シリーズ「コンクリート構造物の品質確保物語」⑲
福島河川国道編① 南三陸での成功事例を糧に桑折高架橋の施工に挑む
横浜国立大学
大学院 都市イノベーション研究院
准教授
細田 暁 氏
工期短縮と省力化のために
主筋にH鋼を使用
――桑折高架橋の工事は大きなものとなりますが、品質・耐久性の観点からの目標とチャレンジはどのようなものになりますか
佐藤 橋は19径間あります。橋脚が18基で、前後のランプの橋台を含めるとプラス4基となります。その工事がいま、10社(確認中)に分割されて発注されています。
――10社に分かれていると対応も大変そうですね
佐藤 大変ですけど、逆に言えば10種類のことを試せると思っています。膨張材の有無などの基本事項は事務所側で決めますが、南三陸に比べると福島の桑折地区は凍害では条件的にいいところです。また、連続高架なので将来的に水が回ってきそうなところは限定されるので、ジョイント部だけを気をつけておけば最悪の状況にはならないと考えています。
――新幹線を跨ぐ形となります
佐藤 はい。
――私も現場に1回行ったのですが、構造が特殊ですね
佐藤 工期短縮と省力化を図るために、主筋に鉄筋のかわりにH鋼を使います。
――鉄筋があまり入っていない状況で、ひび割れ抑制にもチャレンジされていますよね。中実の橋脚なので、ひび割れの発生原因を内部拘束、外部拘束と完全に分けるのは難しいかもしれないけど、内部拘束的な要因が強いひび割れも抑制しようと、勉強されているんですね
佐藤 主筋を鉄筋のかわりにH鋼にしたことで、縦方向の鉄筋がかなり少なくなります。通常ですと、縦方向のひび割れが一般的には出ますが、今回の場合は横方向に出る可能性があります。
実際の施工で、通常の縦方向に出るひび割れも何箇所か出てしまっています。ひび割れ幅を抑制するために、省力化という大きな目標はありますが、何本かひび割れ抑制鉄筋を足すことを発注者側で検討して、最低限入れることを決め、設計変更しました。さらに、温度応力解析も実施して、最適なひび割れ抑制方法を見出すためのトライアルをしています。
――温度応力解析はどこがやっているのですか
佐藤 地元の小野工業所が受注したP5橋脚では日本大学の岩城一郎教授、子田康弘准教授とお付き合いがあって、子田先生に温度応力解析をお願いしていると聞いています。
ひび割れ抑制対策の先行事例
各施工会社にフィードバック
――東北でのコンクリート構造物品質確保の取り組みでは、みんなで勉強して、方法やシステムで可能性があるものが出てきたら、効果を確認しながら手引きや参考資料をつくっています。それをつくる過程で議論し、適切なメンバーに精査してもらうという流れできていると思います。しかし、まだこれまでに整備した手引き等では補いきれていない課題もたくさんあります。たとえば、内部拘束型の温度ひび割れの対応をどのようにするとか、トンネル覆工コンクリートのひび割れ対応もまだできていなくて、そのようなチャンレンジはまだ続いていきます。この桑折高架橋が内部拘束のひび割れについてもいいモデルケースになると、素晴らしいと思います
佐藤 今のところ、一番先行しているのが、戸田建設さんのP10・P11・P12・P15です。そこで様々な試行をしています。日本大学の岩城教授と子田准教授、東京大学の田中准教授にアドバイザーとして入ってもらい、橋脚の、とくにたて壁部分のひび割れ防止に有効な方策について助言を頂きました。福島の生コンプラント事情を考えると、生コンで対応できることが限られているので、結果的には、膨張材と技術提案のパイプクーリングと、ひび割れ防止追加鉄筋ということになりました。それもリフトごとに追加鉄筋のピッチを150mmピッチ、300mmピッチと変え、膨張材も使用不使用のパターンで、戸田建設さんに先行して試行してもらいました。
その結果、クラックの発生状況や、コンクリート打設時・養生時の外気温、コンクリート内部の温度などの得られた情報を、後続の業者さんに集まってもらって情報共有のためにフィードバックしようとしています。ただ、技術提案の部分については各社さん独自の部分があるので、どこまでオープンにできるかはわかりませんが。
――温度を下げることがポイントになりますね
佐藤 新幹線の線路両脇に立つP13とP14橋脚はJR東日本に工事を委託していますが、下部工にフライアッシュを入れることも検討していると聞いています。
――昨年、桑折の現場で勉強会をしたときにも、JR東日本東北工事事務所の田附伸一さんという私の良く知っている技術者が来ていました。指折りの技術者なので、彼の指導も入っていると思います。やはり目的は温度を下げることですか。
佐藤 そうです。それがうまくいけば、そのあとの後続工事もありますので、参考になります。
――現在の佐藤さんの担当を考えると、激務ですよね。そのなかで品質や耐久性を求めている。どのように仕事を回しているのでしょうか。たとえば、現場に行かないとできないこともあると思うのですが、物理的にそのような時間が取れているのでしょうか
佐藤 現場での打込みのときは、私は立ち会いに5割くらいしか行けていません。ただ、たて壁の最初の打込みには可能な限り立ち会い、施工状況の把握をきちんとするようにしています。そのときに現場技術員やPPPの職員を一緒に連れていって、情報やノウハウを共有しています。
――脱型した後の目視評価も一緒に行くのですか
佐藤 はい。目視評価は時間を調整することができますので、できるだけ行くようにしています。
――品質や耐久性に対する意識は、福島河川国道事務所ではかなり浸透しているのですか
佐藤 他の現場は良くわかりません。私は、福島河川国道事務所の信夫山国道出張所に籍があって、同じ主任監督員の出張所長とのやり取りはありますが、それ以外の現場とはほとんどありません。その辺は小山田課長がフォローしていると思います。
――福島河川国道事務所には、佐藤さんのように現場を持っている監督官は何人いるのでしょうか
佐藤 二人です。主任監督員は3人で、ひとりが出張所長、私も含めて2名が建設監督官です。もう一人は、山形との県境にある国道13号(東北中央自動車道延伸)の現場を担当しているので、ほとんど行くことも会うこともありません。