シリーズ「コンクリート構造物の品質確保物語」⑳
福島河川国道編②「ひと現場ひと工夫(気づき)」を大事に
横浜国立大学
大学院 都市イノベーション研究院
准教授
細田 暁 氏
昭和61年の塩分総量規制前には
養生で塩化物系の促進剤を使用
――土木学会の道路橋床版シンポジウムで、当時の地方整備局の佐々木一夫道路保全企画官とその部下の方が連名で、川砂を使用したのに床版が早期に損傷してしまったことを発表していました。その理由は、上流や中流の山砂に近い、川の水で洗い切れていない砂を骨材に使ったことで、使用して行くうちにどんどん分離をして損傷を引き起こしたのではないか、ということでした。その他にもさまざまな事例があったのですが、そのような問題をいま、活かされようとしているのですね。
小山田 これまでの知見を最大限生かしながら実践しています。
――さらに床版で言いますと、先ほどの34年くらいで架け替えになった橋は、防水工を平成3年から本格的に始めたということなので、おそらく防水工をしていないときから水が供給されていたのではないでしょうか。きちんと下地をきれいにして防水工をしていれば問題ありませんが、下地が不陸な状態ですると、すぐにシートに穴が空いてしまいます。そこも桑折高架橋で生かしてほしいと思います。小山田さんは、不陸の状態で床版防水をそのまま打ってしまったケースなど、これまでさまざまな課題をみていると思います。重要になる床版の仕上げで、これまでの研究をどう生かしていくのかを教えていただけますでしょうか。
小山田 中流域の細骨材では、洗いきれていないものがあるというのは確かにそうですし、その当時は早期の強度発現に養生で塩化物系の促進剤を使用するケースがありました。そのため、一概に洗いきれていない海砂だけというわけではありません。
私は東北技術事務所に在籍した時に、コンクリート試験室の岡崎さん(スペシャリスト)と意見交換をさせてもらい、とても勉強になりました。これからも技術事務所とうまく連携しながらコンクリートの品質確保に努め、施工時の初期欠陥を減らしていきたいと考えています。
PC中空床版は構造体としては理にかなったもの
リスク部分を施工でカバーする
――PC中空床版の話も出ていましたが、ボイドが浮くという損傷状況があるみたいですね。
小山田 NEXCOは平成10年頃から使用していないようです。現在使用しているのは、国交省や自治体でしょうか。
――ボイドが浮く理由を全国で調査、研究しているみたいですが、実際に桑折高架橋はじめ福島河川国道でつくっているもので、中空床版橋はあるのでしょうか。もしあった場合、既往の研究を参考に失敗を生かして、新しい成功に導くためにやっていることがあれば教えてください。
小山田 コンクリート打設に伴うボイド管の浮き上がり対策は、各現場の施工計画に具体的に示されています。具体的な仕様等は決まっていません。ボイド管付近のコンクリート打設は、管の両側から交互に打設する計画と管本体の浮き上がり防止対策が一般的です。
PC中空床版は緊張力を入れやすい構造特性を有していることから理にかなっています。その構造特性を生かしつつ、施工に伴うリスクの部分をどう減らしていくかという話になります。現場で監督する人の工夫があれば、十分対応できると考えています。またその当時、不具合が生じた事柄を若い職員にうまく伝えていかなければならないと思っています。
現在の橋面舗装は8cmが基本です。しかし既存の橋面舗装では5cmしか舗装厚が無いところがあります。既設橋梁の舗装修繕に路面切削機を使用することから、RC床版の上面の一部を削り込むことになり、微細なマイクロクラックが生じています。
その状態で防水工を施しても、将来に渡り十分な付着性を有するか疑問が残ります。施工に伴う制約条件や既設橋梁の耐荷力もあることから、RC床版の上面かぶり厚を減らさない対策が望まれます。
――NEXCOさんはその辺はウォータージェットではつり、ショットブラストで脆弱部をたたいて、除去することをやっています。
小山田 東北地方整備局では、コスト面や規制の関係から全面展開していません。
――エポキシ樹脂系接着剤を用いて増厚する事例は国交省さんでもかなり出ていますよね。
小山田 既存RC床版のコンクリート物性と新たに増厚したコンクリートの物性が異なる(静弾性係数)と、たわみ量等の違いにより再損傷する可能性があります。
