道路構造物ジャーナルNET

-分かっていますか?何が問題なのか- ㉖補強工事を決定! しかしどこに変状があるの?

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員

髙木 千太郎

公開日:2017.06.01

はじめに

 前回までPCT桁道路橋に起こった間詰床版抜け落ち事故について、発生時の管理者としての緊急対応、その後に行った室内外の検証実験、そして自分自身に知識が無かったからか、意図した原因究明が遅々として進まなかった当時状況、反省すべきポイントについて4か月の長期に渡って説明した。

 ここで問題なのは、事実を何とか隠蔽しようとする業界の体質、地方自治体の技術職員を軽視する対応に反省を促す気持ちで私の言葉で訴えた。今思えば、私自身にも問題があったとも思える。その理由は、発注者側に立ち、行政を後ろ盾(金看板を背負う)にする強い立場に安住していた自分と原因究明に難色を示した民間技術者に対し、私の本旨を伝えられなかった自らの技術レベルの低さが大きな原因であったかもしれない。前回まで説明した抜け落ち事故発生後約1年が経過した時、プレストレストコンクリート技術協会(現在の公益財団法人プレストレストコンクリート工学会)主催の“プレストレストコンクリートの発展に関するシンポジウム”仙台大会においてPCT桁の抜け落ち事故に関して発表する機会に恵まれた。私の発表する表題は『プレストレストコンクリート橋の特異な損傷と耐久性向上』であったと思う。自分で発表したのであるから表題ぐらいしっかり覚えていろよ!と怒られる方が多数おられると思うが、当時は我を忘れるくらい舞い上がっていたのではっきりとした記憶がない。なんせプレストレストコンクリート関係者ばかり、それも高度専門技術者の方々が全国規模で集まる技術発表会である。私はこのような著名な技術者集団の前で発表するような機会はなく、初体験?であったからかもしれない。発表の内容は実体験に基づいたスライドであるからしっかりしていたはずであるが、発表者が新米であるから聞くに堪えない発表であったと思う。私の発表を聞かれた方は何を話したいのか分からない、発表者が悪いとの評価であったと私は確信している。私がなぜここでこのような恥ずべき事実を公開する理由は、その後私の技術者人生にこの時の貴重な経験が生かされることになったからだ。

 私の『専門技術者への道』提言に耳を傾けてほしい。まず第一には、自らで多くの技術をしっかり学びなおすこと、第二には、公衆の前での発表は用意周到な事前練習と経験が必要で、それらが無ければ聞くに堪えない結果となること、第三には、日々の業務が多忙であったとしても、種々な経験を、それも前向きに積極的に積む必要があることである。私の体験談等を読まれている方々に私からお願いしたことは、自らが率先して行動しなければ、成果は自分のものに決してならないことを自覚していただきたい。失敗を恐れてはいけない。また、これは行政技術者には耳の痛い話かもしれないが、私が常々感じ、自らも気を付けていたことがある。発注者の金看板を背負った上から目線の態度は、本人に優れた技術力が備わっていなければ、立場が変わった途端周囲から排他される惨めな状態となることを一日も早く自覚してもらいたい。私もそうであったからかもしれないが。

 さて、それでは今回の本題、主要環状線道路に架かる道路橋の補強決定過程と疑問の残った事業化決定について話を進めるとしよう。なぜ、ここで補強工事の話をする理由は、今まさに国内では、法制度化した定期点検結果が次々と集計され、その中から補修や補強を行う箇所が数多く積みあがってきていると考えるからだ。その際、請け負い会社から提案された対象橋梁の要対策箇所に本当に変状が存在するのか、存在するとすれば、どのように対策を、どのような優先順位で決めるのか分からない方々に参考になればとの思いで書いている。

ご広告掲載についてはこちら

お問い合わせ
当サイト・弊社に関するお問い合わせ、
また更新メール登録会員のお申し込みも下記フォームよりお願い致します
お問い合わせフォーム