-分かっていますか?何が問題なのか- ㉘遊具が壊れ子供が落ちた! 管理責任を問われるのか? その2
これでよいのか専門技術者
(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員
髙木 千太郎 氏
はじめに
前回は、私個人に関係する事故を含めていささか感傷的ともいわれそうな表現と対応、特に交通事故による被害を最小限とする安全対策について個人的な要望も含めて述べた。また、管理者が住民の要望を聞いて、試行錯誤しながら取り組んでいる道路橋に取りつく斜路付き階段を取り上げ、多くの方が関心のない自転車利用者の走行を制限する安全対策、悪名高き「いじわるバー」を紹介した。しかし、十分に配慮して製作・設置したにもかかわらず不測の事態とは起こるものだ。私もここにあげたような事例を数多く経験している。その中の一つ、河川護岸に造ったコンクリート製の階段に関して利用者からの苦情が多かったことから、利便性を向上させ、同時に予測される自転車に関連する事故を防ぐような構造にしたにも関わらず、死亡事故までに至ってしまった事案について反省を込めて紹介した。今でも同様な構造を目にすると思い出す、もう少し利用者の、特に若者のマナーが良ければあの事故は起こらなかったと。次に、住民や利用者の安全という同様な切り口で、私が全く関係していない公園の施設、それも最も安全を重視しているはずの公園遊具に起こった事故について、私に事故原因調査とその後の対応について相談にきたさわり部分を紹介した。今回は、前号に引き続き、いよいよ本題となる事故を起こしてしまった遊具の事故原因調査とその顛末について具体的にお話しすることとしよう。
ここで種々な社会基盤施設に関係する技術者として肝に命じなければならないのは、十分安全と思っていた施設にも隠れた危険性が数多く潜んでいることである。特に、他で使っていて事故が起こっていないからという理由だけでは十分なリスク管理とは言えない。遊具の点検・診断は、子供が使うことが多いので通常考えられないような使い方、例えば、成人よりもかなり体が柔らかく、狭隘な箇所にも入り込む、遊具に触る指や肌は薄く、少しの凹凸やバリでも怪我をするなども考えて行うことが必要なのだが。そして、不幸にも事故が起こってしまった時には、材料や構造に詳しい専門家の協力を仰いで事故原因調査をあらゆる角度から行い、再発防止策を講じ、他の管理者にそれを公開することが重要なのだ。しかし、これまた難しい。その理由は、行政組織の多くが隠蔽体質そのもので、公開、公開とは数多く口にするが、実際自分に関係している施設に事故が起こった時には守秘義務を逆手にとって、事実を隠蔽しようとする体質には困ったものである。隠蔽している事実が内部告発等で公になった時の長く苦しい対応を考えれば、早期に公開し、対応策を本格的にとれば多くの同様な事故を防ぐことが可能にと思っているのは私だけなのか?私の愚痴はこれくらいにして、いよいよ本題に移るとしよう。
1.事故を起こした遊具について何を調査するのか
子供が使う遊具は、遊園地やリゾート地の機械式遊具を除いて比較的簡易な構造となっている物が多いし、直接肌に触れることから素材や形状にはある工夫がなされている。それは、想定を超えた動きに対する安全性、柔らかな肌で触ることから表面のざらつきやささくれの回避、角張った形状、指や頭が入りにくい形状など、その工夫をあげたら切りがない。種々な使用状況を考えて設置されている中で、子供から人気の遊具は、写真‐1のような吊り手にぶら下がる遊具や空中を浮遊するブランコ、あちらこちらに行けるジャングルジムなど三次元的な遊具が多い。今回事故を起こした遊具も同様で、柱間に割り渡したロープに滑車を介して子供が乗った吊り篭がぶら下がり、柱間の空中を往復する大人にも人気のある遊具であった(写真‐2参照)。
事故は、吊り篭が往復するロープを固定する写真‐3の取付金具がそれを支える横梁角形鋼管から外れたため、吊り篭が水面に一気に落下したのだ。写真‐4は、破断しなかった逆側のロープ取付部だが、抜け出したロープ取付金具とは詳細構造は異なるが、溶接方法は同様であった。写真‐3に示すまるで囲んだ金具底板が取りついていた先が写真‐5であるが、ご覧いただければお分かりのように引きちぎれるように破壊したと思える。吊り篭遊具に乗って楽しく遊んでいた3人の子供は、張っていたロープの取付金具が一気に破壊したことで、大きく緩み、吊り篭ごと水面に落下したのだ。水面に遊具ごと落下した子供達は自分たちが予測もしていない水面に落ちたことに驚き、溺れることがなかったので良かったが、最悪死亡事故になる可能性は高く、一部傷害事故で済んだことは不幸中の幸いであった。当然、子供達の親は怒って当たり前、管理者を訴えるとの行為は当然である。しかし、遊具を管理する管理者として、多種多様な社会基盤施設を管理する技術者として、事故原因を究明することは当然の義務である。それを放棄することは、同様な事故が起こり、人の命を奪う悲惨な結果を生むことになるからだ。例え、裏に組織防衛や事実を捻じ曲げようとの趣旨があったとしても、事故原因の究明は技術者の使命と言える。
さて、事故を起こした遊具の調査は、前号で話した経過を経て、なぜ鋼横梁から取り付け金具が外れたのかを橋梁構造や鋼構造の知見と経験を活かして種々な面から調査することとした。調査は、なぜ取付金具が鋼横梁から外れたかが焦点となり、鋼材破壊部の照査調査から始めた。調査は、鋼横梁から抜け出るように(引きちぎられたような外観)破断した形態を調査することを目的として、破断面のマクロ観察とSEM(走査電子顕微鏡)観察を行った。次に、遊具に使われている鋼材が不良素材である可能性も考え、品質、使用材料の強度について調査し、得られたデータを使って事故を起こした遊具をモデル化し、荷重が作用した時、関係する部材のどの程度の応力が発生するかを推定し、事故原因について検証することとした。最後に、上記で想定したモデル化が実態と差異が無いかを、現地再現実験を行い、計算上の応力分布と問題の遊具取付金具近傍の応力分布を比較し、破断原因を明らかにすることとした。以上が、遊具事故を受けて事故原因究明と破壊形態予測を目的に行う調査の概要である。