道路構造物ジャーナルNET

シリーズ「コンクリート構造物の品質確保物語」⑭

南三陸国道で行われる受発注者の協働思考 「品種改良」と現場力、リーダーシップ

横浜国立大学
大学院 都市イノベーション研究院
准教授 

細田 暁

公開日:2016.12.28

技術というのは開発
 「ひらめく」には貪欲に取り込むことが大事

 ――どうして切り込んでいこうと考える熱血漢になったんですか。
 田中 もとからそうですね。
 ――経緯を詳しく教えてください。
 田中 私は、技術というのは開発だと思っています。社会が要求してくるものを開発していくのが技術力だと。そのためにも経験だとか、知識とか、色々なことが必要になってくるわけですが、その中で一番大切なことが、「考える」ということです。エジソンが結構好きで、エジソンの有名な言葉に「発明は99%の努力と、1%のひらめき」というのがあります。99%の努力をしても1%のひらめきが無ければできない、というのが私の解釈で、その1%のひらめきを求めていくのが技術者だと思っています。だから課題が出てきた時に、パっとひらめくことができるようになりたい。それを施工者として、実現できるようなものにするのが、施工会社の技術力だと思います。


気泡除去棒とそれを使用しての床版コンクリートの打設

 ――ひらめきってどういう風にすれば身につくと思いますか。
 田中 いろんな人と関わって、さまざまな試行錯誤を経ることですね、それも土木の経験ではなく、例えば違う事も経験することです。例えばそば打ちだったり、変な話ですけど、稲を刈ったり、パソコンを作っているところを見に行ったり、そういう社会見学ですかね。小学校の時はあまり好きではありませんでしたが、今はそういうのが大好きで、そうすると様々なヒントがあったりするわけです。

いたずらは最高の技術開発
 やりすぎ作戦と常に疑う作戦――巻き込んで思考させる

 ――私もまったく同じような感じで、ちょっとした情報を感性でキャッチしたり、ひらめくためには、やっぱり真面目に生きている必要があって、常に考えている人じゃないとそういうことは出来ないと思います。1ヶ月半前位に岡山の両備HDの小嶋光信さんという、年商1300億くらいの企業グループの社長のレクチャーを受けました。この人は地方で疲弊している公共交通、バスとか電車事業の再生請負人といわれているすごい人なんですけど、彼の話の中に「いたずらは最高の技術開発」との発言がありました。やったことも無いことをやるわけですから。遊び心を持って楽しく考える。そういうのが多分大事なんだろうな、と思います。
 田中 今回の現場では、公にしていない失敗が実はいっぱいあります。例えば竹やりで生コンを打ってみました。昔の橋は竹やりを打設の際に使って結構長持ちしているものが多くてやってみたのですが、現代人はそこまで体力が無いですね。だんだんと詰まっていかなくなりました。他にもスランプ3㌢で施工を試みたこともありますが、とてもじゃないですが打てませんでした。
 ――でも練習ですよね。
 田中 練習です。実物ではないです。スランプの話しの続きですが、5㌢は少しきつくて、6㌢くらいになると良いんですけど、ただ、6㌢って意外とスランプが安定しないんですよ。
 ――硬すぎたりする。
 田中 そうです。その結果感じたのは、8㌢というのはすごく妥当で、安定して、打ち込みができるんだな、ということを現場全体で納得しました。
 ――それは生コン屋さんが慣れているからとかではなく?
 田中 そういうものもあるかもしれません。ただ、私と作業員の一致した意見は、スランプについてコンクリート標準示方書が規定している8㌢は合っている、正しいという結論に至りました。そういうくだらないことをやるのが、私、大好きなんです。
 ――まさにいたずらですね。
 ――(編集部)良い構造物を作るために必要なのは、結局ゼネコンが元請けで入る訳だけれども、打設するのは一次下請け以下の技術者だという形で、田中さんのように個性があって、指導力がある方だったら、笛を吹けばみんなが躍ると思うんですけど、やっぱり、笛吹けど踊らず、ということも実際にはあると思うんです。そういった中で、職人不足、技術力不足という課題をどのようにクリアしようとしているのでしょうか。例えば会社によっては一次下請けとか二次下請けくらいまでをチームとして囲い込んでいくという会社も出てきていますよね。IHIインフラ建設や田中さんが指導している下請とどういう風にそうした事態に対処しようとしているのかを少しお聞きしたいです。
 田中 うちも基本的には、専属で抱えている下請会社はあります。しかし、育てるというのはあまりやっているとは思えません。僕個人としては、今まで培ってきて有効的だった作戦が2個あります。一つはやりすぎ作戦です。
 ――(編集部)それはどういう作戦ですか。
 田中 やりすぎちゃう。例えば、職員、僕たちと現場の所長が、生コンを打継目を作らずに打つんだという訳のわからないことを言い出します。ポンプ車を10台でも20台でも入れてずっと流し込んで打設するんだと、という事を言うと、みんな、「えっ」と思いますよ。こいつ何言ってんだと、驚かせることが大事で、えっと思うと人間って人の話を聞くんですね。そして文句を言ってくるわけですよ、そんなの出来るわけない、と。そうしたらしめたものですね。もう相手は聞く耳を持っていますから。そうじゃなくて、もうちょっとやり方あるだろ、と話に乗っかってこさせるわけです。
 ――(編集部)なるほど。面白いですね
 田中 基本的に現場で作業に直接従事する方々は、すごく純真なんですよね。だから、よしやろう! と思ったらすごくやるわけですよ。仲間意識も強い。だから、驚かせて注意を引くわけです。
 ――(編集部)もう一つは。
 田中 常に疑う作戦です。
 ――(編集部)それも面白そうですね。
 田中 例えば、示方書などに書いてあることについて、突然、こんなことはやらなくて良い、間違っている、とか考えるわけです。それで、作業員にその考え方を伝えると、また、「え」っと驚くんですよ。そして作業員が、そのやり方だと大変なものが出来るぞと、言って来たらもうこっちのものです。じゃあどうやったら良いものが出来るんだ、と考えさせるわけです。
 ――(編集部)なるほど。
 田中 そうやって、既成概念を取っ払い、自分たちが今まで信じてきたことを否定すると、すごく食いついてくるわけです。
 ――(編集部)結局、考えるというところに合致していますよね。自分だけが考えるのではなくて、相手にも考えさせるためのモチベーションを上げるためにわざとそういったことをやるという事ですね。
 田中 そうです。僕たちがやり方を指示しても、納得しないとやってくれません。だから、相手が聞く耳を持つようにしないと駄目だし、俺がこうやって言ったから、所長がその意見を取り入れて決めたんだ! ということを凄く誇りに感じてくれるんです。だから、例えば大学の先生や国交省の技官が現場に来るなんて言ったら、彼らからすればすごい誇りなんです。うちの現場を大学の先生に見てもらって、それで良いのが出来ていると言われた、というのが。それでやる気になるわけです。
 ――たくさん見学も勉強もさせていただきました。
 田中 作業員が発奮して、良いものを造ろうって思ったところに、僕たち元請けがいるから、チームとして一つにまとまって、良いものができると思います。
 ――ありがとうございました。

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