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-分かっていますか?何が問題なのか- ㉖補強工事を決定! しかしどこに変状があるの?

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員

髙木 千太郎

公開日:2017.06.01

2)定期点検結果によって決定された補強事業
 さて今回の話題、本題に移るとしよう。計画事業でさえ、惨憺たる結果を話すのであるから、二番目にあげる補強事業、変状が定期点検等で確認された場合の対策にも同様な話だろうとの多くの読者の推測、正しい。本来であれば、確認された変状をターゲットにした対策は誰が考えても適切に行われていると考えるのが普通であろう。しかし、これから話すように現実は違っていた。阪神淡路大震災を受けた耐震補強、緊急交通路一次路線の対策がほぼ終わりかけた時、次年度橋梁整備費の予算要求において、先述の耐震及び耐荷補強に加えて、定期点検の重大な変状報告から補強を決定したA橋の案件を加えて資料づくりが始まった。今回の主題となるA橋の概要は以下である。

①A橋の概要
 補強対象となったA橋の構造形式は、高度経済成長期に数多く提案された主径間が鋼床版3径間ゲルバー式I桁橋、側径間が鉄筋コンクリート床版単純活荷重合成I桁橋である(図‐2参照)。ここで、過去から現在まで橋梁設計に関する知識があり、当時の設計・施工状況に詳しい方は違和感を感じるはずなのだが。その理由は、3径間の橋梁にある。A橋は、1966年(昭和41年)7月の東京オリンピック終了後に建設され、12時間交通量が4万台を超える主要環状線の跨道橋として使われてきた経緯がある。昭和41年建設となると、適用基準は1964年(昭和39年)5月『溶接鋼道路橋示方書』、同年6月『鋼道路橋設計製作示方書』若しくは、1965年(昭和40年)『鋼道路橋合成桁設計施工指針』となる。ここまで当時の基準について示す理由を勘の良い方は既にお分かりと思う。当時、3径間ゲルバー構造の形式選定を行うのであれば、鋼床版を採用することは考えにくい。A橋も当社設計では鉄筋コンクリート床版であり、経済性を限りなく追求した道路橋なのだ。それも鉄筋の許容応力度を従来のσsa=1300㎏/㎠から、σsa=1400㎏/㎠(SR24)、σsa=1600㎏/㎠(SR30)、σsa=1800㎏/㎠(SD30)に高くしたことから、床版を可能な限り薄くできる設計思想が王道の時代である。12時間4万台を超える交通量、それも首都高速や幹線道路網が不足していた時代、当然耐力の不足する、たわみ易く薄い鉄筋コンクリート床版は傷む。A橋も御多分に漏れず、自動車の大型化と大量な交通量に鉄筋コンクリート床版が耐えられず亀甲状にひび割れが入ったことから、床版補強を諦め、主径間は死荷重軽減をも考慮して鋼床版に、側径間は当時の基準に適するコンクリート系床版に打ち換えている。私がA橋の変状報告、補強提案を最初に聞いた時、何の疑いも無くフリーパスとしたことが後に大きな後悔に繋がる。

②報告を受けたA橋の変状
 ルーチン化した定期点検において、主径間主桁のゲルバー部垂直補剛材に変形と隙間(写真‐1参照)、側径間の単純桁・主桁上フランジと垂直補剛材とのすみ肉溶接部に錆汁を伴う塗膜われ(写真‐2参照)を確認したととの報告書が提出された。また、側径間の鉄筋コンクリート床版(t=110mm)においては、遊離石灰を伴う二方向ひび割れが発生していることも確認された。

 この定期点検結果を受け現場サイドでは、主要幹線であること、ゲルバー部の伸縮装置部が発生源と考えられる道路交通振動等の発生から地元から改善要望が頻繁に寄せられていたことなどを勘案し、対策実施の要望が出された。定期点検は、委託業者が行い、確認作業を行政側が行うのはこれまで読まれていた方々はお分かりのことと思う。報告を受けてA橋の詳細設計実施を指示し、翌年現地詳細調査を含めた委託設計が出された。側径間の塗膜われを確認した部分については、疲労亀裂発生を確認するために塗膜を除去し浸透探傷試験を行った結果、疲労亀裂が確認された(写真-3参照)。本来であれば、亀裂の規模や先端確認の目的で超音波探傷試験や磁粉探傷試験を行うのが常識であるにも関わらず、ここでも調査内容や調査方法を確認しないでことが進んだ。確かに主要幹線道路に架かる重要な橋梁、交通量も多い、地元からの騒音や振動に対する苦情も頻繁にある、何らかの対策が必要なことは誰にでも分かるが、何時、どのように行うかが先行した。

