シリーズ「コンクリート構造物の品質確保物語」⑬
南三陸国道で行われる受発注者の協働思考 「コミュニケーションツール」を使って より良い構造物の実現を目指す
横浜国立大学
大学院 都市イノベーション研究院
准教授
細田 暁 氏
実際に施工するのは協力業者
作る人と管理する側の共通認識が必要
――視点を変えて、監督側の方はいろんな業者も見る機会があると思います。大手もいれば、テラさんはそんなに小さくないと思いますけど、様々な規模の企業、技術力を有する技術者がいると思います。施工者とお付き合いして、どのようなことを感じますか。
手間本 (コンクリート構造物の施工という点では)大手もテラさんもあまり変わらないかな、という感想です。
かなりの部分で協力会社さんの力が物を言います。特にコンクリート構造物の場合は、鉄筋屋さん、型枠屋さん、コンクリートの打込みは自社でやっている場合もありますけど、それでも協力会社の人が来て打込むということがほとんどです。大手とはいえ、協力会社のレベルで大分左右されるところがあります。
――(編集者)こうした技術が東北地方整備局で浸透している一方で、北海道開発局にいくと豪雪のため、養生を短期化し、その分を膨張材などで補っている現場があります。劣化要因は塩害(凍結防止剤含む)、凍害とほぼ同じであるので、こうした取り組みが伝播してほしいと思います。
手間本 こうしたシステムを活用するに当たっては、北海道の不具合にどういうものが出ているか、というところから始めなくてはなりません。不具合の出方とかモノが違うんだとすれば、アプローチの仕方も違いますし、当然施工条件も環境条件も違います。できる中でどういう方策を選ぶかということです。目的はあくまで、品質の確保、長期耐久性の向上です。アプローチ方法が変わっても、長持ちするものができれば良いと思います。北海道も様々な厳しい条件があると思います。損傷状況をしっかり見て、品質確保手法を決定することが重要だと思います。
――作る側の論理で進んでしまうと、確かにこれだけの工期で作らなければいけない、という正論なんですけど、さっき手間本さんが仰ったように、長持ちする、ストック効果をしっかりと発揮するようなインフラを作ることが目的の一つで、それは北海道に合った品質確保の仕方は必ずあると思います。
2点だけお話ししますが、佐藤和徳(前南三陸国道事務所長)さんが以前、これまでは役所の中でも作る人たちと管理する人たちは必ずしも一体的にやってきたわけでは無いと仰っていました。実態の大変さは管理側は分かっていましたが、なかなか作る人たちにフィードバックが出来ない。5年の点検が入りはじめたので、白日のもとに晒されるとまでは言わないけど、もう逃げ隠れできなくなるんじゃないかと。東北が上手く行き始めたのも、その実態をちゃんと作る側の人たちが見たっていうことですね。手間本さんがやられたことはその第一歩かな、と感じます。
2点目は、この東北の取組みは1つのローカルの取組みで終わる段階はもう終わっています。本省とも連携が始まっていて、この品質確保の手引き等を各地整に展開していきたいという話になってきています。ただ、東北で作ってきた品質確保の手引き、トンネルや一般構造物版をそのまま北海道に使えるか、九州に使えるか、というわけではありません。地域ごとの特性等を考えて、作りこんでいく必要があります。「道」はできてきているので、不退転の覚悟で皆やっていきます。その時にすごく大きいのが、東北ですでに実例があるということです。ぜひ、引き続き手間本さん頑張って下さい。
手間本 ありがとうございます。
――ひび割れ抑制の手引き、参考資料も今皆で作っていますけど、小佐野での実践例があるというのがすごく大きい。常に実践と仕掛け作りが必要です。もう一つ聞きたいのですが、こういう協働的なクリエイティブな取組みが続いていけば良いと思うのですが。発注者、受注者、コンサル、PPP等、それぞれのプレーヤーについて期待することはどのようなことですか。
手間本 (技術者として)考えることを止めないで欲しいと思います。構造物の品質を確保し長寿命化を図るためには、それぞれの役割を十分理解したうえで、人任せにせず、それぞれが問題意識を持って、共に考え対話をすることが一番だと思います。役割の違いはあっても、皆、技術者ですから、「いい物を作ろう」とアイディアを出し合い相談し合える現場は、きっと「長持ちする、いい物」ができると思います。
――同感です。中々こういう雰囲気にしていくこと自体が難しいというか。手間本さんはこれまでのご経験とかを踏まえて、自分だったらこういうことができるとか、仕掛けていけるとか、どういう作戦を実行したのですか。
手間本 東北地整は橋梁(設計施工)マニュアルを今年の3月に改定しました。それにも携わらせてもらいました。内容はコンサルさんとの話し合いです。今は現場を担当していますが、コンサルさんと設計の話をしていても、同じなんですね。画一的に示方書等に書いてあることに当てはめると、たまに思考停止に陥るのではないか、と思います。示方書等に謳われている基本は大事です。しかし現場の状況によっては、そのまま当てはめることが本当にベストなのか、と考えることがきちんとできれば、もっと良いものになるでしょう。マニュアルに書いてある通りにやってでる不具合を見ていると、ほんのちょっとの配慮不足で生じています。例えばスラブドレーンの穴抜きの位置が悪いとか、たったそれだけです。ほんの少し考えて、例えばフランジの位置を考慮してドレーンの位置をずらせば、本体構造物は良いものを作っているのですから早期に劣化することはないわけです。ほんの少しの配慮不足をなくすために、皆で考えていかなければならないのではないでしょうか。
――(編集者)これはすごく重要な指摘だと思います。今のドレーンの話はまさにそうで、少し長くすれば、下フランジの上面に水がいかなくなるのに、ちょっと短くしただけで上面に水が溜まってしまって、腐食を招いてしまうとかですね。そういう事例が結構あります。どういう風に良い(細部構造までを話し合える)雰囲気にしたのですか。
手間本 良い雰囲気ですか。問題意識を共有することですかね。
思考停止をやめよう
――考えようって語りかけることですよね。
手間本 そうですね。東北地整の設計施工マニュアル改訂の前に、前所長の佐藤さんと一緒に「新設橋梁の排水計画の手引き」をまとめました。これは今までの不具合事例を見て、排水計画についての配慮を示したものです。但しこれは、そのように行いなさい、という命令的なものというよりは、哲学を示した部分が多いです。今、私が担当している橋梁上部工を受注した業者さんにはこの手引き渡して、こういう観点で一回設計を見てくれないか、というお願いをします。それでスラブドレーンの位置をずらしたり、水切りの勾配をもう少し付けたほうがいい、というような相談をします。
――これは、別の言い方をすると思考停止をやめよう、ということですね。二宮さんもそうですね、品質確保ガイドというのは考える時の参考資料にして欲しく、マニュアルでは無いと仰っていました。考えるということがこの取組みの根底にあるのかな、という気がします。それが楽しいんですね。
手間本 スラブドレーン以外でも、伸縮装置にもドレーンパイプが設けられているものがありますが、それを何も導水もせず、ダラダラと橋座面に垂れ流しにしていたこともありました。それはまずいということで、導水することだけをマニュアル化すると、何も考えずに、マニュアルに引っ張られるように、ずら〜っと2、3㍍もつけて導水したりするんです。しかしゴムの口に何メートルも金属製のパイプのような重たいものをくっつけたら、風で揺れて切れますよね。だから、ただマニュアルに従うだけでなく、支えをとるなどの工夫してほしい。桁の高さも全て同じではありませんから。それを考えるのが多分技術者なんじゃないかな、と思うんです。
――ありがとうございました