シリーズ「コンクリート構造物の品質確保物語」㉑
東北地方整備局編最終回 より早くより良い復興道路を造る
横浜国立大学
大学院 都市イノベーション研究院
准教授
細田 暁 氏
インタビューシリーズの第九回目は、仙台河川国道事務所で副所長を務めている遠藤雅司氏に話を聞いた。「新設橋の排水計画の手引き(案)」を皮切りに、東北地方整備局のコンクリート構造物の品質向上につながる各手引き書作りに携わっていった遠藤氏と細田准教授が対談した。(聴き手:細田暁・横浜国立大学准教授)(編集:井手迫瑞樹)
橋梁の仕様で喧嘩腰の議論も
「新設橋の排水計画の手引き(案)」を作成
細田 東北地方整備局で「コンクリート構造物の品質確保の手引き(案)」をはじめ、さまざまな手引き類の作成にこれまで携わってこられました。仙台での大規模な講習会の開催などでも苦労をされたと思いますが、東北地整の取組みはうまくいったのでないかと思いますがどうお考えですか。
遠藤 コンクリート構造物の品質確保の取組みに携わるきっかけになったのは、佐藤和徳さん(前・南三陸国道事務所長)です。佐藤さんと最初に会ったのは30年近く前の私が20代後半のころで、佐藤さんが道路計画第一課係長、私は道路工事課構造係で橋梁を担当していました。計画担当と工事担当なので付き合いはそれほどありませんでしたが、佐藤さんは土研の橋梁研究室も経験していたので橋梁のことに詳しくて、ある飲み会のときに橋梁の仕様のことで喧嘩腰の議論になってしまいました。佐藤さんは局の係長、私は係員の若造でしたが、プライドを持って仕事をしていましたので。
喧嘩腰の議論のあとしばらくは、お互いに口を聞きませんでした(苦笑)が、平成13年の省庁再編で地方建設局から地方整備局となったときに新設された建政部で一緒に仕事をして、私が困った時に佐藤さんがさまざまなフォローをしていただきました。実質的にはそこからの付き合いです。
佐藤さんが東北技術事務所副所長の時に橋梁点検を通じて様々な劣化を見られ、その後、道路工事課長になられた際、私も東北技術事務所で橋梁点検を行っていました。その時、佐藤さんに言われてつくった手引きが、「新設橋の排水計画の手引き(案)」です。これが最初の手引きで、24年に出しました。26年にはバージョン2を作成しています。
東北地方整備局公開資料 「新設橋の排水計画の手引き(案)」から一部抜粋
同局が抱える橋梁排水上の課題について適切に抽出し、対応を求めている
細田 東北地整における一連の取組みの最初だったわけですね。
遠藤 橋梁点検で判明した不具合を直すときに、まずは水回りをしっかりしないといけないということから始まりました。
細田 新設橋の排水計画の手引き(案)は、自分たちだけで作成したのですか?
遠藤 先生方も入っていたような気がしますが、ほとんど自分たちで作成したと思います。例えば、排水管は鋼管では腐食するので塩ビ管を使用することや、塗装の必要な箇所の選定など、当時の身の丈にあったものにしました。
排水上の不具合からなる劣化の実態(東北地方整備局提供、以下注釈なきは同)
水じまい適正化の事例/PC橋における架け違い部の処理事例
技術事務所に2年いた後、26年4月に本局の道路工事課に異動になりました。佐藤さんは入れ違いで南三陸国道事務所長になられています。このとき、すでに品質確保の試行工事を行っていて、試験結果や知見を手引きに入れるための作業をしていました。
東北地方整備局全体が取組みに理解示す
「ひび割れ抑制のための参考資料(案)」作成にも携わる
細田 佐藤さんの後任である今野敬二道路工事課長も取組みに理解がありましたね。
遠藤 今野課長は1年でしたが、私たちが行っていることに理解を示してくれました。道路工事課長をはじめ、道路部幹部の方々ひいては整備局全体が、取組みを認めてくれたことが大きいです。
劣化の実態(不具合のある表層品質)
劣化の実態(施工由来のひび割れ)
作成に関わった2つ目の手引きとなる「コンクリート構造物の品質確保の手引き(案)(橋脚、橋台、函渠、擁壁編)」は、平成25年度より試行してきた「施工状況把握チェックシート」と「表層目視評価」による品質確保の取組みについて、今後担当者や監督官が変わったとしても手引きを見ればやり方がすべてわかる、という信念のもとにまとめさせてもらいました。その後、細田先生のご尽力で「コンクリート構造物の品質確保の手引き(案)(トンネル覆工コンクリート編)」を作成しましたが、私は携わっていません。29年2月には「ひび割れ抑制のための参考資料(案)」を出しました。
細田 「ひび割れ抑制のための参考資料(案)」は試作版が28年4月ごろにでき上がっていました。佐藤さんは試作版でほぼ完成と考えていましたが、私としてはひび割れは難しい問題なので、もう少し検討したほうがいいと言いました。土木学会の28年度の重点研究課題として、「コンクリート構造物の品質・耐久性確保マネジメント研究小委員会」(通称229委員会)が始まり、河野広隆先生(京都大学教授。元(国総研との分割前の)旧土研コンクリート研究室長)などの方々が参加されて、ひび割れ抑制のことをさらに議論しました。
遠藤 橋台、橋脚、函渠でひび割れ抑制の考え方や方法を分けていて、よく考えられた手引きであると思いました。全てにひびを入れてはいけないのではなくて、構造物に応じて入っても良いもの、悪いもの、ひびが入っても目地さえ入れておけば良いなどと、私たち職員にとっても分かりやすくまとまっていると思います。
細田 私も本資料の作成に携わり、ひび割れ問題そのものがよく分かりました。ひび割れ調査の規格値が0.2mmとなる経緯や問題がどこにあるのかも理解できました。ひび割れに対して神経質にならなくていいという考えがある一方で、現在の制約条件の中で現実的な落としどころをつくれたことはよかったと思います。
遠藤 検査をされる方には、コンクリートのひび割れはすべて悪いと思っている方がいます。これからの課題として、手引きや参考資料を使いながら、ひび割れに対しての意識改革を進めていかなければならないと思っています。ただ、私は現在、仙台河川国道事務所に副所長としているわけですから、まずは事務所職員から広げていきたいと考えています。
細田 私たちが携わっている間は学の力も存分に活用してもらいたいと思います。手作りの勉強会もゼネコンさんの現場事務所さえお借りできればできますしね。私も東北でたくさん勉強させてもらったので、ひび割れや品質確保、耐久性確保、上部工に関することなど、話題はいくらでもあります。