シリーズ「コンクリート構造物の品質確保物語」⑱
南三陸国道で行われる受発注者の協働思考 「義務感」と「責任感」
横浜国立大学
大学院 都市イノベーション研究院
准教授
細田 暁 氏
インタビューシリーズの第六回目は、国道45号釜石山田道路小槌地区トンネル工事現場で代理人を務めた西松建設の河内正道氏に話を聞いた。トンネル覆工コンクリートについて具体例を交えながら、与えられた条件下で施工する職人魂、それを惜しげもなくさらすことによる横展開の重要性。そうした新しい知見を技術標準にすることの大切さについて双方が熱く語り合う内容となった。(聴き手:細田暁・横浜国立大学准教授)(編集:井手迫瑞樹)
施工業者は使用するコンクリートを選べない
与条件の中から最善の手法を選択
細田准教授 まず、覆工コンクリートの品質を良くするために、どのような情熱を持って取り組まれたのかをお聞かせください。
河内 (覆工コンクリートの品質は)技術提案でも必ずあがるテーマです。これまでトンネルの施工を7、8本やっていますが、将来的に形として残っていくものなので“作品”をつくらなければならないという思いがあります。
施工側からすれば、使用するコンクリートは選べず、現地で調達するしかありません。現地で品質のよくない骨材を使用していたとしても、その骨材を使用せざるを得ない状況は発生し得ることなので、条件が悪いところでも結果を出さなければなりません。
今回の「鵜住居第2トンネル・小鎚第1トンネル」工事でも、技術提案で収縮低減型高性能AE減水剤などを使うことにしました。ただ、それは当たり前のアプローチであって、覆工コンクリートに補修が必要な状況になってしまえばかなりお金がかかるので、そういう状況にならないよう、いろいろ工夫はしています。
コンクリートの場合、プラントでは2つか3つくらいの条件から選択することになります。そのなかで最善のものを選択しないと必ず失敗につながります。
金沢大学の鳥居和之教授も仰っていたことですが、骨材によってコンクリートの質は決まりますので、技術者としてはまずそこを見極めなければなりません。
実を言いますと、鵜住居第2トンネルでは、10ブロック程度覆工打設が完了したところで、覆工コンクリートの施工業者を変更しました。掘削作業と同じように、覆工コンクリートの施工もチーム仕事ですので、上手くいっていないと思ったら変えます。
結局、人次第です。覆工の検査は終わりましたが、思ったよりも直すところが少なかった。それでも鵜住居第2トンネルと小鎚第1トンネルあわせて、25ブロック程度、修復するところがあります。やはりどれだけ努力しても、ひび割れが入ってしまうところはあります。ひび割れた場合は、そこをきっちり直すわけです。
細田 現場で熱心に覆工コンクリートの作業をやってくれている職長さんがいましたね。
河内 生コン打ちは単純作業に見えますが、楽な仕事ではなく信念がないと作業としてやっていけません。またいろいろと計算もできなければ親方も務まりません。きちんとした作業を行うという義務感、責任感があることがまず重要です。そして、そういう意識が強い人がいると仕事が上手く回ります。
安いシートで養生を行い、
作業効率化とコスト削減を実現
細田 今回の施工で技術的に上手くいったところを教えてください。
河内 安い農業用シートで覆工全面を養生できたことです。ご協力いただいた先生方や企業先に対しても個人的には深い思いがあります。
たとえば300mのトンネルで養生台車を使用して1ブロックあたり10人で高級な養生をすると、3,000万円くらいかかりますから、コストの半分を使うことになります。そこで短いトンネルだけれど、何かの工夫をしたいという思いがありました。
細田 シートを完全にコンクリートに密着させなくても、シート内の湿度は高く保たれてましたね。手間はかかるかと思いますが、短いトンネルだから可能だったということもあるのだと思います。
――(編集部)トンネルの長さは何mですか。
河内 309mで、全面養生です。結局、実績が出ないと技術提案として成立しないかもしれませんが、普通の養生よりも効いていると思います。安いお金で長期間できるというのも利点です。
弊社では「バルーン」などの特許も持っていますが、コストがかかり、その成果はわかっていたので、もうちょっと工夫をしたいと考えて行き着いたのが、安いシートでの養生です。先にも話しましたが、短いトンネルでフルスペックの養生を、養生期間1カ月でしようと思ったら、すごいお金になります。
細田 既設ブロックとの付着を切るためのシートも開発されましたね。
河内 あれも同じ発想です。効果が同じであれば手間をかけてやる必要はないと思っています。1万円をかけてやったことと、1,000円をかけてやったことが同じであれば、やはり1,000円の方を取ります。発想としては昔からあったので、今回はそれをやらせてもらいました。
工夫という点で例をあげれば、NEXCOさんでは目地部が問題になっていて、台形の目地が三角形になったり、どんどん変遷してきています。損傷するジョイント部に、ツマをきれいにするためにペンキを塗った時代もあったし、磨いた時代もありました。
またボックスカルバートは、昔はエラスタイトの目地材を入れていましたが、8年前にくらいにそれが落ちて問題になりました。目地材が経年劣化してくると一体化できなくなって、目地から落ちるのです。落ちるのは怖いので、ビニールなら落ちても迷惑がかからないと、前任の佐藤和徳所長に提案しました。そこで試しにやってみたら好評でした。発想というものはそのようなところにあると思っています。
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