シリーズ「コンクリート構造物の品質確保物語」⑱
南三陸国道で行われる受発注者の協働思考 「義務感」と「責任感」
横浜国立大学
大学院 都市イノベーション研究院
准教授
細田 暁 氏
ひび割れはゼロにならないという理解が進む
細田 最近つくられているトンネルは、ほとんどひび割れや変状がないところまできています。完全にゼロではなく、いまでも数ブロックに1個くらいはひび割れ以外の変状が出ているようですが、劇的に減ってきています。ただし、いまでも100点ではなく、よりゼロにする努力を行う必要があることを、データ分析からも示していかなくてはいけないと思っています。PDCAです。
河内 マスなコンクリートを打ったら、ひびは間違いなく入ります。現場では基本的に生コンプラントが骨材を決めるので、運が良ければ入りませんが、その影響は必ずあります。
最近になって、ひび割れは仕方がないという話を発注者とできるようになりました。NEXCOさんも国交省さんも同じです。昔は、ひび割れが入ると怒られましたが、最近はありません。追加でいただいた工事でも、誘発目地を入れたり、補強鉄筋を入れたりしますが、それをやらないとひび割れが発生することを理解してくれています。
細田 今回のボックスカルバートの施工での追加鉄筋の費用も出たのですか。
河内 出ています。施工者側にとって、実構造物でひび割れが出ているというデータはイヤなものです。しかし、そのようなデータがオープンにされるようになってきており、仕方がないことであると公に話せるようになっている。昔は、会社ごとに発注先に説明に行き、ひび割れの理由を聞かれて怒られていましたが、実際にデータで明らかにすることによって、100点のコンクリートはほぼないことがわかりました。
細田 実構造物の結果に基づくデータにはかなり迫力がありますよね。
河内 そのような流れができてきたなかで、発注者と施工会社が対等ではないけれど、論じることができることが重要だと考えています。
「手引き」によって目指す品質が明らかに
経験や成果が伝承される
細田 東北での産官学協働のプロジェクトとして「コンクリート構造物の品質確保の手引き(案)」を作成しました。河内さんは、その手引きを作成した覆工コンクリート品質向上委員会の中核人物でもあるわけですけど、委員会活動についての感想や思いを聞かせてもらいますか。
河内 施工業者はいろいろなオプションを持っています。たとえば自分の家を建てるならば自分が監督をして、いい業者でいい生コン打って、完璧にやります。
しかしながら、施工案件には予算と条件があります。そこで、手引きを出すことによって、仕様書にはないけれど、目指す品質を発注者も言えるし、施工側もそのためにはこれだけのコストがかかりますと言えます。
細田 目指す品質や目標自体が変わったわけですね。
河内 それによっておたがいの関係性がスムーズになりますし、目的を達成するために費用が必要であることを説明できます。何もなしに技術提案を行っても説得力はありません。しかし、手引きに書かれている例を示して、それを行いたいと話ができるようになります。そもそも国交省さんが発行している手引きですから。
――(編集部)その意味ではこの手引きがひとつの基準になるわけですよね。
河内 手引きを作成する一番いい成果は、次につながることです。
細田 つながるという意味はいろいろありますが、たとえば九州の復興事業で提案をするときに、何もなしで提案するよりも、東北地方での施工実績で使える要素がたくさんあることを見せる方が説得力は全く異なります。それもひとつのつながりです。
河内 手引きを発信するという方向性がよかったと思っています。
細田 私も勉強になりました。それまで、トンネルのことは何も知らなかったのですが、打込みの作業を何度も見学したし、本当にいいものをつくるノウハウを包み隠さず議論されていた。
――(編集部)手引きについて、よくあそこまでノウハウを出しまたね、と私も(本サイトを読んだ)ある人から言われました。
細田 ノウハウはできるだけ公にしていかないと、長期的には業界全体が損をすることになると思います。
河内 特許技術ではそんなに儲からないのです。それなら、各社で水平展開してもらった方がいい。ただ、技術提案という制度があって、その部分を会社は守らないといけないので、オープンにできないことがあることもわかりますが。
――(編集部)橋梁の分野でもそういうことはあって、さまざまな会社が補修・補強工事でディテール技術を競っている。そこである具体例を書こうとしたら止められました。オープンにしてみんなで共有して横展開していくことが理想だと思います。
河内 土木分野はとくにそうですけど、経験工学で行います。経験や成果は、伝承や周囲に発信していくことが重要です。