道路構造物ジャーナルNET

シリーズ「コンクリート構造物の品質確保物語」⑱

南三陸国道で行われる受発注者の協働思考 「義務感」と「責任感」

横浜国立大学
大学院 都市イノベーション研究院
准教授 

細田 暁

公開日:2017.05.08

技術提案における目指すべき品質の議論がきちんとできていない
 VEを間違って理解している日本人

 細田 技術提案というのは大事なポイントなので、私が理解したことを簡単に述べます。
 山口県のひび割れ抑制システムというのがあったのですが、彼らは結局ひび割れを技術提案の対象としないことにしました。
 技術提案とは何かというと、つまりは施工者の持ち出しで頑張ってくださいということですよね。しかし、ひび割れ抑制というのはそういうことではなく、きちんと発注者が求める性能を提示して必要なお金も支出して取り組むものであると、山口県は考えました。
 手引きにより目指す品質がこれまでと変わったと先ほど言いましたが、その変わった目標を標準にしていくという考え方が必要です。安易に技術提案に頼ってはいけないと考えています。より高い目標が国交省の標準的なレベルとなれば、当然これまでよりお金が出るようになります。
 契約金額の範囲内で標準的なレベルよりも上を目指すときは、それこそ技術提案になっていくわけですけど、そこの整理がきちんとできていなくて、発注者が目指す品質が必ずしも正しくなくて、それを施工者の技術に頼っている、という構図が色濃く残っています。
 河内 技術提案というのは、NEXCOさんでも地方自治体でもあります。日本人が間違っているのは、VE(バリュー・エンジニアリング)の考え方です。値段が下がって、価値が上がればVEだという方がいるが、明確に違います。基本的に技術提案というのはVEの根幹であるべきです。そうすると、付加価値が上がったときに、受け取る側がそれに対する価値を払わないというのは間違いです。
 国交省さんの内部や地方自治体でも、それを理解している人はいますが、結果として入札制度のなかでは間違った使用方法になりがちになります。覆工の養生と配合については、技術提案に入れるべきではないという人もいますが、私もそれは当然であると思っています。

無筋区間での膨張材の使用は適切か

 細田 トンネルの覆工コンクリートに膨張材を使用するケースがあります。膨張材は鉄筋が適切に入って膨張が拘束されればいいのですけど、無筋区間で適切な効果が得られるか個人的には疑問です。膨張がインバートで拘束されて圧縮応力が入ればいいのですが、拘束のない方向に膨張が逃げて、必ずしも膨張材が有効に効いていないのではないかというイメージを私は持っています。数値解析すると、とても効くと出ますが。
 河内 膨張材うんぬんの前に、コンクリートが固まる過程で、だいたい1ブロック10.5mで5~6mmは縮みます。縦断方向にも縮むし、当然断面方向にも大きく変形します。
 細田 自由収縮であればいいのですけど、そこにセントル(型枠)があって、拘束されていたら応力が発生しますね。
 河内 トンネルにおいて自由な変形はありえないです。山が裏にありますから。山が動かなかったと仮定したら、コンクリートは内側にしか変形できない。
 細田 無筋部分に使用すると拘束の無い逃げやすい方向に膨張する可能性があります。膨張材は正しく使用すれば抜群に効きますが、そうでなければ逆効果になる場合もあると思っています。調査に協力をしてくれる現場があったら、実測をしようと思っています。
 河内 いまの測量機器は優秀だから、0.1mm単位の精度です。5点くらい測ると、コンクリートがどのように変形をしているかがわかります。やはりあそこまで変形するというのは、みなさん知らなかったと思います。


29BL覆工コンクリートの変位計測
(左)計測ミラー位置/(右)トンネル断面内空変位
・A~Dは5つの測点の離れを計測している
・A,Bがマイナス側の値でCが動いていないという事は天端が下がっている
・Dがプラス側からゼロに向けて収束している ⇒ 地山のバネ?
←下半 SL付近の側圧は 肩、天端の1.5~2.0倍(土圧計より)

 細田 小鎚第1トンネルでもさまざまな計測をしていただいたので、有効ヤング係数の議論も行って、トップレベルのジャーナル論文に英語で投稿しました。時計で言うと、10時10分くらいより上の部分には、薄いけれども空気の層があることを仮定しないと、覆工コンクリートの温度がシミュレーションと実測で合いませんでした。

 空気の層といっても、1cm程度です。
 河内 充填時に圧力をかけたから、完全に充填できていますとよく言いますが、そんなことはありません。常識で考えれば、ある程度デコボコした吹付けがあり、そこに空気も水も通しませんという防水シートがあるので、凹凸部の空気はどこにいくのか。絶対に行き場がない。絶対にうっすらと空いているに決まっている、と考えています。
 細田 現場で破れた防水シートを見せてもらったときは、河内さんはすごいな、と改めて思いました。トンネルの覆工コンクリートをつくったあとに壊さざるを得ない状況があった。そして壊したら、その裏にあって将来にわたって防水機能が期待されているシートが出てきましたが、それが穴だらけになっていました。


現場で壊れた防水シート

 ――(編集部)どうしてですか。
 細田 裏に吹付けコンクリートのギザギザした面があり、防水シートが二次覆工コンクリートのものすごい圧力で吹付けコンクリートに押されるからです。
 ――(編集部)それでは止水になっていませんね。
 河内 防水シートが穴だらけになっているのは、よくないと言ったわけです。NEXCOさんの標準仕様と国交省さんの標準仕様は違っていて、NEXCOさんの方が不織布が厚い。鉄道・運輸機構(JRTT)さんの場合、ハイ・イータス工法で防水シートの裏面を平滑させるために、そのようなリスクもだいぶ低減されていると思いますが、やっぱり不織布の厚みは重要です。
 細田 下部だけでも平滑にするのはありかもしれませんね。ひび割れも劇的に減ることになると思います。
 ――(編集部)たしかにNATMでたまに水が漏れているところを見ます。それは初期のころのもので、最近のNATMは大丈夫だ、という人もいますが、いまのお話を聞くとそうでもないのですね。
 細田 天端付近のひび割れはほとんどなくなってきているので、断面の大きさにもよりますが,復興道路の標準的な断面であれば,きちんと施工すればほとんど気にしなくていいと私は思います。アーチ部よりも下の側壁は、シートが破れている可能性もあるので、平滑にするなどの必要はあると思いますが。
 河内 トンネルはどこが動くかというと、頭が落ちるトンネルは在来工法でもNATMでもまずありません。意外に怖いのは、下半といって足付けの部分が一番怖いのです。
 コンクリートもそうだけど、掘削時点で上半をやっているときに鏡がかえって怪我をすることはありますけど、怖いのはとくに大断面の足付けですね。断面が大きいところの足付けで手を抜くと危ないです。すぐに変位します。上半は完全に丸なので、支保さえ入ってしまえば、なんとか耐えられます。しかし、下部はまっすぐにしてしまっているので、一番力がかかります。
 NATMでも扁平になればなるほど、下部が弱くなります。意外と怖いですよ。掘っているときに上半分はいいのですけど、山が脆いときには動くとしたら下部だから、下半部はとくに慎重に作業を行っています。
 細田 ありがとうございました。

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