シリーズ「コンクリート構造物の品質確保物語」⑰
南三陸国道で行われる受発注者の協働思考 「対話」の重要性
横浜国立大学
大学院 都市イノベーション研究院
准教授
細田 暁 氏
膨張材 パラペット打設時の品質確保には大きく寄与
構造的にひび割れをゼロに
細田 膨張材は使われたことがありますか。
菊池美 ないです。
細田 私の博士論文のテーマは膨張コンクリートでして、詳しく説明できると自負しています(笑)。例えば橋台のパラペット(胸壁)のひび割れ抑制には効果が大きいですよ。それに比べるとたて壁では少し効きにくいイメージを持っています。
最大のポイントは鉄筋をしっかり入れること。なるべくなら2方向、3方向に入っている方が良いのですが。しっかり膨張を拘束してあげることがポイントです。そういう意味でパラペットでは適切な施工と必要に応じて膨張材を活用することでひび割れをゼロにできると思います。あの施工をされれば、誘発目地なしでもひび割れをゼロにできます。これってうれしいですよね。
菊池啓 うれしいですね。
細田 ボリュームも竪壁に比べて少ないので、そういう意味でも効率的です。
菊池美 ボックスカルバートにも効くのですか?
細田 効きますね。ただボックスは壁厚も小さいから誘発目地でも良いとは思います。コンクリートのボリュームも大きくなりますよね。壁と頂版を一緒に打つとなると。
菊池美 そうですね。
細田 品質確保は費用対効果も真剣に考えて対策を考えるべきと思います。例えばNATMトンネルの二次覆工コンクリートに膨張材を使う事例がありますが、効果についてはきちんと検証すべきだと私は思っています。
菊池美 この話を聞いてパラペットには今後膨張材を使おうと思います。
細田 技術者としての今後の抱負は。
菊池美 コンクリートの施工的にはほぼ今回のやり方で確立したかな、と。あとは新しく開発された技術が出てきた時にそれを使用してもっといいものを作っていければ、良いかなと思います。
橋台背面の防水としてCS-21を塗布
今後供給される凍結防止剤含有水の浸透を抑止
細田 小佐野高架橋A2では背面に含浸材を塗布されたじゃないですか。表面含浸材も研究すると面白くて、シラン系の表面含浸材の場合、ひび割れの個所に塗布した時の効果や、含浸材がどれくらいの厚さまで入っているのか、など研究している方もいらっしゃるので、ネットワークの中でそういう方々とも対話していくと、すぐに実践的な知見を得ることができます。我々も現場の実構造物で勉強させていただくといろいろ吸収できます。みんなでやっていくことが何かにつけていいと思うのです。
菊池美 今回使ったのはアストン協会のCS-21(けい酸塩系)です。同製品を用いてひび割れ対策を施しました。
編集部 どの段階で塗布しているのですか。
菊池美 施工が終わって、ひび割れが発見された段階です。
細田 最後、橋台背面に盛土するわけですが、その盛土に覆われる(背面からの凍結防止剤を含有した水の侵入が懸念される)裏側の面に予防保全として塗布されたと聞いています。
テラさんがやられた品質確保を代表例の一つとして、東北地整管内では、品質確保の取組みが非常に進んできています。全国にも波及しており、群馬県では東北地整と同じような取り組みが何十件もの試行工事として行われています。群馬県でも、現場の監督官の意識もだいぶ変わってきていますよ。良い品質のコンクリート構造物を製作する仲間が増えていかないと、結局様々なことが変わっていきません。国土交通大臣にもこの取り組みについて提案しており、ご理解はいただいています。東北の取組みが熊本地震からの復興を目指す九州においても援用されることが期待されています。
一方で、テラさんが施工した小佐野高架橋A2では高炉セメントを使用しましたが、コンクリートの耐久性を各地で本当に上げようと考えれば、フライアッシュや高炉スラグを場所に応じてうまく使わないと、ASRの発生などを根絶できません。これがこれからの大きな課題の一つと考えています。
スペシャリストの技術継承は現場で
学がインハウスエンジニアリングの知見を増やす手助けを
編集部 人の手が変わっても同じような施工ができるようにしていきたい、と先ほどおっしゃられましたが、現在御社の従業員は何人ほどおられますか。
菊池美 100人ほどです。
編集部 小佐野高架橋に携わった方の人数は。
菊池美 20人ほどで全てコンクリートのスペシャリストです。今後は、こうしたスペシャリストの技術を、世代を繋いで継承していくことが重要であると考えています。
細田 スペシャリストの平均年齢は。
菊池啓 ちょうど40歳くらいです。一番下で25歳です。実地で(老若が)一緒になって仕事をしていく中で、伝えています。やはりコンクリートに関する技術は現場でしか伝えられないことも多いですから。
菊池美 「テラ」はギリシャ語で無限、地球、あるいは土を指します。この名前に従って土木において限りなく技術を追求していこうというのが社是であり、これに従って社内がポジティブに動いているのも大きいと思います。
編集部 発注者に対して言いたいことは。担当する監督官によって大きく現場の環境が変わってきますが。
細田 それは企業からは言えないでしょう。学も頑張り、官側に多くの知見を提供して意識を変えなくてはいけないと思っています。
菊池美 (苦笑)手間本監督官は足繫く通うだけでなく、問題点を指摘してくれてかつ、その対策方法を一緒になって考えてくれました。我々にとっては課題を指摘して「あとはよろしく」ではなく、一緒になって考えて頂くことで、業者に親身になっていただきました。
編集部 構造物の品質をより良くするという目標のために必要な費用を支払うという判断ができる、ということですね。それによりイニシャルコストは上がるけど、LCCは減らすことができるわけですよね。しかも実際はこの現場においてはひび割れ抑制鉄筋の採用により、従来の対策よりもイニシャルコストも下がったわけです。
細田 こうした知見もあり、判断も的確にできるインハウスエンジニアを育てるべく、業界全体で取り組むことが今後ますます重要であると感じています。我々学の側も現場での共同研究や講習会などを通じて、その一翼を担っていきたいと考えています。ありがとうございました。