RC床版はもともと交換部材という認識があり、平成5年の大型車25トン対応にあわせて多くの床版打ち替えをしてきました。概ね30年程度で床版を交換するという実態がこれまではありました。
橋面舗装ではスパイクタイヤが禁止されてから、耐流動性に優れる比較的硬い改質樹脂を使用してきましたが、RC床版はたわみが生じることからアスファルト合材の経年劣化により横断方向の端部やセンター付近の目地部分から水が入りやすくなっています。
特に橋面舗装が1層の場合は、さらにそのリスクが高まります。約30年前から2層の橋面舗装になっていますが、それ以前に竣工した橋梁は1層の舗装構成となるので、床版の損傷進行が著しい傾向にあります。
「ひと現場ひと工夫」をつなげていく
失敗をうまく学ばない点を改善すべき
細田 コンクリートの品質確保の取組みは盛り上がってきましたけど、一過性のものであってはならないと思っています。どうすれば持続できるか、小山田さんのお考えを聞かせてください。
小山田 私も行政の場に約30年間在籍していますが、2~3年程度で転勤があるので一過性になりがちです。私たちの悪いところは、「失敗をうまく学べていない」ことだと考えています。先ほど述べた仙岩道路の橋梁が34年で架け替えになっていまが、損傷が顕在化してから事後保全対策を一生懸命実施しています。これまでに原因等を調査した結果を踏まえ、どのような仕様で新設構造物を造るべきであったのか、または、供用条件を基にどのような維持管理すべきであったのかを十分に議論し、後輩の方に伝えていかなければならないと考えています。
また、これまで経験した失敗事例を学んで、その背景をしっかりと把握していくことで、一過性にしないことが重要です。
そのためには仕様規定の発注工事においても、許容される範囲なかで技術者として工夫ができる余地を考え、試しながらものを造ることで、一人ひとりの意識高揚と持続性に繋がると思います。
「ひと現場ひと工夫(気づき)」を大事にしながら現場でできることを実践し、それを後輩つなげていく。その積重ねがインハウスエンジニア(行政)に求められているとことだと思います。
私は研修の講師をする機会がある場合に、若い職員たちに常に話をしていることがあります。
それは、「自分が仕事等で躓いたときに、ものを聞ける人を常に3人つくる努力をする。そして、3人のなかの本命の人には最後に話を聞く。そのためには、自分も勉強してから相手に質問することが大事で、その真剣さが伝われば相手も勉強して返答してくれる。それを繰り返して、本命の人に聞く努力をすることが自分自身のステップアップにつながる。」
近年、若手技術者の技術力が伸びないという話を聞きます。最近は、ネットで1回検索すると簡単に答えにたどり着けることから、自分で本を読んで調べたりすることがなかなかないことも影響していると思います。
たとえば、ネットでも1回検索をして上手くヒットしないとあきらめる人と、2回3回と検索をする人では、数年後の技術力に大きな差が生じている、とある人が言っていました。それは物事に対して向かっていく姿勢だと思います。土木は経験に裏付けられる部分が大きいと思いますので、それを安易にスマートにいくというのはなかなか難しいです。
細田 私も学生になるべくそういう指導を心がけています。大学を出た後でも、考え方をきちんと身に着けていれば、努力を継続していきます。そして、「失敗をしろ、失敗を失敗だと思うな」と。成功した結果を得ても、実は何も考えることがなく、逆に仮説と違った結果が出た時に一緒に考えることが必要だと、学生に言っています。先生に成功した結果を報告しなければならないと思い込んでいると、伸びることはないです。失敗の数だけ成長すると思えばよい。そういうことを日本全体が共有していくと、いい世の中になるのではないかと思います。
小山田 土木関係の技能労働者もあと10年で3分の1が減少するといわれていますし、コンクリートの生産性も30年前と変わっていません。なかなか明るい話題がないご時勢だからこそ、技術者としての意識を持ちICTを活用しながら、最先端ではなくても基礎の部分をしっかり習得しながらもの造りに携わっていきたいと考えています。
――ありがとうございました
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