-分かっていますか?何が問題なのか-㉒予想しなかったプレストレストコンクリート橋の欠陥と業界の体質(その1)
これでよいのか専門技術者
(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員
髙木 千太郎 氏
はじめに
今回から2,3回程度の連載でプレストレストコンクリート橋に関する話題を提供することとする。なぜ今、この話題に触れて話をしようと思ったのかは、私が以前から機会あれば提供しようと考えていた2年越しの話題であり、その機会を窺っていたからである。私にその気にさせた機会とは、皆が触れるのを恐れていた文部科学省と著名な大学との天下り実態が明らかとなったことである。日本総合研究所の主席研究員である『藻谷 浩介』氏もテレビで本件に触れて話していたが、日本のキャリア体質が問題なのである。国のキャリアには、確かに優れた超一流の人材が数多くいることは私も地方自治体にいたことから、十分認識もしているし実感もしている。しかし、その中には国家公務員上級職に受かるために全能力を使ってそのポストを手に入れ、そのポストに就いたと同時に、あれほど熱意のあった向学意欲を全く失い、後はエレベーターに乗って80歳まで与えられたポストにしがみ付く惨めな状態となる人材も多くいる。優れた人材であれば、自分からの売り込みも必要な時もあるかもしれないが、一般的に種々な組織から引く手あまたとなるはずで、キャリア人材は他の人よりも高い素養があることを自覚すべきなのである。格言に「金剛石も磨かずば、・・・ただの石」があるが、これは人も同様で、磨いた結果ダイヤモンドになったとしても、常に磨きをかけなければ輝きを失うことを忘れてはならないことを。たとえ話に、兎と亀があるが、国内のトップレベルの素養を持った人(兎)でも日々の鍛錬を行わなければ、強気の態度だけでは一般社会や他の組織から評価はされず、地位を失った途端、ただの人以下になるのである。日々自己研鑽し、努力することを嫌とも思わない駄馬(亀)に結局最後に追い抜かれる。今回のプレストレストコンクリート橋に関する話題は、業界の体質、優れた技術者と他から評価されていても、レベルが下と分かるや否や態度を急変させるプロフェッショナルが多く、思い上がることは重要な失態となること肝に銘ずる話である。まずはプレストレストコンクリート橋について原理や製作方法等についておさらいをしよう。
1.プレストレストコンクリート橋とは?
道路橋を事例とすると、プレストレストコンクリート橋(以下、PC橋)とは、橋梁上を走行する自動車荷重(活荷重)や自重(死荷重)などの各種荷重作用によって生じる応力を減殺するように、逆方向にプレストレッシングによる応力をあらかじめ与える構造原理を使った橋梁のことである。であるから、PC橋において、PC鋼材によってもたらせるプレストレッシングはプレストレスト構造として成り立つためのキーポイントであることはお分かりと思う。PC橋の製作方法には、現場で緊張作業を行うポストテンションタイプと工場で緊張作業を行うプレテンションタイプの2種類がある。より細かく説明すると、現地に製作ヤードがある場合は、現場で緊張作業(プレストレッシング)を行うポストテンション方式によって主桁を製作し、下部工上に移動させて架設し、その後荷重分配等で必要な横桁を打設し主桁間に間詰床版を築造、PC鋼材によって橋軸直角方向にプレストレッシングすることで一体構造とする製作架設工法である。現地ヤードが無い場合は、工場で緊張作業を行うプレテンション方式によって主桁を製作し、架設現場に輸送し、その後はポストテンション方式で説明した方法と概ね同一方式で架設する方法が一般的である。PC道路橋は、これまで国内の中小橋梁に数多く採用されている。その理由の第一は、製作架設費用の総額が安価であると判断されていること、第二には、供用開始後の維持管理作業が鋼道路橋と比較して少ないと考えられていたからである。ここに示すように信頼の高いPC橋の中でも採用事例が多いのは、写真‐1(写真図表は筆者提供、以下同じ)に示すPC床版橋と写真‐2に示すPCT桁橋である。
今回、私が何度も執筆する機会を窺っていたのは、図―1に示すPCT桁橋の話である。