シリーズ「コンクリート構造物の品質確保物語」⑳
福島河川国道編②「ひと現場ひと工夫(気づき)」を大事に
横浜国立大学
大学院 都市イノベーション研究院
准教授
細田 暁 氏
防水工は完璧ではない
凍結抑制剤対策が必要に
細田 飛来塩分が想定される個所は、かなりの割合でエポキシ樹脂塗装鉄筋を使用していますが、それは基本となっているのでしょうか。
小山田 日本海側の塩害橋梁は、エポキシ樹脂塗装鉄筋仕様としています。
細田 気仙沼港の復興道路の橋脚もエポキシ樹脂塗装鉄筋だと聞きました。塩害に対しては気を配っているのに、コンクリートにより深刻な影響を与える凍結抑制剤には意識がないように思えますが、これから変わっていくのでしょうか。
小山田 凍結抑制剤散布に伴う塩害は、近年、問題意識が高まってきました。私が東北技術事務所に在籍した当時に路線毎の散布量を取りまとめ、日本大学の子田康弘先生と共同で冬期の平均外気温と路線毎の散布量を重ね合わせた「東北管内のマップ」を作成しました。
東北管内の年間平均散布量は1kmあたり約10トンを撒いています。特に、峠部付近では約30トン以上となっています。冬期の気象環境や供用条件がさらに厳しいところでは、局所的に散布量が多くなっていることから、構造物への配慮が必要だと思っています。その中で一番衝撃的だったのは、盛岡市と秋田市を結ぶ仙岩道路(国道46号)において、僅か34年でPC橋梁の架け替えという事態が生じたことです。
細田 橋梁が完成してからは34年ですが、本格的に塩を撒き始めてからの期間はもっと短いですよね。
小山田 管内では床版防水工を取り入れた時期が平成3年以降ですので、当該橋梁は供用後15年以上経ってから防水工を施工したことになります。当時に供用した橋面舗装厚さは5cmでしたので、シート防水などができなかったケースもあります。さらに、大型自動車のスパイクタイヤ使用規制が平成5年から実施されたこともあり、峠部を有する当該区間では多くの散布量となりました。
また、私たち職員の意識も甘く、PCコンクリートは密実なので内部に水を通すことはないだろうと思っていました。現実にはPC中空プレテン桁の箱の中に塩分を含む水がたまっていました。これをきっかけに東北技術事務所では、コンクリート構造物に内在する塩化物イオン量に着目し始めたのはこのような衝撃的な事象が起きたここ10年程度です。橋梁点検において漏水痕のある箇所をコア抜きし、さまざまな調査やデータを取り、私たちの知見だけでなく産官学で共有しながら、新たな知見も盛り込みながら「PC桁の高耐久性仕様」などにつなげてきました。
細田 東北地区の中で、エポキシ樹脂塗装鉄筋が使用部位で標準になっているところはあるのでしょうか。
小山田 PC橋梁では塩害を含む耐久性を確保するために、ジョイント付近の部位(主桁・床版端部)にはエポキシ樹脂塗装鉄筋を使うことになっています。また、日本海側の塩害橋梁では全てをエポキシ樹脂塗装鉄筋仕様としています。
特にRC床版は部材厚が薄く、大型車両の通行や厳しい環境条件の影響を受けやすいです。また、床版防水工を施工し始めた当時は、十分に効果があるものだと考えていました。しかし、十分な防水性能を発揮できずに床版損傷が起きているケースも散見されましたので、100%に信頼できるものとは考えていません。
防水工の施工時においてもリスクはあります。その当時、橋面舗装の修繕時に路面切削が伴うことから、シート防水は接着性能に劣るので塗膜防水を主流としていました。しかし、アスファルト合材を舗設する際にダンプトラックによる塗膜防水の損傷事例やアスファルトフィニッシャ舗設時の骨材を押し込みによるシート防水の損傷事例などが確認されていました。
その一方で、床版端部付近の路面排水桝では滞水しやすく、床版下面には遊離石灰や漏水が確認されています。
冬期交通の確保においては、塩化物系の凍結抑制剤散布が不可欠であることから、排水処理の対策をしっかりやっていく必要があると考えています。また、耐凍害性を考慮し良質の空気量をどのように確保するのかも考えなければなりません。
さらに、アルカリ骨材反応は一部のエリアに限定されるという意識がありましたが、RC床版を調査したところ、細骨材に軽微なアルカリ骨材反応を確認しました。
東北管内のRC床版では、凍害や塩害、アルカリ骨材反応などの複数の劣化因子が影響して複合劣化を起こしています。複合劣化が生じている部材は主に床版や桁端部に集中しています。
特にアルカリ骨材反応では、アルカリ総量規制後に造られた橋梁(鉄道橋)でも損傷が確認され、経過観察しながら苦労して維持管理をしています。私たち道路管理者もアルカリ総量が3.0kg/m3以下だったら問題なしという認識を改める必要があると思います。
桑折高架橋のRC床版には高炉セメントの使用を検討
橋面の仕上げにこだわる
細田 桑折高架橋の上部工はRC床版になるとお聞きしましたが、できるかできないかは別にして、小山田さんとしてはどのくらいチャレンジしていこうと思っていますか。
小山田 日本大学の岩城一郎先生がRC床版の耐久性を含め検討していますので、標準設計とその知見を合わせて実施したいと考えています。
また、橋面の仕上げも耐久性に大きく影響することから、床版防水工とともにこだわりたいと考えています。
橋面表層は、機能性砕石マスチックアスファルト合材の使用を予定しています。機能性砕石マスチック舗装は、十分に締め固めると水密性が高くなる一方、地覆付近の締め固め密度が車道部と比較すると約3%低下することが、昨年の施工状況把握でわかりました。横断勾配の低い側の地覆付近では、橋面水が集まりやすく床版に水が入りやすくなることから、その弱点をどこまで解消できるか現場でいろいろと試行しています。たとえば、基層上面の端部に接着性の高い乳剤を散布することや、基層合材に水密性の高い改質Ⅲ型-W(たわみに対する追従性もある材料)を試行することで、施工性や仕上がり状況を確認しました。
床版防水はシート防水を基本に考えていますが、橋面水が集まる端部とその立ち上がりの30cm部分や排水桝付近には、シート防水の下面に塗付系の防水を局部的に試行しています。
桑折高架橋はJR東北新幹線や東北本線も跨ぐ。床版の高耐久化は必須だ
細田 それは現場のなかでやっているのですか。
小山田 東北中央道や相馬福島道路の一部の現場で試行的に行っています。また、試行結果を取りまとめて、桑折高架橋の設計仕様をつくりたいと考えています。
細田 床版のコンクリートはどのようにするのですか。
小山田 南三陸国道事務所のRC床版で試行している高炉セメントを使用したいと考えています。フライアッシュを混入したコンクリートはスランプ量のばらつきが大きいことや供給体制の観点から、当該地区では採用が難しいと考えています。
昨年度までは、霊山道路のトンネル覆工に生コンクリートの供給が逼迫していましたが、現在は比較的に落ち着いているようです。今後、桑折高架橋を含む霊山IC~福島北JCT間(12.2km)では300~400m規模のトンネルが4本あり、それらの進捗状況を含めてプラントと調整を図りたいと考えています。
細田 トンネルはもう掘削しているのですか。
小山田 まだです。事業化したのが25年で用地買収を開始してから約2年です。