうか?
私なりに考える不祥事発生の原因は、今の社会が人としての優しさ、温かみが何時しか薄れ、技術者が持っている暗黙知を軽んずるようになったからではないのか。確かに、叩き上げの技術者数は右肩下がりだ。ベテラン技術者の暗黙知を学び、身に着けるのは至難の業、であるから社会は、暗黙知を形式知としてデータ化すればよいと考える。技術や暗黙知に関連するビッグデータと、それを分析・処理する人工知能(AI)さえあればオールマイティ。しかし、技術力や技術者不足に関して、今まで何度も多くの人が取り組んできて出来なかったのに、そんな簡単に人工知能の登場で片付くのか。自分の周りを見渡すと、メリハリがあり厳しさを持つ理想的な技術者人生を送る人は激減し、先の人工知能や機械に頼ろうとする技術者は右肩上がりだ。人とではなく、ディスプレイと日々会話し、人間味が感じられない機械人間のような現代技術者に、将来を任せて大丈夫なのかと私は疑問視している。
暗黙知、人が持つ本来の勘が無くなることとはどんなことなのかを、私なりにその理由を加えて考えてみた。急速な進歩を遂げている自動車を事例に具体的な場面を想定し、考えてみよう。自動運転技術が搭載された最新の車両を運転していると、人としての勘が薄れ、注意力が散漫になる。例えば、連日テレビ等でPRしている機能満載の車を運転していて、レーンチェンジ(車線変更)を行う。当然、リアルタイムで車両感知システムが周囲の他の車両を捉える。運転者が左右に並走する他の車両を無視し、レーンチェンジのためのハンドル操作を行うと、ブザー音で警告、セフティシステムが強制的にハンドルを戻す。他の場面、自分の前を走行する車をターゲットに設定、自動追従機能システムを稼働させる。すると、ハンドルに手を掛けていれば、前車と一定の距離をおいて快適に走行し、前車が曲がれば同様に曲がり、停車すれば同様に停車する。リスタートは、アクセルを少し踏めば当初の設定条件で再開する。考え方によっては、確かにリスクを回避、安全性重視そして快適な走行を可能とした高度なシステムだ。しかし、最新の自動運転システム搭載車両を運転し続けると、人が生まれながらに持っていた注意力や危険回避能力が日々低下していくことが如実に分かる。連日のようにニュースとなるブレーキとアクセルの踏み間違い、誤ったハンドル操作は、高齢者が悪者になっている。しかし、私は原因の一部に、種々なシステムに漬かったことで起こる人の注意力低下があると思う。
同様なことが、車両やスマートフォン等で使っているナビゲーションシステムにも言える。昔は自分の行ったことのない場所に行く時、地図を見て、北がどちらかを確認、頭の中に必要なエリアがイメージされ、持てる五感を最大限使って何とか目的地に辿りついていた。このような私でも、同様な経験を何度か繰り返すと、降りたことも無い鉄道駅から目的地を目指す時、過去の経験で培われた方向感覚と探索機能が機能し、比較的容易に目的地に辿り着けていた。ところが最近私は、ナビゲーションシステムやスマートフォンに頼るようになったからか、以前の持っていた方向感覚や勘が全く働かず、右往左往する場面が急増した。極端な話、地図を見てもどの方向に行くのが正しいのか全く思い浮かばなくなってきたのだ。しかし私は、昔の自分に戻ることは不可能と考えるようになった。何故なら、ICTツールにどっぷり漬かった頭と身体は、私がいくら命令しても、便利さを知ったために反応してくれないからだ。悲しいことであるが、脳を使わなくてもよいツールを手に入れるとそれに甘えてしまったのか、あれだけ優れていた五感は退化し、機能しない身体だけが残ってしまった。今の社会は、私が実感している脳が正常に機能しない、負のスパイラルにはまり込んでしまったのではないか。これから私が取り上げる不祥事、事故も、人が本来持っていた動物的な勘、優れた探査能力等が失われた結果であるかもしれない。それでは連載の定番となっている直近の不祥事を取り上げて苦言を呈するとしよう。