2.A橋の変状原因推定と見直さざるを得ない補強内容

 最も重大な変状と判断されたのはゲルバー構造主桁の変形、座屈現象が既存桁、それも補剛材に発生したことである。既存の道路橋においては、桁端部や支承付近の部材が変形する事例は多々ある。支承が作動しなかったり、下部構造が側方移動や不同沈下すると関連部材に大きな力が作用し、最終的に変形することになる。今回は、主桁、それも鉄筋コンクリート床版から鋼床版に交換する際に追加した部材が変形したとのことであった。その原因は、①12時間交通量が4万台を超える、②供用年数40年以上による経年劣化、③通行車両の大型化の三つをあげた。次に、側径間の疲労亀裂は、亀裂発生した箇所が輪荷重載荷位置であるため、主桁の相対たわみ差や床版の変形によって上フランジが首を振ることが主因との報告がなされた。さらに、亀裂発生箇所が主桁中央付近であることから、支点部と比較して主桁の相対たわみ量が大きいことや亀裂発生部分のすみ肉溶接部の脚長不足も関係しているとも付け加えられた。

 

 次に、A橋をどのような対策をどのように行うかが問題となった。主径間部分は、部材の変形を重要視し、鋼床版3径間ゲルバー式I桁橋を鋼床版3径間連続I桁橋とし、側径間は、単純桁構造のまま、疲労亀裂箇所の補修と床版を鋼床版とする案で対策計画が進められた。

 ここらあたりから私は、担当者が提案する内容に疑義を抱くようになってきた。その理由の第一は、中央径間、ゲルバー構造の桁高の低い桁が荷重等によってなぜ変形したかである。死荷重を軽減する目的で鋼床版への変更は多々ある。しかし、既存の主桁にブロック形式の鋼床版を添接する目的の桁、桁高が異常に低い構造が変形するとは考えにくい。ゲルバー部の桁が変形、異常だ、おかしい。もう一つは、あれほど執着している3径間ゲルバー構造のスパンを3径間連続構造に変更したいと言うわりに、側径間の単純桁構造の変更は床版交換のみで行わないとのこと。中央径間の連続化の理由が、伸縮装置の数を少なくし、桁連続化による耐震性能向上との理由なのだ。側径間は、主径間を挟んで左右に1径間と2径間であるのならば、少なくとも2径間区間は既存桁を連続化しようと考えるのが普通だ。これもおかしい? 

 そこで、計画資料を作成している担当者を呼んで詳細を聞くこととした。「今事業化を進めているA橋について教えてくれる。補強計画に乗せて予算獲得に動いているのだけど、どこの部分が変形しているの? 鋼床版に交換した時に当然現場を確認しているので施工不良が原因となる変形は無いと考えるのが普通だよね。重交通なのかな?両サイドの側径間の桁には異常は無いの?」、担当者曰く「現場からの補修要望箇所ですし、定期点検の結果を基に指摘されている箇所の変状報告書が本庁にも提出されていますが、何か変ですか?」。私が「主桁ならいざ知らず、袴桁のような桁が変形するかね、かなり大きな力が作用しない限り変形することはあり得ないと思うけど」・・・「それから、中央径間の連続化の理由は理解したとして、なぜ、側径間の連続化を行わないの? 単純桁1連区間は止むを得ないとしても、単純2連区間は連続化可能だよね」。担当者は「中央径間は主桁交換、要は上部工の架け替えだからできますが、側径間は鉄筋コンクリート床版から鋼床版への取り換えのみですから無理ですよ・・・」と既存桁の連続化にも抵抗を示す。「しかしね、中央径間が連続化によって、耐震性能を向上させるのであれば、側径間も連続化すべきと考えるのが普通だよ。現在の技術力、施工能力や他団体の事例には数多く似通った事例があるので再検討してよ。工事着手が1年遅れても、事業費が変更となっても、対策後後悔しないためにね」。その後、当然A橋について担当者と管理事務所と追加補強についてやり取りしたことは一部を残して良かった。

 事業化もほぼ決まった、当然私も現場に行く。私はA橋の桁下から双眼鏡で指摘されている変形箇所を覗き込む。しかし見えない、変形箇所が、隙間も本当にあるのか? そこで、「それはそうと、前から疑問に思っている変形部分だけど・・・何度見ても確認できないのだけど」。担当者は「無理ですよ!ゲルバー部分は暗いし、双眼鏡では確認するのは無理です。それよりも現場からの報告を信用しましょうよ」である。何度か担当者や事務所の技術者とやり取りしたが、予算化も進む段階で基本事項の変更はこじれると感じ、変形の話は止めとした。しかし、単純桁連続化については、桁下で調査している時の伸縮装置周辺からの叩き音等から、何とか合意となった。その後A橋の対策計画は変更となり、側径間は既設桁を連続化する案で行われることになった。しかし、この時に変形していると示された箇所について、点検車両を使ってでも再度確認しなかったことに悔いが残る結果となった。最終的に私にとっては“災い転じて福”となる結果となったのだが。

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